第336話 始末

【 牡丹・アリス 組 1日目 AM 11:38 遊園地 御伽の城 】



「ククク、酷いな牡丹。俺にそんな台詞を吐くなんて。」


「その声で私の名を呼ぶなと言った筈です。」



牡丹さんから殺気と剣気が入り混じった圧が放たれる。私に対して向けられているわけではないのにピリピリと刺すようなプレッシャーに押し潰されそうになる。



「お前が邪魔をしなければアリスは楽に殺してやれたのになぁ。アリスが苦しんで死ぬ事になっちゃっただろ。な、アリス。」


「気安く呼ばないで下さい!!」


「ひっでぇな。俺はお前らが大好きな田辺慎太郎だぞ。」


「あなたはタロウさんなんかじゃありません!!敵プレイヤーです!!」


「それは違うぞアリス。俺はプレイヤーじゃない。お前らが言うゲシュペンストに近い存在だ。」


「ゲシュペンスト…?あ、何体かのゲシュペンストが特別な力を持っているってあったのはこれの事だったんですね…!!」


「俺はお前らを殺せばゲシュペンストから解放される事となっている。頼むからおとなしく俺に殺されてくれよ、牡丹、アリス。」


「タロウさんはそんな事言わない!!!私たちの事を大切に思っていてくれているのに間違ったってそんな事を言ったりしない!!!」


「ククク、それはお前の妄想だよアリス。田辺慎太郎も人の子だ。自分が一番可愛いに決まっている。いざとなればお前らを差し出してでも自分を守るさ。」



タロウさんの顔と声でそんな事を言われるのは正直堪える。偽物だとわかっていても精神的にくるものがある。でもコイツはタロウさんじゃないんだ。タロウさんじゃない人の言葉に惑わされちゃダメだ。



「ふぅ…。いい加減我慢の限界です。これ以上タロウさんを愚弄する事は許さない。」



牡丹さんが大気中に水の花弁を形成させていく。時空系アルティメット《水成》だ。牡丹さんは一気に勝負をつける気なんだ。



「《水成》か。流石は牡丹だな。」


「名前を呼ぶなというのがわからないのですか。」



牡丹さんを包む金色のオーラが輝きを強める。



「残念だが牡丹、それまでだ。」



ゲシュペンストがそう言うと、周囲一帯に黒いエフェクトが走る。同時に牡丹さんを包む金色のエフェクトが消失した。



「牡丹さん…!?」


「ククク、これは俺に与えられた”サイドスキル”でね。戦闘開始とともに発動する事になっているのさ。」


「”サイドスキル”…?」



サブスキルの事を言っているのだろうか?でもスキルを使う時にゲシュペンストからは何のエフェクトも出ていなかった。どういう事なんだろう。いや、今はそんな事よりも牡丹さんのスキルを封じられた事の方が問題だ。この男の実力はわからないが、ゲシュペンストであるなら少なくとも強化系アルティメット以上の力はある。いや、通常のゲシュペンストでは無いのだからそれを超えた力、召喚系や時空系という事も考えられる。いくら牡丹さんといえどもフリーデンもスキルも使えないなら負ける可能性がある。私が魔法でアシストしないとダメだ。この窮地を乗り切るにはそれしかない。集中するんだ。



「ククク、恐ろしいか?だが安心しろ。お前たちが大好きな田辺慎太郎に殺されるんだ。それなら本望だろう。フハハハハ!!!」


「…そろそろ始めても宜しいでしょうか?」



スキルが封じられても変わらない牡丹さんの表情に私もゲシュペンストも怪訝な顔をする。



「ククク、現実もまともに見れないとはな。ガッカリだよ牡丹。さ、おいで。俺がーー」



ゲシュペンストの首が落ちる。

私の少し前にいた牡丹さんが、少し目を離した隙にゲシュペンストの間合いに入り、一振りで首を落とした。



「私も甘いですね。本来ならばあなたの罪を清算する為、あらゆる苦痛を与えねばなりませんが、いくら偽物とわかっていても、その顔と声を苦痛に歪めるのには抵抗があります。なので苦しまずに一撃で終わらせる事にしました。ですが、次にタロウさんを騙る時は容赦は致しません。肝に銘じておいて下さい。」



…ええぇぇ!?何それ!?圧倒的なんですけど。普通はこれから激戦が繰り広げられて、私の魔法でどうにか倒す事が出来るっていう王道パターンになるんじゃないのですか?そもそもこの偽物は何の為に出てきたの?一撃って。噛ませじゃないですか。牡丹さん単体で”具現”より強いんじゃないですか?

あ。わかった。そうだった。牡丹さんはタロウさんを絡ませるとダメなんだった。ヤンデレモードに似たような雰囲気出てるもん。それかー。



ーーそう。それだよアリス。ヤンデレって怖いね。



「さて、不届き者は退治致しましたので先へ向かいましょうか。」


「あ、はい。」



ーーアリスは将来タロウさんと結婚した時に牡丹さんに刺されないように強くなろうと心に誓ったのだった。

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