第351話 収束する未来

【 美波・楓・アリス・牡丹 組 ??? ??? ??? 】



どうしよう…やっぱり《予知》で視た通りになっちゃった…スキルも封じられ、ノートゥングとも話せない…どうしたら…



「美波ちゃん、起こってしまった事は仕方がないわ。」



ーー俯く美波に楓が声をかける。



「それにまだ美波ちゃんが視た通りになるとは限らない。私たちがそれを変えればいいだけ。違う?」



ーー楓の言葉に美波が奮い立つ。


そうよ。何をしてるの。もしあの未来が運命だというのならそれを変えればいいだけじゃないっ。しっかりしなさい美波。



「その通りですっ!」



ーー美波の目に活力が漲る。



「ウフフ、よし。牡丹ちゃん、美波ちゃん、行くわよ。」


「はいっ!」


「わかりました。」



ーー美波、楓、牡丹の3人がゼーゲンを引き抜き戦闘に備える。



「アリスちゃん。」


「は、はい!」



ーー牡丹がアリスに話しかける。



「私たちは今からあの者と対峙致しますが、恐らくは勝つ事は不可能でしょう。ですが、私たちがあの者の隙を作ります。勝機はアリスちゃんの魔法しか無い。お願いしても宜しいですか?」



ーー牡丹の言葉には重みがあった。

牡丹が勝つ事は不可能と言うならばそれが事実。それぐらいの事、アリスは理解出来た。そして勝つ可能性があるのは自分の魔法だけ。牡丹がそう言い切った。

アリスは理解していた。牡丹が自分に魔法を使わせたがらなかった事を。恐らくは牡丹たちは魔法の使用条件の予想がついているのだろう。だからそれを使わせまいとしていた。そしてそれなのにも関わらず魔法を使う事を願い出た。自分たちに後がない事を理解した。

だがアリスはそれが嬉しかった。自分を頼ってくれた事が嬉しかった。やっとみんなと肩を並べて戦える。そう思っていた。



「任せて下さい!必ずあいつにあてます!!」



ーーアリスの言葉に牡丹が微笑み、それを返答とする。



「楓さん、あの者はどのようなスキルを使うのですか?」


「斥力よ。美波ちゃんが前回見破ったから間違い無い。弱点は目で見ている間しか発動出来ない点よ。」


「流石は美波さんですね。承知致しました。やはり私たち3人でかかれば隙が生まれる可能性が高いですね。」


「そうだねっ。私たちが上手く連携をとって掻き回せば勝機はきっとあるよっ。」


「でも牡丹ちゃんと美波ちゃんは気をつけないとダメよ。美波ちゃんの予知通りなら2人は大変な事になる。特に牡丹ちゃんは生死不明なんだから。」



ーー楓が注意を呼び掛ける事により2人に緊迫感が生まれる。



「斥力だけじゃなくアイツは炎系統のスキルもあるって考えるべきよ。注意してね。」


「はいっ!」

「わかりました。」



ーー3人はゼーゲンを構え、桃矢へと強襲する態勢を示す。



「ははっ!イイですね。その諦めない姿勢、僕は好きですよ。ああ…早くその顔を絶望に染め、サンドバッグにしたい。」



ーー桃矢が恍惚に満ちた表情で述べる。



「本当に気持ちの悪い男ね。女を強姦したいと考える男よりも更に気持ち悪いわ。」



ーー楓が不快感たっぷりの口調で述べる。



「芹澤さんは口が悪いですね。でもそこが僕は好きですよ。相葉さんや島村さんみたいな大人しい女性より、気の強い女性が僕はタイプです。」


「あなたなんかに好かれたくないわね。」


「ははっ!つれないな。ま、いいです。どうぞ。いつでもかかって来て下さい。」



ーー桃矢がゼーゲンを持ちながら万歳の体勢で美波たちを煽る。

それを見る楓の目に苛立ちの色が灯る。



「ナメてんのかしら?」


「ええ、ナメてますよ。」



ーー桃矢がしれっとした態度で言葉を返す。



「そもそもナメてるのは貴女ですよ。スキルも使えない貴女たちに何が出来るんです?」


「いつまでその態度でいられるのか見ものね。行くわよ!!」



ーー楓の声に呼応し、美波と牡丹が動く。

正面から楓、両サイドから美波と牡丹が攻める。

だが桃矢はそれを冷ややかな目で見つめながら美波たちの剣を受け流す。

美波たちの攻撃は連携が取れ、厳しいものになってはいるが桃矢にとってはどうという事は無い。一切焦る事も無く軽く捌いている。3対1の情勢にも関わらずこのザマ。勝機を見つけるには厳しいと言わざるを得ない。



「ぐっ…!!3人がかりなのにっ…!?」


「諦めないで下さい、美波さん!!勝機はあります!!」


「そうよ!!私たちには”アレ”があるんだからッ!!」



ーー楓の言葉に美波が反応する。

互いに目配せをし、それを発動させる。

そう、”特殊装備”である、エンゲルとプロフェートを。





ーーしかしながらそれは不発に終わる。





「な、なんで…!?エンゲルが…!?」


「だ、ダメですっ…!?私の眼も視えませんっ…!?」




ーー”特殊装備”が発動しない事により2人に一瞬の隙が生まれる。

それを桃矢は見逃してはくれない。



「だからナメ過ぎだって言ったでしょう?」



ーー桃矢がゼーゲンを鋭く振り、楓と美波の胴へ斬り込む。



「「しまっーー」」




ーーガキィン





ーーだが間一髪の所で桃矢の剣を牡丹が受ける。しかし、桃矢の剣の威力は強く、牡丹は大きく後ろへ弾き飛ばされる。



「「牡丹ちゃん!!」」



ーー美波と楓が桃矢から距離を取り、吹き飛ばされた牡丹の方へ駆け寄る。



「大丈夫、牡丹ちゃんっ!?」



ーー美波が牡丹の状態を確かめ、楓が桃矢を牽制する。



「大丈夫です。ダメージには至っておりません。」


「よかった…ごめんね、油断した。」


「ごめんなさい。気を緩める状況じゃないわよね。」



ーー美波と楓が牡丹へ謝罪をする。

それを聞き、牡丹は首を振りながら立ち上がる。



「気になさらないで下さい。助け合うのが仲間です。違いますか?」



ーー牡丹がにこやかに語る。

それを聞き、楓と美波が笑う。



「そうだねっ。」


「ええ。」



ーーだが状況が好転した訳では無い。いや、寧ろ悪化している。



「エンゲルとプロフェートが使えなかったのですか?」



ーー牡丹が2人に尋ねる。

それにより笑みを浮かべていた顔が一瞬で曇る。



「うんっ…多分あの男が封じてるんだと思う。」


「そうですか。かなり厳しい戦いになりましたね。」


「ええ。やはり勝つ為の道は”一つ”しか無いわね。」


「はい。エンゲルとプロフェートが使えるならばもっと楽だったと思いますが嘆いても仕方ありません。”仕込み”は終わりました。後は私たちで”道”を作るだけです。」



ーーそう。仕込みは出来た。

牡丹が吹き飛ばされた事により桃矢の視界がアリスから完全に外れた。それをアリスは見逃さなかった。ラウムからマヌスクリプトを取り出し、雪の中にそれを埋めた。桃矢に見つかる事は無い。呪文の文面は暗唱している。後は道が開ければいいだけ。



「私たちの体力を考慮するなら次で決めた方がいいと思いますっ。ここで”道”が出来ないなら勝機はありせんっ。」


「そうね。全力で行きましょう。一瞬だけ隙を作ればいい。それで終わらせられるわ。」


「私たちならば出来ます。さあ、参りましょう。」



ーー覚悟を決めた美波たちがゼーゲンを握り直し再度桃矢へと強襲する。



「ははっ!素晴らしいですね!想像以上です!!貴女たちが奏でる三重奏は最高です!!」



ーー美波たちは必死に桃矢の隙を作ろうと剣戟を鳴らす。何度もゼーゲンを振り、斬り、突き、好機を作ろうと必死に喰らいつく。



「ほらほら!もっと良い音を奏でて下さい!!ああ…!!貴女たち3人をサンドバッグにすればきっと良い声で鳴いてくれるでしょうね…!!想像するだけでイッてしまいそうだ…!!!」



ーー桃矢は終始、美波たちをナメている。

だがそれも当然だ。最終解放ゼーゲンを持ち、時空系アルティメットを発動させている桃矢を倒す事など不可能に近い。それはクラウソラス、ノートゥング、ブルドガングの3名を呼んでいたとしても勝てないだろう。

仮に、手持ちのメインスキル、サブスキルを全て使用し、フリーデンを解放した牡丹であっても勝てはしない。それぐらいの差が白河桃矢との間にはある。それなのだからナメるのは当然だ。桃矢にとってはこれは狩りなのだ。勝ちの決まった遊びにしか過ぎない。





ーーそんな態度だからこそ隙も生まれる。





ーー僅かな、ほんの僅かな一瞬だけ。桃矢に隙が出来る。それを楓は見逃さなかった。

全ての力を込めた剣を桃矢に叩き込む。それを捌く事で一歩だけ桃矢の体がグラつく。

3人がそれを確認し、大きく後方へ跳ねる。

そして、





「煉獄より出でし焔よ、その罪を浄化し滅びを与えよ!フェーゲフォイアー!!」





ーーアリスの魔法が発動する。



ーーこの一瞬だけをずっと待っていた。



ーーフェーゲフォイアーを選んだのには訳がある。フェアブレッヒェンドナーは雷の魔法だ。桃矢は剣を使う。桃矢程の腕なら避雷針でダメージを減らす事が出来るかもしれないとアリスは考えた。この作戦に2度目は無い。一撃で仕留められなかった時は全員の死亡が確定する。だからこそ絶大なる火力を誇るフェーゲフォイアーを選んだのだ。








ーー炎の魔法を。














「残念でした。魔法は僕には効きません。」




ーー魔法陣から現れるフェーゲフォイアーを、桃矢の身体から現れる黒いエフェクトが包み込み、そしてそれが桃矢の右腕に絡みつく。



「そ、そんな…!?」



「これは返しますね。さようなら、結城さん。」



ーー桃矢が右の手のひらをアリスにかざすと、そこから先程まで桃矢へ向けて放たれたフェーゲフォイアーがアリスへと牙を剥く。



ーーアリスは動けない。

絶望的なまでの熱量を帯びた煉獄の焔が自身へ迫り来るが動く事が出来ない。



ーー絶対なる死。

アリスはそれを悟った。



ーーだが、迫り来る焔を見ているアリスの前に人影が現れる。アリスは顔を少し上げ、顔を確認する。



「牡丹…さん…?」



ーー牡丹はアリスへ微笑む。そしてそのままアリスを抱き締め、煉獄の焔に焼かれた。


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