第321話 侮り

『詳細を御説明致しマス。これからプレイヤーの皆様には大広間へと御集り頂きまス。大広間へは部屋から出た瞬間に転送されるようになっておりますので御安心下さイ。

そしテ、ここからが肝心な内容デス。今からプレイヤーの皆様には競い合って頂きまス。己の知リャク、戦略を駆使シ、他のプレイヤーを蹴落として勝利を掴んで頂くのデス。勝負方法につきましては大広間にて担当者より御説明致しマス。ワタシが御伝えするのは注意点デス。これから大広間へと移動されますガ、プレイヤーの皆様のパートナーとなりますクランメンバーがそこにはおりまス。ですガ、決して他のプレイヤーに同じクランのパートナーだと知られないようにして下さイ。知られればそれが死に繋がりマス。相手を欺くように他人のフリをされる事を御勧め致しマス。それでは大広間へと御集り下さいマセ。』


アインスの映像が途切れると、ドアの鍵が解錠される音がする。他人のフリをするってのがよくわからないがとりあえず指示に従おう。もしも牡丹だったらちゃんと他人のフリを出来るのだろうか。牡丹はいつも俺の事ガン見してるからそこは不安だ。

不安に感じながらも俺はドアのノブを回し部屋を出る。するとそこはかなり広い大部屋へと繋がっていた。そこにいるのは20人近いプレイヤーらしき者たちだ。そして、俺のパートナーとしているのは、





みくだ。





みくだ。





みく。




みくかぁ…




みくなのかぁ…





俺は膝から崩れ落ちそうになるのをどうにか堪える。完全に足にきてるがどうにか堪える。めっちゃ不安なんだけど。赤点疑惑の女子高生と頭脳戦とか不安しか無いんだけど。てか正直俺は牡丹だと思ったよ。こういう時の牡丹率は高いから予想してたんだけど見事に外したわ。やっべぇなぁ…ここで死ぬかもしれんなぁ…


ーー慎太郎がめっちゃ失礼な事を考えている中、みくはめっちゃ喜んでいた。


『やった!ウチが選ばれたやん!ここでタロチャンと一緒に頑張って活躍してクランの一員として貢献出来るようにがんばろ!』


ーーと、このように超健全に喜んでいた。他の欲に塗れた自称正妻やらヤンデレクイーンやらダメープルとは違って超健全だ。他の連中はみくを見習うべきである。


ーー慎太郎が失礼な事を考えていると室内にある両扉が開き、1人の男が入って来る。


「プレイヤー諸君。御参加頂き誠にありがとうございます。私がこの59号館の担当になりましたミリアルド・アーベントロートと申します。イベント終了までゲームの進行を務めさせて頂きますので宜しくお願い致します。」


そう挨拶するのは金髪で長髪、俺より背が高く、超絶イケメンの外人だ。気に入らねぇ。品が良さそうなのも気に入らねぇ。


ーー慎太郎はイケメンを見ると基本的にイライラしてしまう悲しい性をもっている。


「早速ではありますが、今イベントであるトート・ゲヒルンについての御説明に移らさせて頂きます。現在この会場内には20名のプレイヤーがおられます。そして皆様の前には赤と青の円卓がそれぞれ1卓ずつ御座います。先ずはそちらにお掛け頂いても宜しいでしょつか?青の卓にはリーダーが。赤の卓にはメンバーの方が御座りになられて下さい。席には名前の書かれたプレートが御座いますので御自分の名前が書かれた席に御座り頂ければと思います。」


ミリアルドに言われるがままプレイヤーたちは自席へと着席する。コイツに命令されるってのが癪だが仕方がない。今は我慢しよう。


「ありがとうございます。次にそれぞれの役割について御説明致します。先ずは青の卓に座られているリーダーの方々。貴方方の役割はペアを組んでいるクランを見つける事です。」


「どういう事だい?」


ミリアルドの説明に青の卓に座しているプレイヤーの1人である30代ぐらいと思われる女が口を挟む。


「難しい話ではありません。貴方方は赤の卓に座られているプレイヤーの誰かと同じクランで活動されております。そのペアを見つけて私に報告して下さい。そのペアが合っていた場合、そのクランはゲームオーバーとなります。」


「なるほどねぇ。そうやって密告して潰していくのが今回の新イベントって事かい。」


「左様でございます。」


「あっはっはっは!そんなアホなイベントをやるなんて思ってなかったよ!ちゃんとアンタら考えてんのかい?全部の組み合わせをアンタに報告すれば即ゲーム終了じゃないか。」


「西崎様。まだ私は説明を終えておりません。当然そのような抜け道がありますのでそれを阻止する為の注意点も御座います。ペアを報告した際、それが間違っていた場合、虚偽の報告をしたとしてその報告をしたクランのゲームオーバーを宣告致します。」


「…ハッ、ちゃんと考えてたんだねぇ。」


「禁止事項として、暴力は御法度と致します。この館ではスキル、ラウムは一切使用できません。当然それらは使えないとしても暴力や脅迫を用いたペアの聞き出しを行なった際は私が粛清致しますので呉々も御注意下さい。」


なるほどね。完全に頭脳戦のみのバトルってわけか。おもしれーじゃん。


ーー慎太郎はクイズ、謎解きといった類のものが大好きなので実は結構ワクワクしていた。


「そして赤の卓に座られている方々。貴方方は明日から毎日夜に、赤の卓の方々を消して頂きます。」


ミリアルドの言葉に場内がざわめく。


「おいおい!暴力は禁止なんじゃねぇのか!?」


赤の卓に座する男の1人が大声で喚き始める。


「誤解しないで頂きたい。何もリンチをして殺せと言っている訳ではありません。投票をして頂きます。」


「あ?投票?」


「はい。夜9時に赤卓の方々が誰か1名に投票し、最多得票を得たプレイヤーが脱落するという内容となっております。」


なんか人狼ゲームみたいだな。


「ちょっと待てよ!!それのどこが頭脳戦なんだよ!?そんなのただ気に入らない奴に投票するだけじゃねぇのか!?」


更にもう1人の男が声を荒げて不満の弁を述べる。


「遠藤様、話は最後まで御聞き下さい。当然ながら面白い要素も御用意致しております。赤卓の皆様の椅子の裏にカードが貼っておりますので確認して頂いても宜しいでしょうか?それと忠告です。他のプレイヤーのカードを見たり、見せたりした際はペナルティーとしてゲームオーバーとさせて頂きます。」


その言葉を聞いて赤卓のプレイヤーたちは慎重にカードを確認する。


「御確認は終わったかと思いますので進行致します。そのカードには2種類あります。7枚は白紙、3枚は盾の絵柄が書いております。そして、盾のカードを手に入れた貴方は運が良い。盾のカードを使用した方は3日間投票による粛清を受ける事が無くなります。」


それはデカいな。3日間必ず生き残れるのはありがたい。最初に盾を手にしてるかどうかで勝敗はぐっと変わるな。


「そして盾のカードを使用したプレイヤーが最多得票になった際がとても面白いです。そのプレイヤーに投票した方は全てゲームオーバーとなります。」


「は!?」


再度会場がざわつく。なるほど。頭脳戦らしくなって来たな。これはなかなか面白いぞ。血が滾って来たぜ。


「これが基本ルールとなっております。また、このイベントにおける生存者は最大6名までとさせて頂きます。部屋はそれぞれの名前が書かれたプレートがドアに貼られておりますのでそちらで休まれるなどをして下さい。そして同クランの方々は部屋に入ると同部屋になる仕組みとなっておりますので安心して作戦を練って下さい。また、他のプレイヤーの部屋を訪ねたりするのは構いませんが、無許可で部屋に入る事は出来ませんし、許可を得て入ってももう片方のプレイヤーとの空間は遮断されますので御注意下さい。最後に盾のカードの使用方法ですが、スキルを使う時と同じ様に念じれば自動的に使用されます。今使ったとしても効果は明日からになりますので御安心下さい。私からは以上です。では明日から投票開始とさせて頂きます。」


「あ、ちょっとええかな?」


ここでみくが手を挙げ、口を開く。


「ウチ、盾のカード持ってるで。そんで早速使わせてもろたからよろしくな。」


みくの言葉に赤卓の数人が立ち上がる。


「何を言ってんだこの女!?教えたら粛清だろ!?馬鹿じゃねぇのか!?」


「そうよ!!これ反則でしょ!?ペナルティー与えてよ!!」


男と女がミリアルドへと詰め寄りみくを粛清するように求める。だが、


「いいえ。綿谷様は反則を犯しておりません。私はカードを見たり、見せたりしたら駄目だとは言いましたが教えてはいけないとは言っておりません。」


「はぁぁ!?何を言ってんのよ!!そんなの屁理屈じゃない!!」


ミリアルドの言い振りに女が激怒をする。だがミリアルドは冷ややかな目で女に言い放つ。


「貴女、何を言っているんですか?これは頭脳戦ですよ?私が言った禁止事項以外に気づいて即行動する綿谷様こそ非常に優れているのです。そんな事にすら気づかないような無能がガタガタ喚くな。貴様を粛清してやろうか?」


「くっ…!!」


ミリアルドの口調の変化により怯えた女は萎縮してしまう。

だがミリアルドの言う通りだ。これは頭脳戦。ルールを守り、禁止事項に触れないように立ち回るのが大原則。

そしてそれに気づき、即行動に移したみくは賢い。これで3日間は安泰だ。そしてみくが真に賢者かどうかがわかるのは盾のカードを使ったのか、使ってないのかでわかる。ここでの選択は盾を使わないのがベストアンサーだ。使ったと公言された以上はみくに投票をする事が出来ない。投票をして万一みくが最多得票になり、本当に盾を使っていたら投票者が処分される事になる。そんなリスクは当然犯す事は出来ない。そしてそれは3日間だけに終わらない。みくが本当に盾のカードを使ったかわからないからだ。使ってなくて4日目に使うようなパターンなら6日目までみくの安全期間が続く。人間の心理として6日目が終わるまではみくに投票を入れる事が出来なくなるのが自然だ。そしてそれはみくの側にも言える。最初の3日間はハッタリで切り抜けられたとしても4日目には恐怖がある為に盾のカードを使わざるを得ない。何故なら数名は4日目にみくに票を入れる可能性がある。みくの言葉を信じて3日間で盾の効力は切れ、4日目には効果が切れる。投票しよう、と、安易に考えて投票する輩がいる可能性があるからだ。それがある以上はみくは4日目に盾を使わざるを得なくなる。そして7日目にはほぼほぼ、みくの負けが決定してしまうという諸刃の作戦ではあるが、生存率が一番高い一手であるのには間違いない。何より後は俺の仕事だ。6日の間にこっち側で1人仕留めればそれで終わる。それだけで良いのだ。このイベントの勝利がほぼ決まった瞬間だ。但し、みくが盾のカードを本当に使ったりしてなかったり、実は盾のカードは持ってなくてハッタリをかましただけって訳じゃない事が前提になる。それだとしても最初の3日は助かる。俺が毎日1組見つければいいだけだ。みくの功績は大きい。ナイスみく。俺はお前を侮っていたよ。


「それではこれにて解散と致しましょう。部屋へとお戻り下さいませ。」

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