第334話 怪奇
【 アリス・牡丹 組 1日目 AM 9:13 遊園地 】
戦闘が開始した。迫り来るゾルダートの群れは100を優に超える数だ。それを牡丹さんが1人で迎え討つ。圧倒的劣勢と思えるその状況。いくらゾルダートといえどもS以上の実力を持つモノたちだ。牡丹さんでも楽に戦えるわけでは無い。それどころか、一歩間違えば負ける事だってあるかもしれない。
私はいつでも参戦出来るように火のマヌスクリプトをラウムから取り出しておく。
だが、牡丹さんが凄いのはここからだった。
開戦早々、ゼーゲンを肩に担いでそれを横一閃薙ぎ払う。するとそこから真空の刃が形成され、ゾルダート目掛けて襲い掛かる。その威力は凄まじく、直撃したモノたちは鎧を裂かれ、五体がバラバラに飛散する。この一撃により20体程のゾルダートが沈黙する。
間髪入れずに牡丹さんが猛然とゾルダートたちへと迫る。ゼーゲンを軽く振るだけで次々とゾルダートたちの首が落とされる。一撃必殺とは正にこの事だ。
以降はその繰り返し。それだけの作業で100を優に超えるゾルダートが全て沈黙した。
戦いを終えた牡丹さんが涼しい顔で私の所へ戻って来る。息一つ乱れていない。牡丹さんにとっては運動にすらならなかったのだろう。私は改めて牡丹さんの凄さと恐ろしさを知った。
「お待たせ致しました。お怪我はありませんか?」
「大丈夫です!凄いですね…牡丹さんが強いのはわかってましたけど、こうして間近で見ると改めて牡丹さんの凄さがわかります…」
「ふふふ、ありがとうございます。ですが、私などまだまだです。日々精進し、己が力を磨くのみです。」
これ以上強くなったらもう人間じゃなくなっちゃう気がします。
「それでは園内の探索をしましょうか。何かあるかもしれませんし。」
「楓さんと美波さんもいるかもしれませんもんね。」
「残念ですがそれは無いかと思います。」
「どうしてですか?」
「これだけの騒ぎを起こしたのなら、楓さんや美波さん程の方が気付かない筈がありません。いるとすれば騒ぎを聞きつけた他のプレイヤーが私たちを狩りに来たぐらいでしょう。ですがそれはかえって好都合です。他のプレイヤーを蹴散らし、”特殊装備”を入手するのが私たちの目的です。それなら向こうからやって来て頂いた方が話は早い。後は私が全て始末すれば丸く収まります。それをやり遂げた暁にはきっとタロウさんが褒めてくれる筈です。上手くいけば抱き締めてもらえるかもしれません。」
「最後の一言が無ければ良かったのに。」
「それでは参りましょうか。」
「あ、はい。」
牡丹さんも美波さんみたいに少し残念な所があるんだな。人間やっぱり完璧では無いって事だよね。
ーーなんて、ちょっと失礼な事を思っているアリスであった。
ーー
ーー
私たちは遊園地内の探索を始めた。遊園地内にある遊具は動いていない。それがまた不気味である。こういう廃遊園地は心霊スポットの定番だ。私はそれに気づいた時、少し足が震えた。だが今はそんな事を考えている場合では無い。私は自分を奮い立たせて怖い事を考えないように努める。
暫く探索をしてみるが特にこれといって変わった所は無いし、アイテムも何も手に入らない。あれ以降ゾルダートたちにも遭遇しないからもう遊園地には何も無いのだろうか。そうなるとここにいる意味ってもう無いような気がしてしまう。
「特に何もありませんね?」
私は牡丹さんに尋ねてみた。私がそう思っているだけで牡丹さんには他に目的があるかもしれない。わからない事は聞いてみるのが一番だ。
「そうですね。何も無いし、他のプレイヤーも来なければゾルダートたちもいない。ここにいる意味は無いかもしれませんね。移動しましょうか。」
「はい!」
良かった。私がそう思っただけじゃなくて牡丹さんも同じように思ってたんだ。少しは大人になれたかもしれない。もっと頑張って、知識をつけて、タロウさんに意識してもらえるように努力しないと!
ーーアリスが悶々としながら移動していると牡丹が立ち止まる。
「牡丹さん…?」
「います。」
私はその言葉だけで察した。私たちが今いるのはアトラクションの1つであるお城の中。私がそれに気づいたからだろうか、その曲がり角の先から得体の知れない空気が放たれる。
「相当な手練れですね。アリスちゃん、下がっていて下さい。万一の時には魔法の詠唱をお願い致します。」
「わ、わかりました!!」
私はラウムから雷のマヌスクリプトを取り出す。私の中で最速の魔法はフェアブレッヒェンドナーだ。威力だって前回使った時の感じから見ても申し分無い。それに効果範囲も明らかに敵単体を狙ったものであった。多分だけど、対象を認識すれば個別に攻撃出来るのだと思う。それなら牡丹さんに当たる心配も無い。これが私のベストな選択肢だ。
私たちの緊張が高まる中、角の先のモノが一歩一歩こちらへ近づいて来る。無音の通路に靴のカツカツという音だけが鳴り響き、それが尚の事緊張感を煽った。
そして、角の先からとうとうそのモノが姿を現わすーー
「えっ…?た、タロウさん!?」
私たちの前に現れたのはタロウさんだった。
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