第326話 最初の脱落者

【 1日目 AM 8:30 自室 残り 20人 】



みくがシャワー浴びている間に館内に放送が入る。


『おはようございます。本日よりイベント開始となります。それに先駆けてAM 9:00より朝食となりますので皆様お集まり下さいますようお願い申し上げます。朝食は不要という方、まだ睡眠を取られている方はお集まりになられなくてもペナルティーは御座いませんのでご安心下さい。それではよろしくお願い致します。』


ラウムが使えねーんだからメシは現物支給って事か。てかそもそも投票の時間まで何やるんだろ。レクリエーションでもやらせられたら面倒だよな。


ーーそんな事を考えていると浴室からみくが出て来る。


「ふー、さっぱりしたー。やっぱ朝にシャワーはええなぁ。」


「ちょっと!?ちゃんと服着ろって!!」


ーー髪を乾かさず、服も着ないでバスタオルを巻いて出て来るみく。


「だって暑いんやもん。少し涼んでから髪乾かそ思うて。」


ーーそう言いながらみくはベッドへと腰掛ける。


「ダメだっての!!せめて服は着ろって!!」


「えー。」


ーーそんな事言ってる慎太郎だが、足を組んでいるみくの太ももと、慎太郎が大好きな腋を凝視している。すけべな男だ。


「ならタロチャンが乾かして。」


「はぁ…わかったから。ほら、洗面所行くぞ。」


「お姫様抱っこで連れてってー。」


「……。」


ーー朝から疲れてる慎太郎は面倒臭くなったので無言でお姫様抱っこでみくを連れて行った。しかし、お姫様抱っこをする時にちゃっかりとみくの胸の感触を味わっているえっちな慎太郎であった。


「えへへ、タロチャンに髪触られてると気持ちええなぁ。」


「喜んでもらえるんなら光栄ですよ姫様。」


「毎日やってもらおかなぁ。」


「家では無理。みんなに見られたら大変な事になる。イベント中だけだからな。」


「はぁーい。」


ーーお前らいい加減にしろよ。イチャイチャイチャイチャしやがって。牡丹にバレて死ねばいいのに。


「さっきの放送聞いた?」


「んー?聞いてへんよ?なんかあったん?」


「風呂場にはスピーカー無いって事か。9時から朝メシだって。」


「お腹空いたから食べたい。朝ごはん何かな?」


「俺はパンがいいな。」


「あ、ウチも!目玉焼き乗せたのが食べたい!」


「いいなそれ!みくは挟んで食べる派?それともトーストに乗っけただけ派?」


「ウチは乗せるだけかな?挟むと目玉焼きの味が薄まるんやもん。」


「おぉ!わかってるじゃん!俺も乗せるだけ派なんだよ。食べるのが大変なんだけど味が良くわかるんだよ。」


「そーそー!たまに滑り落ちて来るのが厄介なんだよね!」


「わかるわー!」


ーーここに牡丹来るイベントとか発生しないかな。そうすれば全部ブッ壊れるのにな。


「ま、あんま期待しないで行こうぜ。目玉焼きトーストはイベント終わったら食おうよ。」


「タロチャン作ってくれるん?」


「そんなもんぐらいでいいなら作るよ。」


「誰かに手料理食べさせた事ある?」


「ないなー。」


「ふーん。なら約束ね?」


「おうおう。」


「指切りしよ。」


「はいはい。」


ーー牡丹来てくれねーかなぁ!!!




********************



【 1日目 AM 8:57 食堂 残り 20人 】



みくの髪を乾かして俺たちは食堂へとやって来た。食堂内も青卓と赤卓に分けられ、自分の席にはプレートが貼られている。

俺は自分の席へと着き、朝メシが始まるのを待ちながら周りの様子を伺う。今この食堂内にいるのは俺とみくを除いて13名。あと5名はここへはまだ来ていない。奇数になっているのが気になる。どこかのクランは1人で来ているという事だ。仲が悪いのか、それとも意図的なのか。よく見極めないといけないな。今日は他のクランの動向を探ろう。俺自身が大きく動く事はなるべく避ける。それが初日の役割だ。


ーー慎太郎が作戦を練っていると朝食の時間になり、ミリアルドが食堂へと入って来る。


「それでは時間になりましたので朝食とさせて頂きます。」


ミリアルドが朝食で食べるであろう食材を台車で引いて持って来た。バイキング形式なのだろうか。世話人がコイツしかいないのならそれしかない。て事はコイツが作ったのか?なんか嫌だな。怪しさ大爆発じゃん。毒でも盛られてたら一網打尽じゃん。冷静に考えるといつもラウムに入ってる料理も怪しいよね。今更だけどもっと危機感持つべきだったよな。


ーーどうでもいいがバイキングというのはオッさん臭いぞ慎太郎。


「こちらが皆様の朝食となります。種類も豊富かと思いますのでご満足いただけるかと思います。お手数ですがビュッフェ形式となりますのでよろしくお願い致します。」


ケッ、何がビュッフェだよ。俺はその言葉大嫌いなんだよね。バイキングでいいんだよバイキングで。


ーーそういう所が実にオッさん臭い。


ともあれ、腹が減っては戦はできぬ、という訳だから俺は朝メシを取りに行く。米、パン、パスタの主食を始め、サイドメニューの唐揚げやら焼き魚、ハンバーグとかまでありやがる。おっ、俺の好きなフルーツポンチまであるじゃねぇか。給食で食ったの美味かったよなぁ。小、中とあんまり学校生活での良い思い出は無いけど給食のフルーツポンチは美味かったんだよなぁ。


ーー懐古しながら皿へと盛り付けた慎太郎は自席へと戻り食事を始める。

そして、事態は少し動くーー


「皆さん!どうですか?自己紹介なんてしてみませんか?確かに僕たちは敵同士ですが、お互いを知って行く方が共同生活も上手くいく。そうは思いませんか?」


青卓に座る中の1人が立ち上がり、全員に対して演説を始める。


「自己紹介ね…ま、確かにそれぐらいはやっておいた方が良いかもしれないね。」


同じく青卓に座る男が男の意見に同調する。


「少なくとも俺ら青卓組はどいつがどいつと組んでるのか当てないといけないんだ。どんな人間か知っていけばそれも楽になるだろうしね。」


男は含み笑いを浮かべながら自論を述べる。


「そうですね。俺たちだって投票するだけじゃなくてその辺も見極めないといけないわけだから自己紹介をする事には賛成です。」


赤卓の中の1人もその案に同調する。


「じゃあ決まりって事でいいですね?」


最初に自己紹介を提案した男が皆に確認を取る。誰からも拒絶をする意見は出ない。提案は受け入れられたようだ。


「では先ずは僕から始めます。あとは時計回りに青卓から自己紹介をして、終わったら赤卓の…今僕の提案に賛成してくれた…」


「二階堂です。」


「ありがとうございます。二階堂さんから時計回りに自己紹介をしましょう。では、僕は我妻淳一と言います。年齢は35歳。実生活ではシステムエンジニアをやっております。この中で生き残るのは6名ですが、なるべくは仲良くやっていきたいと思ってますのでよろしくお願いします。」


我妻というオッさんはヒョロっとした体型のいかにもパソコンが得意って感じの人だ。バトル系のイベントなら瞬殺されそうに見える。それでも青卓って事はクランリーダーなわけだ。何かしら秀でているものがあるって事だろう。見た目で判断はしないようにしよう。


我妻の自己紹介が終わり、左隣に座る女へとバトンが渡される。


「えっと…初めまして。立原恵です。歳は23で美容師をやってます。よろしくお願いします。」


立原って人は美容師って仕事をしてるだけあってお洒落な格好をしている女性だ。髪も明るめで派手な感じ。顔のレベルはウチの美女軍団を見てるせいと、同じ空間にみくがいるから客観的な判断が出来ない。他を見てもとてもじゃないがみくに匹敵するような可愛い子はいない。当たり前だよな。ウチのクランが異常なんだよ。みんな美人で可愛いっておかしいだろ。


「次は俺だな。俺は神白源太、28だ。特に決まった仕事はしてねぇ。ま、要はフリーターだ。よろしくな。」


神白は結構筋肉質な男だ。髪は坊主頭でジャージという典型的なダメ人間スタイルだ。俺の勝手な偏見だがパチンコ屋に朝から並んでそうな見た目だ。


「あ、どうも。星野裕介です。歳は32で自営業やってます。よろしくお願いします。」


星野はかなり大きな体の大男だ。元力士じゃないかってぐらいの巨躯で、体重は130は楽に超えていそうに見える。頭脳戦じゃなかったらコイツの存在はかなり厄介だったかもしれないな。


「…あの…佐々木若菜です…23歳です…本屋で働いてます…よろしく…お願い…します…」


佐々木って子は眼鏡に三つ編み一つ結びをしたおとなしめの女の子だ。とてもじゃないがこんな子がリーダーをやってるなんて信じられない。


「初めまして。高藤伸一です。歳は18歳で高校生やってます。よろしくお願いします。」


高藤って兄ちゃんは割と爽やかな高校生だ。顔は…ま、普通かな。イケメンじゃなければ俺の敵ではない。


ーーそして慎太郎の番になる。


「初めまして。田辺慎太郎です。歳は34ーー」

「34!?」


ーー室内の至る所から激しい突っ込みが入る。二十代前半の見た目の男が三十半ばと言っていたら驚くのが当然だ。もはや恒例の出来事である。


「……えっと、よろしくお願いします。」


ーー慎太郎の自己紹介が終わり青卓の面々についてはこれで終わりとなる。他に3名いるが、彼らはここに姿を見せていない。なので次は赤卓の面々へと移って行く。


「では赤卓は俺からですね。初めまして。二階堂スグルです。歳は43。職業は歯科医をやってます。よろしく。」


二階堂ってオッさんは色黒で茶髪のチャラそうな感じだ。てっきり土方かと思った。歯医者って感じじゃねーだろ。


「次はウチやな。初めまして。綿谷みくです!17歳の現役JKやでー!よろしゅうな!」


やっぱ可愛いなみくは。もう別世界の生き物じゃん。もうね、天使だよ。その可愛いさは犯罪ですよ。明らかに野郎どものテンション上がってんじゃん。テメェら俺のみくをエロい目で見てんじゃねぇぞ。


「は、は、は、初めまして…宗像慎吾で、です…34です…よ、よ、よろしく…お、お願いします…」


俺と同じ歳の宗像ってオッさんが自己紹介してるが社会不適合者やん。これがこどおじってってやつか。こうはなりたくねぇなぁ。いや、当たり前か。アリスがいるのにこどおじなんてなるわけねーだろ。てかこれから生活費がもっとかかるわけか。ま、楓さんが食費全部出してくれてるから助かってるけどネックなのはノートゥングのやつのアイス代とプリン代だよな。結局プリンまで毎回買う羽目になったしよ。このままだとノートゥングのデザート代で月に20万ぐらい行くよ?馬鹿じゃね?ありえないよね?デザート代だよ?一人分だよ?もうね、アホかって。破産だわ。20万あれば2人で生活出来るわ。

とまあ、不満はあるんだけどよ。アイツの幸せそうな顔見てるとさ。ま、いっか。って

思っちまうんだよね。はぁ…


ーー甘い男である。


「…吉田巧。…16。…高一。よろしく。」


…暗い兄ちゃんだな。学校生活大丈夫か?髪の毛もボサボサで前髪が目にかかってんじゃん。黒魔術とか使えそうな見た目だな。


「俺は嘉門大作だ。歳は43。トラックの運転手をやってる。よろしくな。」


頭がハゲてるな。U字ハゲだ。アレならスキンヘッドにした方がカッコいいと思うんだけどな。俺もハゲたらどうしよう。ハゲたら絶対みんないなくなるよね。アリスも口利いてくれなくなるよね。あー…でもね、自惚れじゃないけど牡丹はそんな俺でも嫌いにならないって確信あるわ。あくまでも俺に気持ちがある間はって前提だけどな。ハゲは嫌だな。気をつけよ。


ーー実は慎太郎は毎日育毛剤をつけている。29の時からハゲるのが怖くて毎日つけているのだ。


「…岸井彩名。18。高校生。以上。」


ぶっきら棒に喋るお姉ちゃんだな。不良の雰囲気が出まくりじゃん。髪も金色に染めてるし。俺が苦手なタイプだな。


「樫原拓也。21歳。職業はホスト。女の子はヨロシクね。」


やっぱりホストだったか。髪型からして明らかにそれっぽいもんな。流石にホストだけあって、この中じゃ一番のイケメンだ。気にいらねぇな。


ーー安心しろ。お前がぶっちぎりでイケメンだ。


「僕で最後ですね。初めまして。山城貴之です。28歳で製薬会社に勤めています。よろしくお願いします。」


普通のサラリーマンって感じだな。絵に描いたようなサラリーマンって感じだ。てかよく考えたら俺らって土方とかヤクザとかとマッチングされる率高かったのに今回はゼロだよね?今までが異常なんじゃね?それか原因は美波だな。美波のエロさがそういう系の奴らを惹きつけているのかもしれん。全く美波はけしからんな。


ーーこういうのを風評被害というのだろう。



ーーそして、ここで事態は動く。




「ではこれで皆さん自己紹介が終わりましーー」

「ーーあの、待って下さい。」


自己紹介が終わり、我妻がシキろうとしていると、立原が口を開く。


「どうしました、立原さん?」


我妻が立原に尋ねる。


「…もう限界です。私はここへ全てを終わらせる為に来ました。だから正直に言います。」


立原が思い詰めた表情で淡々と述べていく。


「すみませんが立原さんが何を言っているのかわかりません。もう少し詳しく言ってもらえますか?」


「私…!嘉門大作と同じクランなんです…!!」


「アアッ…!?て、テメェ何言ってやがんだ…!?」


ーー食堂内がどよめく。


「私…その男に弱みを握られて…身体を弄ばれ続けていたんです…でも…もう限界…だからその男を道連れに死ぬ事を決心しました。私たちを殺して下さい。お願いします。」


ーー立原が深々と皆に向かって頭を下げる。そして、嘉門が転がるようにしながら青卓へとやって来る。


「ま、待ってェェ!?やめてくれ!?頼むから密告しないでェェ!!!!なんでもしますからァァァァ!!!」


ーー嘉門が青卓の面々に鬼気迫る表情で懇願する。だが神白が立ち上がり、薄ら笑いを浮かべながら嘉門へ口を開く。


「やめるわけねぇだろバーーカ!!6人しか生き残れねぇのにこんなチャンス逃すわけねぇ。いやー、姉ちゃんに感謝だわ。俺が密告してやるよ。おい、運営さんよ。密告ってどうすりゃいいんだ?」


「やめて!?やめてェェ!?」


ーー嘉門が神白の足を掴んで必死に懇願する。


「うっせぇよオッさん!!テメェは負けたんだよ!!」


ーー神白が嘉門を蹴り飛ばす。


「うぅぅ…!!嫌だ…!!嫌だァァァァ!!!」


「ヘッ、往生際の悪い奴だ。で?どーすりゃいい?」


「口頭で言っていただいて構いませんよ。」


ーーミリアルドがそれに答える。


「んじゃ、密告するわ。立原って姉ちゃんと嘉門ってオッさんが同じクランだ。」


ーー神白が勝ち誇った顔でミリアルドに密告する。


「最終確認です。それでよろしいのですね?」


「ああ。早く始末してくれや。」


「わかりました。不正解です。よって神白源太と宗像慎吾はゲームオーバーとなります。」


「はーー」



ーーボンッ



ーー神白が声を発する前に頭が破裂する。それによりトマトケチャップが暴発したように神白と宗像の周りには赤い塊が飛び散る。


「あは…あはははははは!!!バッカじゃねぇーの!?こんな芝居に引っかかるなんてお前正気かぁーー!?」


ーー狂ったような奇声を立原があげる。


「なんでって思ってる?そんなの簡単だろ!私と嘉門さんは組んだんだよ!同盟さ!生き残る為の最善の手を打ったんだよ!あはははははは!!いやー、ナイス演技だったよ、嘉門さん!」


「ヘッ、ありがとよ。」


ーー立原と嘉門が得意げな表情で勝利の挨拶を交わす。


「さあて、あとは18人。楽しいバトルになってきたねぇ。」




ーー動き出した新イベント、トート・ゲヒルン。そして、同時刻、現代にいる楓たちにも異変が起こる。



『お世話になっております。俺'sヒストリー運営事務局です。これより強制参加イベントを開始させて頂きたいと思います。10分後に開始となりますので準備の程、よろしくお願い致します。』

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