第349話 破滅の未来
【 アリス・牡丹 組 2日目 AM 8:13 】
「うーん…」
私は重い目蓋を開ける。まだ頭が働かない。何をやってーーしまった。
「今何時!?スマートフォン!?」
私は慌ててスマートフォンを探す。あった。そして時間を確認する為に画面を起動すると、
「はっ、8時15分!?ど、どうしよう!?交代の時に牡丹さんが起こしてくれる予定だったよね!?私、起きなかったのかな!?」
ーーアリスが狼狽えていると、
「おはようございます、アリスちゃん。」
ーー牡丹が洞窟の奥から現れる。
彼女たちは身体を休める為に昨夜見つけた洞窟内に陣を張っている。お互いに仮眠を取ろうということで、牡丹が先に22時から1時まで休み、アリスがその後1時から4時まで仮眠を取る予定だった。
「お、おはようございます!!すみません牡丹さん…私…起きなかったんですね…本当にすみません…」
ーーアリスが申し訳なさそうに牡丹に謝罪する。だが牡丹をそれを制止する。
「アリスちゃん、謝らないで下さい。アリスちゃんが起きなかったのではなく、私が起こさなかったのです。」
「え…?どういう事ですか…?」
「アリスちゃんはゼーゲンによる身体能力上昇を得ておりません。普通の小学生であるアリスちゃんがあれだけの距離を移動すれば体力の消耗は相当なものです。それなのに睡眠を取らないなんて事をすれば身体を壊してしまいます。アリスちゃんは休まないといけない。そう判断した私が敢えて起こさなかったのです。ですから謝らないで下さい。責任は全て私にあります。」
「でも…それじゃ牡丹さんが…」
「ふふふ、私は大丈夫ですよ。こう見えて身体は丈夫ですから。それに姉が可愛い妹の為に尽くすのは当然です。ですから謝っちゃ駄目ですよ?」
牡丹さんは優しいな。こんなに優しい人に私は勝てるのだろうか。それどころか牡丹さんにならタロウさんを取られてもしょうがないって思ってしまう。牡丹さんとタロウさんを共有出来ればいいのに。
「…わかりました。ありがとうございます、牡丹お姉ちゃん!」
「ふふふ、それでは朝ごはんを食べて楓さんと美波さんとの合流を目指しましょうか。」
********************
【 PM 1:25 樹海 】
休み休みエリアの探索を行っている私たちだが、プレイヤーともゾルダートたちとも遭遇する事無く2日目の午後を迎えた。今いるのは果てし無く続く森の中だが、周囲から戦闘音どころか物音一つ聞こえない。それがまた不気味であった。
「全然誰とも遭遇しませんね?」
「そうですね。ゲシュペンストが100体もいる筈なのに私たちが遭遇したのはあの紛い物1体だけです。楓さんと美波さんの方に集中していないと良いのですが。」
「そうですよね…いくら2人が強いって言っても数で来られたらノートゥングとブルドガングを呼ばざるを得ないですもんね…場合によってはスキルが枯渇してしまうかもしれない…」
「タロウさんとみくちゃんが居れば3人組になれるので心強いのですが…タロウさん…タロウさん…はあ…」
あ、マズイ。ヤンデレモードになるんじゃないかな。私1人しかいないのにヤンデレモードになられたら落ち着かせる自信が無い。どうにかしてヤンデレモードにならせないようにしないと。
ーーしかし、そんなアリスをよそに、牡丹は純白のドレスのような衣装の首元を開け、ネックレスを触り始める。
「…ふふふ、離れていても私たちはいつでも一緒です。ずっと、ずうっと。」
ーー若干重い言葉を吐いてはいるが、ハイライトは消える事も無く、至って穏やかな牡丹。そんな彼女を見てアリスは凄く驚いている。
え、なんでハイライトも消えてないんだろう…?いつもならヤンデレモードに絶対なってるのに。あれ?牡丹さんってネックレスなんか付けてたかな…?
ーー知らぬが仏とはよく言ったもんだ。
ーーだが、こんな緩い空気をぶち壊すような事態へと突入する。
牡丹がネックレスを触る手を止め、厳しい表情へ変わる。その空気を察したアリスは小声で牡丹に話しかける。
「…どうしたんですか?」
「…誰か来ます。2人、いえ…3人でしょうか…?3人目の気配がはっきりとはしないので何とも言えません。ただ…その内の1人は相当な手練れだと思います。」
「…牡丹さんよりもですか?」
「…やってみない事にはわかりませんが、スキル無しで戦えば負ける可能性が相当にあると思います。」
「…そ、そんな!?」
ーー牡丹さんよりも強い可能性があるプレイヤーがいるなんて信じられない。それなら”五帝”の可能性がある。楓さんと美波さんと合流してない中で勝てるのだろうか。相手は3人。私が魔法で先制攻撃を仕掛けるしかない。
だがそう思った私を牡丹さんが制止する。
「…アリスちゃん、魔法は待って下さい。スキルを封じられない限りは最悪クラウソラスを呼べば私は誰にも負けないと思います。ですのでその時までは魔法は待って下さい。魔法は貴重ですから。」
「…わかりました。」
「…スキルを封じられた時には問答無用で魔法をお願いしますね。」
「…はい!」
私たちは息を殺す。相手も恐らく私たちに気づいている。気配を全く感じないし、森なのに葉音すらも聞こえない。薄暗い森の中でそれを容易く出来るんだから間違いなく強者だ。
ーー明らかに一歩一歩、アリスと牡丹へと近づく敵たち。それを何の身体能力向上の恩恵を受けていないアリスでもはっきりと感じていた。
ーーそして、牡丹の間合いにそれらが入った時、
「行きます。」
ーー牡丹がゼーゲンを勢いよく引き抜き、斬りかかる。
ーーガキィン
ーー牡丹の初太刀はその中の1人により捌かれる。
ーーそして二の太刀を放つ為、牡丹がゼーゲンを振り被る時に対峙する者を見る。
「えっ…?」
「え…?」
ーー牡丹と相手の者が互いに声を出す。
互いに相手を確認し、殺気を消す。
「ふふふ、とてつもない強者と一戦交えるのかと思いました。」
「ウフフ、私もよ。」
牡丹さんが談笑しているので私は隠れている巨木から顔を出す。
するとそこにいたのはーー
「楓さん!!」
「アリスちゃん!」
私は駆け出し、楓さんへと抱きつく。
「無事だったんですね!」
「ええ。美波ちゃんもノートゥングも元気よ。」
楓さんがそう言うと木々の間から美波さんとノートゥングが現れる。
「美波さん!!ノートゥング!!」
「わっ!牡丹ちゃんにアリスちゃん!!無事だったんだねっ!!」
「はい。なんとかここまで来る事が出来ました。」
「牡丹さんが守ってくれたんです!」
「流石は牡丹ちゃんだねっ!」
私たちは笑顔で笑い合う。良かった。楓さんも美波さんもノートゥングも無事で。
「ウフフ、これで揃ったわね。」
「はい。私たちが揃えばもはや負けはないかと思われます。」
牡丹さんの言う通りだ。絶対的な実力の牡丹さんと楓さん。それに次ぐ実力の美波さんがいる私たちのクランが負けるなんて考えられない。
「それに関してなんだけど…油断は出来ないわ。」
私の考えを否定するように楓さんが口を開く。
「どういうことでしょうか?」
「美波ちゃんが《予知》を使ったのよ。そうしたら私たちが非常に厳しい状況に晒される未来が見えたらしいわ。」
「えっ…どんな未来なんですか…?」
私は美波さんに内容を尋ねる。
「数秒だから全体像は見えなかったの…相手の顔もわからない。でも…牡丹ちゃんが生死不明の状態に陥り、私も死亡寸前、アリスちゃんが牡丹ちゃんを必死に救助し、楓さんが1人で戦ってる未来だけはハッキリ見えた…」
「そんな…」
とても信じられないような話だった。私ならいざ知らず、牡丹さんが生死不明だなんて信じられない。
「なるほど。それは楽観視出来る内容ではありませんね。私はどのようにやられていたのですか?」
「ごめん…それはわからないの…でも背中が灼け爛れ、ケロイド状になってたわ…ちょっとやられたような傷じゃなかった…」
「炎系統のスキルにでもやられたのかもしれませんね。他には何かありますか?」
「私たちがいたのは一面雪に包まれた場所だったみたいよ。」
「雪原ですか。それは一番有用な情報ですね。寒冷地に差し掛かった場合は引き返せば未来を変えられるのではないでしょうか?」
「あっ、そっか。雪のある場所ならその道中で寒くなってくるもんねっ。」
「逃げるみたいになってしまうのは悔しいですが、美波さんの視た未来を変える方が私たちに利があります。危険は犯さず堅実に行きましょう。」
「そうね。私もそれが良いと思うわ。」
「私もです!」
「うんっ!」
方針が決まった事でみんなに安堵感が出た。なんだか安心したら気が抜けちゃった。ううん!ダメダメ!!しっかり集中しないと!!
「とりあえず先に進もっか。他のプレイヤーを倒さないと終わらないしね。」
「そうですね。」
「はいっ。」
「はい!」
ーー合流を果たす事に成功したアリスたちはプレイヤーを倒す為、歩みを進める。
だが悲しいかな、美波の持つ時空系SSスキル《予知》は99%以上ハズレる事は無い。その未来を変えるのは殆ど不可能。
確実にアリスたちは破滅の未来へ歩みを進めるしか無い。
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