第337話 新たな力

【 美波・楓 組 1日目 AM 11:36 工場 地下1階 】



「それじゃ、みくと牡丹とアリスを探しに行きましょうか。」


「ええ。さっさとイベントを終わらせて祝勝会しましょうね。」



楓さんがお猪口で飲むようなジェスチャーをする。タロウさんと合流できたからご機嫌なのだろう。でも…



「楓さんっ!!離れて下さいっ!!」



楓さんがタロウさんに近づこうとした時、私は声を上げる。それに反応した楓さんは瞬時に私の元へ跳ねる。私の意図を汲んでくれたんだ。



「根拠は?」


「匂いですっ!」


「了解。それなら信憑性抜群ね。」


「え?何が?」



ーー美波と楓のやり取りの意味が理解できない慎太郎は2人に尋ねる。



「あなたはタロウさんじゃありませんっ!!偽物ですっ!!」


「は?おいおい、何を言ってるんだよ美波は。」



ーー楓が鞘からゼーゲンを引き抜き戦闘態勢へと移行する。


「ちょっと、楓さん、何やってるんですか?まさか楓さんまで俺が偽物とか訳のわからない事を言うんじゃないですよね?」


「あなたはタロウさんじゃない。美波ちゃんがそう言うのだから間違い無いわ。」


「いや、匂いとか訳わからん事言ってるだけじゃないですか。」


「匂いに関して美波ちゃんの右に出る者はいないわ。」



ーー酷い会話だなコレ。



「いやいやいや、ちょっと待って下さいって。言ってる事がおかしいですよ。滅茶苦茶過ぎです。」


「黙りなさいっ!!タロウさんを騙るなんて許せないわっ!!私が成敗してあげるっ!!」



絶対タロウさんじゃない。タロウさんの匂いはもっと芳ばしくて脳を溶かすような感じなのに、この男からは何の匂いも感じない。偽物に間違いない。



ーーこの台詞を慎太郎が聞いたら血を吐くだろうな。



「ふぅ…。美波も楓さんも俺がみくと2人だったから拗ねてるんですね。まったく困った子たちだな。ほら、おいで。ギュッてしてあげるから。」



ーー慎太郎が両手を広げ、美波と楓を誘う。

だが、



「タロウさん以外の男の人に抱き締められたくありませんっ!!」


「そうよ、気持ち悪い。顔と声が同じだからって騙されないわ。」



ーー2人は拒絶する。



「ひっでぇな。いや、根拠を示して下さいよ。匂いなんて言われても納得出来ませんよ。これで俺が偽物じゃなかったらどうするんですか?ハッキリ言って美波と楓さんとは距離置きますからね?」



ーー慎太郎にそう言われても美波と楓は揺らがない。

そしてここで決定打が出る。



『貴様がシンタロウだと言うのならバルムンクを呼べ。本物なら当然出来るはずだろう?』



ーーノートゥングが勝ち誇った顔でそう告げる。その言葉により慎太郎の表情が変わる。



「…はぁ。面倒クセェな。」



ーー慎太郎からピリピリとした重苦しい空気が出る。



「ようやく本性を現したわね。大方、特別な力を持つゲシュペンストとやらがアイツなんでしょ。タロウさんに化けるなんて許せないわ。死刑確定。」



楓さんがイラっとした雰囲気を出しながら剣気を放つ。押し潰されそうなプレッシャーから察するに相当怒ってるよねっ。私だって怒ってる。タロウさん成分が不足してるのにこんな事をするなんて許せないっ!!



「こうやってバレのは初めてだな。流石だな美波、楓さん、ノートゥング。」



「名前で呼ばないで下さいっ!!」

「名前で呼ばないでもらえるかしら?」

『名前で呼ぶなクズが。』



ーー三者三様に激しく拒絶をする。大好きな慎太郎の顔と声で名を呼ばれる事は憤り以外に覚える感情は無いのだろう。



「ククク、面倒だが始めるか。貴様らを殺し、俺はゲシュペンストから解放される。その為の生贄となってもらうぞ。」



ゲシュペンストからも剣気が放たれる。この圧はいつものゲシュペンストをはるかに上回ってる。本気でやらないと負けるかもしれない。



「ノートゥング!!行くわよっ!!」


『ああ。』



私の身体から金色のエフェクトが弾け飛ぶ。そしてノートゥングを”具現”しようとした時、楓さんがそれを遮る。



「待って美波ちゃん。」



私は楓さんの呼びかけによりノートゥングの”具現”を一時停止する。



「どうしましたか…?」


「アイツは私にやらせてちょうだい。ちょっと試してみたい事があるのよ。」



何かあるのかな…?楓さんが言うんだから何かあるんだよねっ。


「わかりましたっ。楓さんにお任せしますねっ。」


「ウフフ、ありがとう。じゃあ少し離れてて。」



楓さんに促された私は少し2人から距離を取る。



「楓さん。美波と2人でかかって来た方がいいんじゃないですか?」



ゲシュペンストが半笑いで楓さんを挑発する。



「どうしてあなた程度に2人でかからないとならないのかしら?」


「ククク、相変わらず生意気ですね。ま、楓さんも俺に殺されるなら本望ですよね。」


「名前で呼ぶなというのもわからないぐらい知性が無いのね。その顔と声で私の前に来た事を後悔させてあげるわ。」



楓さんから金色のエフェクトが発動し、そして、上空に魔法陣が展開する。



「え…?それって…時空系…?」



上空に魔法陣が展開するのは時空系の証拠だ。どうして楓さんが時空系を持っているの…?楓さんは《剣帝の魂》しか持っていないはずなのに。



「さて、この力の試し相手になってもらうわよ。」

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