第335話 魂の拒絶
【 美波・楓 組 1日目 AM 11:36 工場 】
「ど、どうしてタロウさんがここにいるんですかっ!?」
私は思わず大きな声を出してしまう。だってあまりにも予想外だもの。タロウさんはみくちゃんと一緒にもう一つのイベントに挑んでいるはず。それなのにどうして…?
「これは驚いたな…まさか美波と楓さんに会うなんて…」
タロウさんも驚いている。一体何があったのだろう。
「本当にタロウさんなんですね…?一体どうしたんですか…?みくちゃんは…?」
楓さんが怪訝そうな表情でタロウさんを見ている。やっぱりそうだよね。受け入れづらいもん。
「俺にもよくわからないんです。ただこっちのイベントは急に中止になりました。それでバトルイベントをやるって突然言われて今ここにいるって感じですよ。相変わらず無茶苦茶だ。俺が楓さんと美波の方にいるって事は、みくは牡丹とアリスの所にいるんだと思います。」
私たちみんなの事もわかっているならやっぱりタロウさんなんだ。でも…
「そうだったのですね。ウフフ、驚いちゃいました。最初は強敵が現れたのかと思いましたよ。」
「あはは、驚かせちゃってすみません。それじゃ3人を探しに行きましょうか。」
********************
【 アリス・牡丹 組 1日目 AM 11:30 遊園地 】
「どうしてタロウさんがここに!?」
私は考えるよりも先に身体が動いてタロウさんの側によっていく。
「まさかアリスと牡丹に会えるとは思わなかったな…」
タロウさんが驚いたような顔をしている。その顔も声もタロウさんに間違いは無い。やっぱりタロウさんだ。
「イベントはどうしたんですか!?みくさんは!?」
「イベントは急に中止となったんだよ。それでバトルイベントを始めるって言われてここにいる感じだ。俺がここにいるって事は、みくは楓さんと美波の所にいるんだろう。」
「あ、そうだったんですね…!」
なんだ、そうだったのか。驚いちゃったけどタロウさんに会えてよかった。安心したら力が抜けちゃったな。
「それじゃ2人を探しに行こうか。ほい、アリス。」
タロウさんが私に手を差し出す。手を繋ごうという事だろうか。私はニヤける顔を抑えながら差し出された手を取ろうとした時だった。
ーーヒュンッ
牡丹さんのゼーゲンが私の横を駆ける。その剣はタロウさんの顔を目掛けて放たれたものだ。タロウさんは辛うじて牡丹さんのゼーゲンを躱し、事無きを得る。
「うおっ…!?あっ、危ねぇ…おいおい、どうしたんだよ牡丹!?」
「ぼ、牡丹さーー」
牡丹さんの方を向くと、恐ろしい程に怖い顔をしながらゼーゲンを持ち、私でもわかるぐらいの殺気を放っていた。
「なんだなんだ。妬きもち妬いてるのか?全く牡丹は困った子だな。ほら、おいで。キスしてあげるから。それで機嫌なおしてくれよ。」
タロウさんが凄く優しい顔で牡丹さんにそう伝える。だが、
「あなた、してはならない事をしましたね。このような怒りを感じた事はタロウさんと初めて俺'sヒストリーでお会いした時、彼を痛めつけていたリッターの男に対して以来です。」
牡丹さんの紡ぐ言葉の一つ一つに怒りが込められているのがわかる。怖い。こんなに怖い牡丹さんは初めて見た。
「あー、懐かしいな。あの時は牡丹に助けられたよな。本当にありがとうな、牡丹。」
「その声で私の名を呼ばないでもらえますか?はらわたが煮えくりかえります。」
どうして牡丹さんは怒っているのだろう。意味がわからない。私は幻でも見ているのだろうか。
「ぼ、牡丹さん!?ど、どうしたんですか!?牡丹さんの言い方だとタロウさんが偽物みたいに聞こえます。」
「偽物です。」
「え?ど、どういう…」
「そのモノは真っ赤な偽物。出来の悪い紛い物です。」
私はタロウさんを見る。だが偽物になんて見えない。いつものタロウさんだ。
「おいおい。勘弁してくれよ。なんでそんなに機嫌が悪いんだ?みくと一緒にイベントに行ったからか?それは仕方ないだろ。」
タロウさんの言う通りだ。私も牡丹さんがただ機嫌が悪いようにしか思えない。このタロウさんのどこが偽物なのだろう。
「茶番はもう結構。その顔と声を騙った罪、あなたの死でも清算仕切れませんよ。覚悟をなさって下さい。」
牡丹さんの身体から金色のエフェクトが発動する。本気だ。本気でタロウさんを攻撃するつもりだ。
「牡丹さん!?やめて下さい!!なんで牡丹さんとタロウさんが…!?」
「アリスちゃんは下がっていて下さい。今回は手加減する事は出来ないと思いますので。」
「どうしてそのタロウさんが偽物だって思うんですか!?私には本物にしか見えません!!明確な理由を教えて下さい!!」
「全てです。」
「え?」
「顔、声、佇まい、全てが歪です。何より、魂が違う。私にはわかります。私の全身の細胞がこのモノを拒絶する。私の魂が怒りに震える。これが何よりの証拠です。」
「牡丹、それは滅茶苦茶だろ。カンじゃねーか。お前の俺への想いってそんなフワっとしたモンだったんだな。ガッカリだよ。」
「勘ではありません。私の身も心も魂もタロウさんに捧げている。その全てがあなたを否定する。あなたがタロウさんな筈が無い。」
「で、でも…」
牡丹さんの言う事はわからなくはない。でもタロウさんの言う通りそれは滅茶苦茶だとも思う。明確な証拠では無い。
「…はあ。牡丹、お前こそ偽物だろ。そんな事言う奴は牡丹じゃない。アリス、こっちに来い。そいつは偽物だ。」
「え…でも…」
どうすればいいんだろう。わからない。何が何だかわからない。
「物理的な証拠もありますよ。」
牡丹さんの言葉に場の空気が変わる。
「アリスちゃん。私のフリーデンの解放条件はご存知ですよね?」
「は、はい!それは牡丹さんとタロウさ…あ!」
「そうです。このモノがタロウさんだと言うのならフリーデンが使える。ですが先程からフリーデンを使おうとしても発動しない。これはどういう事でしょうか?」
「ーーッツ!!」
私は一目散に牡丹さんの後ろは退避する。そして再度、雷のマヌスクリプトを手にし、迎撃態勢を取る。
タロウさんを騙るモノの空気が変わる。
「…ククク、これは恐れ入った。悠久の時を過ごして来た俺だが、見破られたのは初めてだよ。魂か…ククク、そこまで真似ないといけないということか。」
「いいえ。その皮も声も違います。」
「ククク、まあいい。バレたからといって何か問題が起きたわけではない。楽に殺せなくなっただけだ。」
「もういい。喋らないで下さい。」
牡丹さんの上空に魔法陣が展開する。
そして金色のオーラを纏うと、さっきまでなんて比べ物にならない程の殺気が溢れ出る。
「あなたは絶対に殺します。己の犯した罪の重さをしっかりと受け止めなさい。」
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