第344話 槍帝

【 美波・楓 組 1日目 PM 8:03 採掘場 】



ーー美波が”具現”を使い、ノートゥングの肉体を降臨させる。満月を背景に現れるその姿は妖艶で美しく、見る者を虜にする。

しかし、その美しさとは裏腹に、ノートゥングから溢れる切り裂くような圧が、見る者を震え上がらせてもいた。



「も、もう1人現れやがった…!?」


「ど、どっから現れやがったんだ…!?」



ーー木嶋の手下たちが突如ノートゥングが現れた事により狼狽える。戦闘中に冷静な判断力を失った男たちにもはや勝機は薄い。だがリーダー格である木嶋の一声により、男たちは落ち着きを取り戻す。



「ビビってんじゃねェよ。スジモンが情けねェ。アレが”具現”ってヤツだろ。」



ーー木嶋の言葉に手下たちは納得する。それにより戦意は戻り、ノートゥング登場によるアドバンテージは無くなった。



「アルティメット持ちなら俺が相手してやらねェといけねェな。」



ーー木嶋が男たちの前に出て来る。


そうなるとこの男はアルティメット持ちね。でも”具現”を見た事が無いって事は少なくともこの男は”具現”を使えない。”具現”の威力がわからないからこそのこの余裕だと思うけど間違い無くトラップを仕掛けられてるはず。それかサブスキルがバフで木嶋を強化するのかもしれない。プロフェートで”視れば”話が早いとは思うけどこんな序盤で使いたくないって気持ちが強い。

《予知》を使おうかな。スキルレベルが3になってから1度も使った事がないよねっ。それで”視れなかった”らプロフェートを3秒ぐらい使えばいいと思う。よしっ。



ーー美波が《予知》を使う。瞳が銀色に輝くと、世界の時間が止まり、美波の眼には此処とは違う場所が映し出される。



ーー



ーー



ここは…どこ…?採掘場じゃない…一面が雪に覆われている…違う場所だ…



ーー吹雪により周囲が見渡せない。だがそれも束の間、美波の眼も慣れ、見渡せるようになる。すると、


『牡丹さん…!?牡丹さん…!?いやァァァァ…!?』



アリスちゃん…!?アリスちゃんの悲鳴が聴こえる…えっ!?牡丹ちゃん!?



ーー美波がアリスの悲鳴が聴こえる方を向くと、背中が焼けただれ、溶け落ち、皮膚がケロイド状になっている牡丹がいた。それをアリスが必死に周囲にある雪を牡丹の背中にかけている。牡丹の生死はわからない。だが、意識が無いことは確実だ。美波はその光景が信じられなかった。


何…これ…牡丹ちゃんが…



ーーガキィン



ーー剣戟の音がするので美波はそちらへ向く。



『お前を殺せば転送が始まるッ!!!さっさと死になさいッッ!!!』



ーー鬼気迫る表情で楓が猛然と剣を振るう。だがその相手の顔が見えない。黒い霧のようなもので覆われている。


楓さん…?一体誰と戦っているの…?私は…?あ…



ーー美波が見る先にいるのは血塗れになり、膝をついてゼーゲンをに身体を預けている自分がいた。命こそあるが重傷。とても戦闘に参加出来る状態では無い。


そんな…もう楓さんしか戦えないじゃない…何がどうなってるの…うっ…!?




ーー



ーー




ーー世界の時が動き出し、舞台は採掘場へと戻る。



「はあっ…はあっ…はあっ…!!一体アレは何…!?牡丹ちゃんがやられたの…?そんな…」



ーー美波が”視た”結果は想像を絶するものだった。経緯はわからないが牡丹の敗北。それは美波にとって不安しか得なかった。無敗を誇り、絶対的なまでの力を見せつけてきた牡丹が地に伏せ、ましてや生死不明の状態にまで陥ってる様は現状どう打開すれば良いかわからなかった。


私からも楓さんからもエフェクトが出ていないし、アリスちゃんも牡丹ちゃんを回復していない事から考えられる答えはスキル封じをされているのは間違い無い。だとしても相手は1人。私たち3人がいてあそこまでの状況になるなんて一体何があったの。”五帝”の2人でも勝てない程のプレイヤーがいるって事…?

…どうしよう。この未来をどう変えれば…



ーー不安に押し潰されそうになる美波。だが、



『ミナミ。今は目の前の戦いに集中しろ。』



ーーノートゥングが声をかける事で美波は一瞬ビクッとしてしまう。周りが何も見えていない証拠だ。不安なのは理解出来る。だが今は戦闘中だ。その油断は命取りになる。



『お前が何を”視て”来たかは知らん。だがそれはコレが終わった後に妾とカエデに話せば良かろう。1人では答えが出なくても3人でなら答えは出るかもしれん。1人で背負うな。お前の不安は妾たちが一緒に背負ってやる。』


「ノートゥング…うん、ごめん。集中するね。ありがとう。」



ーー美波の顔から不安の色が消え、目の前の戦いに集中する。美波はノートゥングの、彼女の存在をとてもありがたく、嬉しく思っていた。彼女がいてくれるからこそ不安は無くなった。



「さァて、始めっか。見せてやるよ。《槍帝》の力をな。」



ーー木嶋の身体から金色のエフェクトが発動する。そして前方に魔法陣が形成され、中からナニカが現れる。



『…チッ。面倒なヤツが現れおったわ。』


「えっ?」



ーーノートゥングが不快そうな顔をする。

そして、魔法陣から現れたのは、短髪で赤髪、色黒の男だ。顔の造形は彫刻のように美しく、気品と気高さを併せ持っている。



『俺は槍帝ドゥバッハ。久しいな剣王ノートゥングよ。』



槍帝ドゥバッハという男がノートゥングに話しかけるやっぱり知り合いなのかな。



「知り合い?」



私はノートゥングに聞いてみる。するとノートゥングが女の子がしちゃいけないような顔をする。不快感丸出しだ。



『…まあな。』



そんなノートゥングを見てドゥバッハが口を開く。



『フッ、まあな、か。久しぶりに会ったというのに随分な言い種だ。俺とお前の仲であろう。』



仲…?仲ってなんだろう…?もしかして元カレ…?へー、ノートゥングに元カレがいたんだぁ。あ、いるに決まってるよねっ。恋愛経験豊富なんだもんねっ。


ーーノートゥングは生娘です。虚勢を張ってるだけで、書物から得た知識だけの処女です。



『黙れ。貴様との間に仲など無い。』


『やれやれ。相変わらず口が悪いな。女はお淑やかでないと。』


『フン、これが妾の良さよ。淑やかにしているなど妾に在らず。』


『俺が淑やかにしてやろう。悠久の時を経てまたお前とこうして会う事が出来たのだ。俺に従順になるよう調教してやろう。』


『ククク、妾は貴様のような醜男など下僕に要らんぞ。』


『いつまでその態度でいられるかな。行くぞマサアキ。』


「ああ。」



ーー槍帝ドゥバッハが木嶋の身体に”憑依”をする。そして金色のオーラを身に纏い、子分の男からゼーゲンと思わしき槍をもらう。その槍の神聖さは紛れもなくゼーゲンである。



ーー剣王 VS 槍帝の戦いが幕を開ける。

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