第352話 変わらない未来

【 美波・楓・アリス・牡丹 組 ??? ??? ??? 】



ーー焔の波が引く。

不思議な事に周囲の雪の量に変化は無い。何か術式でもかかっているのだろうか。降り続く雪は止むことを知らない。


フェーゲフォイアーを浴びた牡丹とアリスがそこに立つ。アリスは身体を震わせながら牡丹に包まれている。腕で頭を抱き抱えられ、盾となるように牡丹に抱き締められたまま。



「牡丹…さん…?」



ーーアリスは絞り出すように声を発する。今現実に起きた状況に理解が追いつかない。いや、考える事すらも出来ない。

そんな中、牡丹はアリスの呼びかけに反応する。



「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」



ーーアリスを抱き締める手を緩め、アリスの顔を確認しながら口を開く。

そんな牡丹を見て、アリスは恐る恐る返事をする。



「私は…大丈夫…です…でも…牡丹さんが…」


「良かった。」



ーーそう言い残し、牡丹はその場に崩れ落ちる。



「ぼ、牡丹さーー」



ーーその光景を見てアリスは言葉が出なかった。

牡丹の背中は焼け爛れ、肉が剥がれ落ち、溶け落ちている。白いドレスの背中半分は焼却されているが、残っている部分は鮮血に塗れていた。とても人が生きていられるような傷では無い。



「おっと、これは想定外ですね。一番厄介だった島村さんが消えてくれましたか。”サイドスキル”に目覚められると面倒だったので助かりました。でも僕の玩具が一つ無くなっちゃったか。残念。」



ーーアリスは身体を震わせながら牡丹を回復しようと試みる。



「は、はやく…回復させないと…あれ…?出ない…スキルが出ない…なんで…?なんで…?」



ーー最早アリスに冷静な判断は出来ない。

思考が止まり、ただ、身体を震わせる事しか出来なかった。




「美波ちゃんッッ!!!」


「わかってます!!!」




ーー美波と楓が鬼気迫る表情で桃矢へ襲い掛かる。防御に行動を振る事は一切無く、ただひたすらに、桃矢の命を取る事だけに意識を割く。

2人にはもうそれしか無い。牡丹の生死は現状わからない。だが、生きていたとしてもあれだけの傷では死までそう時間はかからない。牡丹を助ける為には桃矢を殺しリザルトへ向かうしか無いのだ。それしか牡丹を助ける術は無かった。



「ああ…二重奏ではこんなものですね…つまらないな…」



ーーだがどれだけ苛烈に剣を振るおうと、その剣が桃矢に届く事は無い。想いや怒りが力を増大させる事はある。だが、絶対的なまでの力量差がある相手にはそれをもってしてもその差など埋まる事は無かった。





「牡丹さん…!?牡丹さん…!?いやァァァァ…!?」



ーースキルの使えないアリスは必死に周りにある雪を牡丹の背中にかける。その綺麗な顔は歪み、涙でぐちゃぐちゃになりながら懸命に牡丹の治療にあたる。

だが牡丹からの反応は無い。もう事切れているのかもしれない。それでもアリスは祈るように雪をかけ続けていた。





「ま、それでも貴女たちは前回僕を追い詰めましたからね。その要因としているのが相葉さん、貴女だ。なので貴女は先に堕としておきます。」



ーー桃矢の身体から金色のエフェクトが弾け飛ぶ。



「うあっ…!?」


「美波ちゃん!?」



ーー桃矢のスキルにより美波の身体が弾かれ、上空へと飛ばされる。



「前回僕のスキルを見抜いた貴女にサービスです。一部の時空系アルティメットスキルは基本能力と『裏』能力があるんですよ。その能力の反対となる力がね。さて、問題です。斥力の反対は何でしょう?」



ーー桃矢が上にあげた視線を下へおろす。

すると、上空へあがっていた美波の身体が凄まじい速さで地表へと叩きつけられる。

逆さまの体勢で。



「ああああっっっ…!!!」



ーーグチャ、という鈍い音を立てて美波は頭から雪原へ叩きつけられた。



「答えは引力です。ははっ!」


「美波ちゃんッッ!!!!」



ーー楓の悲痛な叫びが銀世界に轟く。

それに呼応してか、美波がゼーゲンを杖のようにしてどうにか起き上がる。



「だい…じょぶ…です…」



ーーとても大丈夫とは言えない。

周囲の雪は美波の頭からの出血により真っ赤に染まっているし、着ている青のドレスも血で赤いドレスへと変貌を遂げている。

戦闘に参加する事は不可能だ。何より出血多量で絶命するのに時間はかからないであろう状態だ。


ーー楓に焦りが生まれる。

背中には冷たい嫌な汗がつたい、心臓の鼓動は早くなる。絶望的だ。牡丹の生死は不明。美波は辛うじて命はあるが死亡するまでは残り数分あるかどうか。魔法を使っても桃矢に跳ね返される結末しかないアリスは戦闘不能。



ーーもうここで戦える者は芹澤楓しかいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る