第350話 絶望
【 美波・楓・アリス・牡丹 組 2日目 PM 6:29 商業施設 】
「グアッ…!!!ウゥゥ…!!!この俺が…俺様が女如きに…!!!」
ーー体格の良い男が銀色のエフェクトを輝かせながら楓と対峙する。だがその体はもはやボロボロだ。腕に嵌る手甲はヒビ割れ、体は鮮血に染まっている。
「このご時世にまだ男が女より上だと思っているなんて滑稽ね。」
「黙れッ!!!俺が負けるわけがねェんだッ!!サブスキルが乗ってるこの体で負けるわけがねェェ!!!」
ーー男が銀色のオーラをより強く輝かせ、楓へと襲い掛かる。
そんな男を楓は涼しい顔で迎え討つ。
「愚かね。身の程も弁えず、女を卑下するだけ。救いようが無いわ。」
ーー楓が手にしているゼーゲンを横へ滑らせ、抜き胴を男へと叩き込む。
男は楓の動きに一切ついていく事が出来ず、撃沈する。
「強い…強すぎる…」
ーー男は全身が血に塗れる。だがそれもほんの僅かの間だ。数秒の後にはその存在の一切がエリアから消滅する。
楓が、この商業施設2階のフロアの殲滅を開始して10分程。
その間、相対したプレイヤーの数は8名。全てSS以下のプレイヤーではあるが、ここを拠点としていた連合クランを相手にする事で、サブスキルのトラップが張り巡らされていた。スキルの一切の使用が封じられ、相手には身体能力上昇の効果がかけられる。
そんな圧倒的不利な状況にも関わらず、楓は10分以内に商業施設2階の制圧を完了させた。牡丹の加入以降、エースとしての座は牡丹に奪われ、大きな活躍が無かったように見えた彼女だが、時空系アルティメットスキル《爆破の種》を所持して今イベントに臨んでからはそれまでの圧倒的な強さを誇る芹澤楓の姿が戻って来たように見える。
「さてと、3階の制圧は終わったかしら。」
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【 同刻 商業施設 3階 】
「ひいっ…!?」
ーー男が眼前に迫る者に怯える。
あまりの恐ろしさに体は震え、大の男が失禁をしている。
「助け…助けて下さい…!!!アンタらには逆らわねェからッ…!!!」
ーー男は懇願する。
土下座をし、目を血走らせながら必死に懇願する。
だが、
「申し訳ありませんが、私は1人の男性のお願いしか聞かない事にしています。恨むならご自分の運の無さを恨んで下さい。」
「イイイイイイ…!!!嫌だァーー」
ーー男の叫びも虚しく、牡丹がその首を刎ね、商業施設3階の戦いは幕を下ろした。
楓や美波は男に対しても多少の慈悲はあるが、牡丹には全く無い。慎太郎以外の男に興味が無いどころか生き物として認識はしていない。はっきり言えばどうでもいいのだ。寧ろ、自分と慎太郎が会う事を邪魔立てするような輩には更に容赦が無い。慎太郎に好意を寄せていなかったらと思うとゾッとする一面である。
「これで終わりですね。はあ…タロウさん…」
ーー牡丹がドレスの中に手を入れ、ドレスの下にあるネックレスを取り出し、リングを見つめる。
「ふふふ、私たちは離れていても繋がっておりますよね?身も心も魂も永遠に…ふふふふふふ。」
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【 商業施設 1階 】
「音が止みましたね…」
「そうだねっ…」
ーー美波とアリスが1階にて待機している。
商業施設内にプレイヤーがいる事を確認した美波たちは特に作戦を立てる事もなく内部へと乗り込んだ。1階を4人で制圧した後、2階を楓、3階を牡丹、美波はアリスの護衛として残り、商業施設内攻防戦を開始した。早い話が力技でのゴリ押しだ。
だが、特に何も考えてなかったので当たり前のように楓と牡丹は敵プレイヤーのサブスキルのトラップにガッツリかかってしまうがなんのことも無い。結局は力押しで完全制圧を完了させたのだ。この2人が揃うともはや並みの相手ではスキルがあろうとなかろうと抑えるのは相当難しいであろう。
2人が周囲を警戒していると、エレベーターが作動し、上階から誰かが降りてくる事を確認する。一応の警戒を2人は見せるが、誰が降りてくるかは予想は出来ている。
エレベーターが1階へ着き、扉が開く。
「楓さんっ!牡丹ちゃんっ!」
ーー楓と牡丹が涼しい顔でエレベーターから降りる。
「お疲れ様です。美波さん、アリスちゃん。」
「2人ともお疲れ様。」
「お疲れ様ですっ!」
「お疲れ様です!」
「討ち漏らしてはいないつもりですが、1階まで敵が降りて来たりはしませんでしたか?」
「大丈夫です!牡丹さんと楓さんが強すぎるからそんな時間も無かったです。」
そうだよね。2人とも強すぎる。楓さんは時空系アルティメットを手に入れてからスキル無し状態でも更に強くなったと思う。牡丹ちゃんに至っては私と楓さんよりもゼーゲン一本分少ないのに私よりも数段上だ。
私もがんばらないとっ。正妻としてっ!タロウさんを絶対守るんだからっ!!
「かなりの数を倒したと思うけど何クランぐらいいたのかしらね?」
「そうですね、少なくとも3クランはいたのではないでしょうか?あれだけの数ならばそれぐらいの連合を組んでいると見るのが自然かと思います。」
「それじゃああとどれぐらいですか?」
「うーん、多くて4クラン、少なければ2クランかもしれないねっ。」
「ゴールは近そうね。それじゃーー」
ーーその時だった。
ーーティロン
ーー美波たちの脳内にスマホの通知音が鳴り響く。互いに目配せをし、通知内容を確認する。
『お疲れ様です。俺'sヒストリー運営事務局です。規定人数である、6名に到達しましたのでイベントは終了とさせて頂きます。』
「わっ!終了したみたいですねっ!」
「そうみたいね。ウフフ、美波ちゃんの予知をハズレさせる事が出来て良かったわ。」
「本当ですね。市街地狩りに変えたのは正解でした。」
「一安心ですね!」
ふふっ、良かったっ。みんなの雰囲気も良いし。あんな予知だったから心配しちゃったけど取り越し苦労だったみたいだねっ。
『それでは#°¥+:%÷:°<:%:|<・々¥÷』
「きゃっ…!?」
「くっ…!?」
「ッッ…!?」
「うあっ…!?」
ーー美波たちの頭にノイズが走る。
脳を掻き毟られるような異音が脳内に流れる事により、美波たちは両手で頭を抑え、目を瞑り、その場にしゃがみ込んでしまう。
ーーノイズが止み、美波たちは目を開ける。
するとそこは、
「え…なんで…?」
ーー目を開けた美波たちの眼前に広がっていたのは一面雪に覆われた銀世界だった。
美波たちに戦慄が走る。なんともいえぬ緊張感が彼女たちを襲っていた。
だが時は彼女たちに猶予を与えてはくれない。
「延長戦ですよ。貴女たちと遊びたいなって思って。」
ーー美波たちの背後から声がする事により振り返る。吹雪の中1人たたずむ男がいる。
その男を美波と楓は知っている。
「あ、あなたは…!?」
「そんな…!?確かにあなたは私が…!?」
ーー男が笑みを浮かべる。
「《身代り》を装備していたんですよ。あの時は芹澤さんの実力を見ようと思って来たんです。でも今回は違う。貴女たちを始末しようと思って来ました。いや、手足を斬り落としてサンドバッグにしようかな。ははっ、それが良い。」
ーー狂気を込めた言葉とは裏腹に男が和かに話す。
「…お知り合いですか?」
ーー牡丹が美波と楓に問う。
「…随分前のイベントで戦った相手よ。プレイヤーじゃなくリッターのね。」
「リッター…!?」
ーー楓の言葉にアリスが恐怖を覚える。
「なるほど。延長戦という事はあなたを倒さないと私たちは帰れないという事でしょうか?」
ーー牡丹が男へ問う。
「うん、そうですね。僕を倒せば終わります。倒せればね。」
ーー男が自信たっぷりに牡丹へ答える。
「ふふふ、私たちを侮りすぎではないでしょうか?随分前の楓さんという事は”具現”が出来ておられない時の話という事。私たちは3人が”具現”が出来ます。それをあなた1人で抑えると?」
ーー牡丹が鋭い目で男を見る。
「そうですよ?僕が1人でお相手します。だってそんなの簡単ですよ。ここは僕のテリトリーなんだから。」
ーー男がそう言うと、美波たちが黒いエフェクトに包まれる。
「くっ…!?しまった…!?」
ーーしばらくすると黒いエフェクトは消え、静寂が戻る。
「これであなたたちはスキルは使えません。剣神も剣王も剣帝も呼ぶ事は出来ない。相葉さんが剣王の声を聞く事も出来ませんよ。完全にスキルは封じましたから。」
ーー美波がノートゥングに呼びかけるが返事が無い。男の言葉に嘘は無い。
「でもーー」
ーー男が金色のエフェクトを発動させ、上空に魔法陣を展開させる。
「ーー僕は使えます。ははっ、どうですか?この絶望感!!良いですよ。全員でかかって来て下さい。楽しみましょう。」
ーー男が腰に差すゼーゲンを引き抜く。
「あ、そう言えば名乗ってませんでしたね。ヴィルトグラーフの爵位を持ちしリッター、白河桃矢です。」
ーー絶望に包まれながら美波たちはイベント最後の戦いに臨む事となる。
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