第356話 掌

【 慎太郎・みく 組 ??? ??? ??? 】



「た、タロチャン…?なんそれ…?」



ーー慎太郎が手にするゼーゲンを見てみくは驚きを隠せない。



「師匠からの贈り物かな。さてと、みく、下がってて。絶対勝つから。」



ーー慎太郎はみくへ向かず、言葉だけで想いを伝える。目は前にいるミリアルドから離す事を決してしない。



「…わかった。タロチャン、死んじゃヤダよ?絶対勝ってね?約束やからね!」



ーー慎太郎はみくの言葉に無言で応える。みくもその想いを理解する。

このイベントで2人の距離は相当に縮まった。お互いの気持ちなど目を見なくても、話さなくても伝わる。確かな絆が2人に確立した。



ーー慎太郎がゼーゲンを鞘から引き抜く。

一度見た剣ではあるが、自分の手で握ってみるとどれだけ凄い剣なのかが良く分かる。身体に漲る力、五感が研ぎ澄まされる感覚、万物の全てから聴こえる呼吸、その全てが今まで慎太郎が得た事の無いものであった。



「スゲーな…どれだけ凄い剣なのかが良く分かる…」



ーーゼーゲンは皆同じでは無い。一人一人違うのだ。所持者と共に成長し、与えてくれる力も違う。

簡単に言えば、実力の無い者がゼーゲンを使ってもゼーゲンは成長しない。解放度が上がってもパラメーターに差が出るのだ。

当然ながらその形状なども変わって来る。そして、最終解放に至ったゼーゲンには特殊能力が備わったりもする。

何より重要なのは、ゼーゲンは所持者でないと扱う事が出来ない。所持者以外の者が振るったとしても何の効果も与えてはくれないのだ。

だが、慎太郎には明らかにゼーゲンの効果が与えられている。その名の通り、確かな『祝福』が。



「ほう…確実にそのゼーゲンの祝福が貴様に与えられているな。」


「ゼーゲンを持ってんだから当然だろ。」


「分かっていないようだな。ゼーゲンは所持者にしか扱う事は出来ん。ゼーゲンが拒絶をするのだ。」


「じゃあなんで俺は使えんだ?」


「ゼーゲンが貴様を認めたという事だ。所持者として。」


「別にそんなおかしい事でもないだろ。動物だって飼い主以外に懐く事だってあんだから。」


「そんな事起こるはずが無い。歴史上、そのような事が起こった例は一度たりとも無い。貴様とリリは一体なんなのだ?」


「さあ?そもそもそのリリって誰?」



ーー慎太郎はミリアルドの問いを惚けた感じでスルーする。

このゼーゲンがリリの物だという事は当然理解している。だが、それが露見してしまえばリリの立場が悪くなる事ぐらいわかっている。だからこそ慎太郎は知らぬ存ぜぬという姿勢を示したのだ。



「フッ、惚けられるとでも思っているのか?リリのゼーゲンは完成度の高さから”国宝”に選定されている。我々の誰もがそのゼーゲンをリリの物だと思うだろうよ。」


「いや、知らんし。偶然の一致だし。」


「安心しろ。この部屋はログが残らない。だからこそリリも貴様にそれを渡したのだ。だが解せん。貴様とリリに何の絆がある?軽い絆ではここと外の空間を繋ぐ事は不可能だ。相当の絆が貴様たちに無ければ絶対に出来ない事なのだ。」


「だから知らねーし。」


「恐らくは芹澤たちとでさえ扉を開く事は不可能だ。それなのに何故リリなのだ?」


「しつこい奴だな。知らねーっての。」


「そうか、答えないつもりならその体に直接聞くとしよう。」



ーーミリアルドから突風のような剣気が吹き荒れる。その凄まじいほどのプレッシャーに、離れた場所にいるみくが尻餅をつきそうになる。みくはこれだけの圧力を未だかって感じた事が無かった。それほどまでにミリアルドという男は強大であったのだ。


しかし、慎太郎は動じる事は無い。先程までと何ら変わらない穏やかで落ち着いた状態でミリアルドと対峙する。

みくを守るかのように慎太郎も剣気を放ち、ミリアルドの剣気を相殺させ、その圧を無効化する。



「ほう。流石はリリのゼーゲンだ。貴様程度の者にここまでの力を与えるのだからな。」


「リリ、リリってしつけー。そんなにリリが好きなの?好きな子の事が気になってしょうがないの?」


「剣の腕の方はどれだけ上がっているかな?しっかりとついて来いよ。」



ーーミリアルドが鞘からゼーゲンを引き抜く。その刃は神聖さを醸し出してはいるが、それと同時に邪悪さも帯びている。

そんな凶悪な刃が慎太郎へと襲い掛かる。



ーー慎太郎は己が持つゼーゲンにてミリアルドのゼーゲンを受ける。


ーー聖と邪。


ーーその両端に位置する剣が激しくぶつかり合い、漆黒の室内に蒼白いエフェクトと紫色のエフェクトが駆け抜ける。


ーーミリアルドの剣閃が煌めく。その滑らかな太刀筋は斬られた事すらも忘れてしまいそうであった。事実、ミリアルドが幾度と無く斬って来た連中は自分が斬られた事すらも理解する事無く、絶命して来た。

そんな彼の剣を慎太郎はいとも簡単に受け捌く。その姿を固唾を飲んで見つめていたみくは、慎太郎の勇姿に見惚れていた。



「…どうやら本当にゼーゲンの『祝福』を受けているようだ。それに…貴様の剣はリリやサーシャのそれと同様。未熟には違いないが、剣だけの戦いでは俺とこのままやり合っても決着はつかん。」



ーーミリアルドがゼーゲンを鞘へ納める。



「何戦い終わろうとしてんだ?俺はやめねーぞ?」



ーーそう、慎太郎はやめるわけにはいかないのだ。ミリアルドにはリリがゼーゲンを貸してくれた事に気付かれている。このままミリアルドを帰してしまえばリリの立場は間違いなく悪くなる。それだけは絶対に避けなければならない。慎太郎はミリアルドをここで討つしかないのだ。



「ここで俺を逃せばリリの立場が悪くなると思って焦っているのか?フッ、さて、リリをどうしてくれようかな。」



ーーミリアルドが不敵な笑みを浮かべて慎太郎を挑発する。



「…テメェ、リリに何かしたらどこまでも追っかけてテメェをぶっ殺してやるからな。」



ーー慎太郎が殺意に満ちた目でミリアルドに対して凄む。



「だったら強くなれ、田辺慎太郎。俺からリリを守れるようにな。」



ーーそう言い残し、ミリアルドは指を鳴らす。

慎太郎とみくの見る空間が捻じ曲がり、強制的に転送させられた。

これにて二重イベントの全行程が終了した。






















『役者になれたのではないか?』



ーー扉が開き、外から仮面を被ったモノが入って来る。



「そうだろう?我ながら良い芝居をしたと思っている。オスカーを取れたかもしれんな。」



ーーミリアルドが仮面を脱いだアインスと談笑を始める。



『どうだった、彼は?』


「世辞抜きであのまま俺とやり合っていたら勝負は着かなかっただろうな。」


『ほう。お前にそこまで言わせる程というわけか。』


「奴自身の才覚もあるのは確かだ。だが、師匠の腕だろう。まさかリリが助け舟を出すとは思わなかったがな。俺のシナリオでは綿谷を殺し、激昂した田辺が”覚醒”する予定だったのだが。嬉しい誤算だ。」


『ああ。リリか。クク、やはりとしか言いようがない。』


「知っていたのか?」


『いや?知りはしなかったさ。サーシャが鍛えているのだと思っていたよ。』


「お前の言い方はリリであってもおかしくないように聞こえるぞ?」


『クク、ミリアルドよ、お前は輪廻転生を信じるか?』


「悪いが俺は宗教的な話は信じていない。」


『そうか、それは残念だな。』


「それと何の関係がある?」


『ククク。』


「ふぅ…やれやれ。お前がその笑いをする時には答える気が無い時だ。」


『推理小説で最初に犯人を聞いてしまったらつまらないだろう?』


「わかったわかった。その時まで待つさ。で、リリはどうする?この件について咎めれば牢獄送りに出来るぞ?」


『いや、いいさ。』


「まさかそれもお前の計画の内か?」



ーーアインスが不敵な笑みを浮かべる。



「おいおい。恐ろしい男だな。」


『リリはツヴァイと袂を分かつさ。必ず。』


「根拠は?…いや、いい。答える気は無いだろうからな。」


『理解が早くて助かるよ。さて、俺は田辺慎太郎と綿谷みくのリザルトへ行くかな。』


「俺は風呂に入って休ませてもらうぞ。」


『そうだ、桃矢が死にかけているから回復させてやってくれ。』


「何をしているのだアイツは。島村にやられたのか?」


『芹澤だ。』


「…どういう事だ?」


『芹澤に『グローリエ』を渡した。』


「何だと…!?何故だ…!?芹澤には”エリプセ”を渡すはずだろう…!?」


『悪いが最初から『グローリエ』を渡すつもりだった。お前と桃矢にはあえて言わなかった。許してくれ。』


「『フライハイト』、『フリーデン』、『グローリエ』と封を切ったのか…恐れ多い…だが解せん。何故芹澤に?まさか…芹澤もお前のお気に入りだというのではあるまいな?」


『ミリアルドよ、俺のお気に入りは相葉美波さ。島村牡丹と芹澤楓は”贄”だよ。』


「結城と綿谷もか?」


『クク、綿谷みくもそうだな。でなければ《風成》など与えたりしない。』


「恐ろしい男だ…。結城は違うのか?」


『結城などどうでもいい。フレイヤが欲しいだけだろう。俺の計画外だ。』


「だが結城が死んだらフレイヤが黙ってないぞ?」


『”依代”ならあるだろう。』


「”もう1人の女”の事か?蘇我と”あの女”はお前が面倒を見てるから何かあるとは思ったが。」


『時が来ればわかるさ。さあ、もう行くぞ俺は。』


「わかった。」



ーー2人が離脱する。


全てはアインスの掌の上で遊ばれているのに過ぎないのだろうか。


それともツヴァイがその上を行っているのだろうか?


その答えは遠くない未来にある。

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