第355話 グローリエ
【 美波・楓・アリス・牡丹 組 ??? ??? ??? 】
ーーグローリエが楓の周りを飛び交う。規則性の無い動きで飛び交う為、敵は的を絞りにくい。一戦交える桃矢としては非常に厄介だろう。だが、桃矢は最初こそ狼狽えはしたが、次第に落ち着きを取り戻していく。
「よく考えたらいくらグローリエといっても、芹澤さんは初めて使う訳だし、”3基”じゃないか。グローリエは『神具』の中でも扱いが非常に難しい。空間認識能力の高さがそのままグローリエ自体の強さにも直結する。訓練なくして自在に操る事は不可能だ。ははっ!残念でしたね、芹澤さん。並みの相手なら勝機はあったろうが、僕が相手じゃそれは無い。世の中残酷ですね。」
ーー桃矢が半笑いで楓を小馬鹿にしたような口調で話す。
だが楓は特に気にもとめない。いつもの楓の口調でこう切り返す。
「一人でブツブツ言ってるけど頭、大丈夫かしら?あなたのように特殊な性癖を持つ人間ってやっぱり精神がおかしいのね。怖いわ。」
ーー楓が軽口を叩き桃矢を挑発する。
「…へぇ。ちょっと身の丈に合わない力を手に入れると調子に乗る。典型的な馬鹿女ですね。失望しましたよ。もう貴女にーー」
「ーーごちゃごちゃ五月蝿いわね。」
ーー楓が桃矢の言葉を遮る。
「さっさとかかって来なさいよ。私が怖いの?」
ーー楓の言葉に桃矢が激昂する。
「調子に乗るなって言ってんだよこのクソアマがァ!!!」
ーー桃矢が態度を豹変させ楓へと攻めかかる。その速度は先程までとは明らかに違う。エンゲルを発動させた楓よりも遥かに速い。絶大なる速力で楓との間合いを詰める。
だが楓に恐れはない。
不思議ね。さっきまでの絶望感が嘘のようだわ。負ける気がしない。それに、牡丹ちゃんと美波ちゃんの呼吸もはっきりとわかる。まだ牡丹ちゃんは生きてる。でも早くしないとそんなに持たないわ。
「1分でケリをつける。初陣よ、グローリエ。」
ーー楓の声に反応し、強襲して来る桃矢をグローリエ1基が迎え撃つ。
形状を剣のような形に変え、桃矢と斬り返す。銀世界の中で互いの剣が火花を散らし、剣戟が鳴り響く。
「2段階解放程度のクセにこの硬度…!?ありえーーがあっ…!?」
ーーグローリエ1基と斬り返していた桃矢の背後から閃光が突き刺す。楓に付いていた残り2基の内の1基が桃矢の背後へと移動し、ビームのような粒子砲を放ったのだ。
「へぇ。カノーネと同じような事が出来るのね。試し撃ちのつもりだから軽くやってみたけどかなりの威力じゃない。」
ーー楓の言葉通り、グローリエの放った粒子砲は様子見の為、相当に力を抑えるように命令した。だがその威力はゲシュペンスト程度なら余裕で殺せる程である。
「調子に乗るなって言ってんだろがァァァァ!!!」
ーー桃矢が狙いを楓に定め、アルティメットスキルである引力を使おうとする。
だが、
「あら?そんな余裕あるのかしら?」
「あァ!?なに言ってんだテメーーグアッ!?」
ーー剣状になっているグローリエが隙だらけの桃矢の背中を斬りつける。
「あなたって馬鹿なのね。斬り返しをしていた事も忘れちゃったの?」
ーー楓が薄ら笑いを浮かべて桃矢を挑発する。
「もう許さねェ…!!僕をコケにした事を後悔させてやるッッ…!!」
ーー桃矢が黒いエフェクトが絡みついている右腕を前に出す。
「あのガキから奪った魔法は2発打てんだよッッ!!テメェもコイツを浴びてくたばれやッッ!!!」
ーー桃矢の手のひらからフェーゲフォイアーが放たれる。煉獄の焔が存在を掻き消そうと楓へと迫り来る。
「楓さん…!?逃げてえぇぇ…!!!」
ーーそれを見るアリスが叫ぶ。
だが楓は避けるつもりは無い。自身の元に残していたもう1基のグローリエを前に出す。
「任せたわよ、グローリエ。」
ーー楓の前に立つグローリエから半透明のシールドのようなものが現れる。そして迫り来るフェーゲフォイアーとかち合い、周囲に焔が弾け飛ぶ。美波たちにその焔が飛び散るがそれぞれにグローリエが1基ずつ守りに入り、同様にシールドを展開する。
シールドが傷つく事も、ヒビ割れる事も無く、フェーゲフォイアーはグローリエの前に屈した。
「馬鹿な…いくらなんでもありえないだろ…芹澤は2段階解放ゼーゲンだぞ…僕は最終解放、それに時空系アルティメットまで使ってるんだ…互角どころか僕が圧倒されるなんてありえない…ウッ…!?ま、まさか…」
ーー桃矢が楓の目を見て気付く。その目には蒼い焔のようなものが宿っている事に。
「か、”覚醒”…!?いや、まだ兆しにしかすぎないか…!?それでもここまでの強さになるなんて…!?」
ーー桃矢に初めて恐怖が生まれる。だがもう遅い。楓の元に3基のグローリエが戻り、それぞれが魔法陣のようなモノを展開させ始める。
「終わらせるわ。アレス・シュトラーレン。」
ーー楓の号令によりグローリエたちが魔法陣から粒子砲を発動させる。最大出力であろうその粒子砲は先程の試し撃ちの比では無い。
そしてそれらが一つの塊となり桃矢へと向かって行く。その規模、速度、とても躱せるものでは無い。
「あああァァァァ…!!!ちきしょーー」
ーー放射されたライン状の全てのものを飲み込み、芹澤楓 対 白河桃矢の戦いは幕を閉じた。
ーー戦いの終わりを確信した楓は即座に次の行動へと移る。グローリエ2基を牡丹、1基を美波へと送る。すると、グローリエたちから青い光が現れ、牡丹と美波に照射を始める。
遅れて楓が牡丹とアリスの元へ向かう。
「楓さん…!!どうしよう…!!牡丹さんが…!!」
ーーアリスが涙を流し楓にすがりつく。
「大丈夫よ。グローリエは少しだけど回復も出来るから。まだ牡丹ちゃんは死んでない。だから安心して。じきに転送が始まるわ。」
「は、本当ですか…!?」
「ええ。」
ーー楓が泣きじゃくるアリスの頭を撫でて抱き締める。
「美波ちゃん、ごめん。私が近くにいないとグローリエの力が弱くなっちゃうから牡丹ちゃんの所にいるんだけど大丈夫?」
ーー楓が離れている美波に声をかける。
「…なんとか大丈夫です。寒いので血が止まったのと、楓さんのこの子のおかげで転送までは持ちそうです。」
ーー美波もどうにか無事のようだ。
「…流石は楓さんですね。」
「牡丹ちゃん!?」
「牡丹さん!?」
ーー小さいながらも牡丹が声を出す。それにより楓とアリスが歓喜する。
「大丈夫!?転送まであと少しだから耐えてね。」
「…大丈夫です。タロウさんの許可無く死ぬ訳には参りませんので。」
「そうね。死んじゃダメよ。」
ーー牡丹の様子を見て楓はようやく安堵した。
「牡丹さん…!!ごめんなさい…!!私がもっと考えて魔法を撃てばこんな事には…!!」
ーーアリスが号泣しながら牡丹に謝罪をする。
「…謝らないで下さい、アリスちゃん。魔法を使うように言ったのは私です。アリスちゃんは悪くありませんよ。それに娘を守るのは母親の役目ですので。だから謝らないで下さいね?」
「うっ…うう…はい…!!」
ーー楓と遠くにいる美波は『ん?娘?母親?』と思ったが、牡丹が瀕死なので今回はスルーする事にした。
ーーそして、周囲が闇に包まれ始める。
「転送が始まるわ。牡丹ちゃん、美波ちゃん、アリスちゃん、ご苦労様。」
ーー長く苦しいイベントが終わりを告げ、リザルトが始まる。
「ぐああっ…この僕が…死の一歩手前まで追い詰められるなんて…」
ーー楓たちが消えた雪原に、瀕死の桃矢が姿を現わす。その体は至る所に裂傷があり、血に塗れている。
「惨めなものね。」
ーー瀕死の桃矢の元にサーシャが現れる。
「…サーシャさんか。いつからいたんですか?」
「最初からよ。」
「…へぇ。よく助けなかったですね?サーシャさんはツヴァイさんの側でしょう?芹澤さんたちが死んだら困るんじゃないですか?」
「別に私は困らないわ。結城アリスだけはフレイヤ神との盟約があるから守るつもりだったけど島村が助けてくれたからね。それに芹澤があなた程度に負けるとは思わなかったから。」
「…これは手厳しい。」
「ただ私にも誤算はあったわ。『神具』である『グローリエ』を何故渡したの?これもアインスの差し金なのかしら?」
ーーサーシャが鋭い目つきで桃矢へ問う。
「正直知りません。寧ろ、一部始終を見てたならわかりません?僕だってグローリエが出て来たから焦ったんですよ。僕が聞いてたのは”特殊装備”の”エリプセ”を芹澤さんに渡すって事だけです。」
「そう。わかったわ。」
「ただ、芹澤さんの”覚醒”はヤバいかもしれないですね。”兆し”であの強さですよ。僕が”サイドスキル”使っても勝てないかもしれない。いや…葵さんでも勝てないかも。」
「その程度じゃ困るのだけどね。」
「え?」
「なんでもないわ。じゃ、私は戻るから。」
「冷たいですね。ボロボロなんですよ?助けてくれてもいいじゃないですか。」
「あなたとは仲間じゃないわ。甘えない事ね。」
ーーサーシャが姿を消し、エリアから離脱する。
「やれやれ。僕も離脱するか。治療しないと本当に死んでしまいそうだ。」
ーーこうして美波たちのイベントは終了し、リザルトへ向かう事となる。
あとは慎太郎とみく。この2人だ。
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