第327話 慎太郎のいないバトルイベント
「あれ…?タロウさんとみくちゃんがいない…?」
タロウさんがスマホをタップした瞬間にタロウさんとみくちゃんがいなくなった。そっか、選ばれたのはみくちゃんなんだ。みくちゃんなんだ。みくちゃんかぁ…
…おかしいよね?普通は私の番じゃないかな?私は正妻だよ?正ヒロインだよ?アニメ化された時はタロウさんの次に名前が載るポジションだよ?そんな最重要キャラである私を蔑ろにするなんておかしくないかな?作者は本当に何を考えてるのかしら。
※何も考えていません。
あれ?でもおかしくないかな?いつもはイベントが始まってもタイムラグなんて無い。気づいた時にはイベントが終わってみんなが戻って来ているはず。それなのにタロウさんとみくちゃんは帰って来ない。おかしい。何かあったんだ。
そう気づいた私はすぐにみんなに声をかける。
「みんなっ!これ、おかしいですよっ!何かーー」
ーーその時だった。美波が喋るのを止める。だって……
「ううっ…」
ーー牡丹がガチ泣きしてるから。
「ううっ…運命で結ばれているのに…また離れてしまった…ううっ…」
ーーその様子を美波たちは乾いた目で見ていた。
うわぁ…依存度強いなぁ…本当に泣いてるじゃない。涙ポロポロじゃない。気持ちはわからなくはないけど。でもね、牡丹ちゃん。運命で結ばれているのは私なんだよっ。だから将来タロウさんと一緒になった時に刺したりしないでねっ。
ーーお前も十分依存度強いからな。
「…ぼ、牡丹ちゃん。落ち着きなさい。しょうがないわよ。ほら、みくちゃんは入ったばかりなんだし。ね?」
ーー楓が牡丹を宥める為にフォローをする。流石はサブリーダー。どこぞの自称正妻とは違う。
「…しょうがない。そうですね。仕方がありませんよね。留守を守るのも妻としての役目。ふふふ。」
ん?すんなり納得した?珍しいわね。いつもならヤンデレモードになってるはずなのに。
ーーここで美波は牡丹が首につけているネックレスを触っている事に気づく。
あれ?牡丹ちゃんってネックレスなんかしてたかな?風水とかでもやってるかな?
ーー知らぬが仏とはよく言ったもんだ。
「って、そうじゃないですっ!みんなっ!何か変ですっ!」
「変?何が変なの?」
「タロウさんとみくちゃんがいない事を確認してるのに2人が戻って来てませんっ!いつもなら気づいた時には戻って来てるんですっ!入替戦の時がそうでしたからっ!」
「…つまり、2人の身に何かが起きたって事?」
ーー美波の言葉に楓が険しい顔になる。
「…可能性はあると思います。それか私たちに何かが起きるのかも。」
「どういう事でしょうか?」
ーー冷静になった牡丹が四つん這いの姿勢から立ち上がり美波へと向き直る。
「もしも本当にタロウさんに何かがあったのなら私たちは奴隷になっている。でも私たちは自由だよねっ?それなら私たちにこれから何かが起こる前触れなのかもしれない。そう思ったの。」
「なるほど。それはあるかもしれませんね。」
「じゃ、じゃあ私たちも今からイベントに行くって事でしょうか?」
ーーアリスが不安そうな顔で美波に尋ねる。
「可能性はあると思う。そして私の予想が正しければそろそろーー」
ーーピロリン
ーー室内にスマホの通知音が鳴り響く。
「…美波ちゃんの読み通りって訳ね。」
「確認してみましょう。」
ーーそれぞれがスマホを確認する。
『いつもお世話になっております。俺'sヒストリー運営事務局です。只今より、強制参加イベントを開催させて頂きます。尚、今回は新イベントであるトート・ゲヒルンに参加されているクランはリーダーと1名のメンバーの方が不在となっております。細心の注意を払って頂く事をお勧め致します。救済措置と致しまして、対象のクランの方々は10分間の猶予を与えますので準備を済ませて下さい。よろしくお願い致します。』
「ゲリライベント…!?美波さんの言った通りです…!!」
「嫌な予感が当たっちゃったけどねっ…」
「いえ、そうだとしても心の準備が出来た点は大きいと思います。流石は我が師匠です。」
「10分の猶予があるだけマシね。オーダーを確認するわよ。」
「はいっ!」
「はい!」
「わかりました。」
「多分2人、2人に分かれるとは思うけど万が一3人、1人になった場合は決して無理はしない事。特にアリスちゃん。アリスちゃんが1人になった時はその場で隠れていて。必ず私たちが迎えに行くから。」
「わかりました!」
ーーアリスが元気よく楓の指示に返事をする。
「それと牡丹ちゃん。今回はタロウさんがいない。そうなるとフリーデンは使えないわ。無茶はしないでね。」
「心得ました。」
ーー牡丹は普通に返事をするが慎太郎がいないというワードを聞いて心が沈んでいた。でもすぐにリングに触れ、『大丈夫、離れていても心は繋がっています。ふふふ。』などと、安定のヤンデレクイーンっぷりを全開で発揮していた。
「美波ちゃんはどうせノートゥングが勝手に出てくるから心配ないだろうけどいざとなったらプロフェートを使ってね。あの目は危機に陥れば陥る程役立つと思うわ。」
「わかりましたっ!」
うんっ、頑張らないとっ!タロウさんがいない時こそ頑張るのが正妻よねっ!美波、頑張りますっ!
「そういえばまだ前回のイベントの時に手に入れたガチャ券使ってなかったですよね?」
ーーアリスの発言により3人に衝撃が走る。
ーー楓は前回イベントの後に慎太郎と色々あってイチャイチャしてたからそんな事すっかり忘れていた。ガチャ券の事なんてカケラも頭になかった。
ーー牡丹は慎太郎からペアリングをもらって浮かれていたのでそんな事なんて覚えているはずもなかった。
ーー美波は洗濯禁止令を敷かれている事で慎太郎成分を補給出来ないから、どうやってストックしてある慎太郎のシャツ等を禁止令が解かれるまで回そうかローテーションを考えていたので失念していた。
ーー早い話がどいつもこいつもポンコツなのである。
「…その件はタロウさんとみくちゃんが帰って来てからにしよっか。」
ーーバツの悪そうな顔をして楓がとりあえずガチャ券の事は無かった事にしようとする。
「…そうですね。タロウさんがおられないのに勝手な事は出来ません。」
ーー牡丹も同様にバツの悪そうな顔をしてガチャ券の事は無かった事にしようとする。
「…そうですよねっ。みんなで一緒がいいですもんねっ。」
うんっ、その件は後にしよう。そんな事よりもタロウさん成分の事を考えないとっ。
「はい、そうですね!」
ーーこのクランの良心はアリスだけのようだ。
「さてと、そろそろ時間ね。絶対にみんなで帰って来ましょう。1人だって欠ける事は許さないわよ?」
ーー楓が右手を前に差し出す。
「ふふふ、当然です。タロウさんの許可も無く勝手に死ぬ訳には参りませんので。」
ーー牡丹が楓の手の上に自分の手を重ねる。
「はい!みんなで一緒なのが私たちですから!」
ーーアリスが牡丹の手の上に自分の手を重ねる。
「ふふっ、戻って来てみんなで祝勝会ですねっ!」
ーー美波がアリスの手の上に自分の手を重ねる。
ーー慎太郎がいなければ円陣を組む事が出来るようだ。慎太郎はいない方がいいんじゃないだろうか。
「行くわよ!!」
「はい。」
「はい!」
「はいっ!」
ーーかつてないほどに最高の士気を保ったまま、美波たちだけで臨む強制参加イベントが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます