第320話 トート・ゲヒルン開始

夜8時、俺たちの元へ運営から通知が来る。リリが教えてくれた通りだ。リークされていた事で俺だけは冷静に振る舞えたがみんなに動揺が走る。この内容なら当然だ。

内容は次のようになっている。





『いつもご利用ありがとうございます。俺'sヒストリー運営事務局です。

この度、新規イベントを開催する事を決定致しましたのでプレイヤーの皆様に御報告させて頂きます。詳細につきましては下記の通りとなります。


・イベント内容については参加後に説明。


・参加はクランリーダーとランダムにメンバーの中から1名を選出。但し、支配下プレイヤーは不可。(クラン預かりの支配下プレイヤーは参加可能)


・強制参加ではなく任意。


・報酬はゼーゲン。


・クランを結成していないプレイヤーは参加不可。



以上とさせて頂きます。

また、参加決定はこの通知の5分後までと致します。クランリーダーの本通知下部に参加バナーが表示されておりますので、そちらをタップして下さい。そして、そのままイベント開始となりますのでご留意下さい。

今後とも俺'sヒストリーをよろしくお願い致します。』






俺たちはその話し合いを今行なっている。なにぶん時間が無い為、即座に判断をしなければならない。俺としての意見は決まっているが皆の意見で判断をするのがクランの方針だ。話し合いの結果によってはこのイベントは見送る。さて、どうなることだろうか。



「新イベントね。時間が無いから簡潔に話を終わらせましょう。」


楓さんが場をまとめる。実質的にサブリーダーとしての役割はこの人が担っている。むしろ俺よりもリーダーとしての資質は高いはずだ。本来なら楓さんがリーダーやる方がいいと思うんだけどな。


「そうですねっ。今回のこのイベント、内容の告知がないっていうのが引っかかります。それに2名のみが参加っていうのはどういう事でしょうか?バディイベントに近いのかな?」


次に声を出すのは美波だ。疑問点や課題点にいち早く気づく所は流石だ。


「よくわかりませんね。情報が余りにも少な過ぎます。ただ、ゼーゲンを報酬とする点から考えて決して楽なイベントでは無いはずです。」


それに続くのが牡丹だ。以前よりも落ち着きが出て来たな。もうヤンデレモードにならないといいな。


「もしも私が選出されたら足を引っ張ってしまうかもしれませんよね…そこは心配です…」


大丈夫だアリス。俺がお前を絶対に守るからな。だから心配する事なんて何も無いんだぞ。


「んー。でも大丈夫なんやない?ウチらって強そうやん。ワーって上手い事行くような気すんねんけどなぁ。」


楽観的なのはみくの良い所かもしれないが、本当にお前は頭良いのだろうか。どうも信じられないな。赤点取ってる姿しかイメージ出来ないんだけど。


「油断は禁物だけどみくちゃんの言う事もわかるわ。私たちはなんだかんだ言っても上手くいってるのは確か。そしてゼーゲンが報酬というならやる価値はあると思う。」


俺は頭脳戦をやるって事は知ってるわけだけど不安はある。ウチのクランは知力が高いメンバーが揃ってるけど弱点は当然ある。アリスだ。もしも頭脳戦というのが別個で何かを競ったりする類のものなら子供のアリスには相当なハンデとなってしまう。俺と楓さんが組めば負ける事は無いって自信を持てるが、どうしてもそこは厳しいと言わざるを得ない。

だからといってアリスが足手まといという事は無い。俺の可愛いアリスが足手まといなもんか。頭脳戦というカテゴリーに至っては不得手というだけだ。俺がその分頑張ればいい。だが初回としては楓さんと組む事が望ましいのは事実。ここは賭けだ。


「さてと、じゃそろそろ決めましょうか。みく。俺たちのクランのルールは全員一致が大原則だ。誰か1人でも反対があれば絶対に行わない。かといって合わせる事はしないで欲しい。正直に自分の思った事を言うのが俺たちだ。」


俺はみくにクランのルールを伝える。別にルールなんてものは無いが、これだけは絶対だ。みんなに合わせて自分の意見が言えないなんてあってはならない。俺は自由で伸び伸びとみんなに過ごしてもらいたい。だから気を遣うような事はしてもらいたくないんだ。


「うん、わかった!ちゃんとウチの思った事を主張するね!」


「おう。それじゃ順に聞いていこう。俺は参加をしたいと思う。これからの為にもゼーゲンは必要だ。手に入れられる時に手にするべきだと思う。」


「私も参加した方が良いと思うわ。ゼーゲンは必要よ。プレイヤーたちだけじゃなくリッターとも戦う事が想定される以上、私たちは力をつけないといけないわ。」


楓さんも参加に1票か。やはりリスクを差し引いてもゼーゲンの存在が大きいという事だろうな。


「私も同じですっ。ゼーゲンが何本もらえるかはわからないけど一本でも多く手に入れるべきだと思いますっ。」


美波も参加に1票。ゼーゲンを手に入れる事に重きを置くのはみんな同じようだ。


「私も参加をすべきだと思います。ここで参加をしなければ他のプレイヤーと差が出来てしまいます。守りに入る事は決して悪い事ではありません。ですが、ここで不参加をすれば返ってクランの危機を招く事になり兼ねない。天秤に掛けた時、得をするのは参加だと私は考えました。」


牡丹も同じだ。ま、牡丹は参加してくれるって確信してたけどな。


「ウチも参加やね。やっぱりみんなの言う通りやと思うもん。ゼーゲンは絶対必要。」


みくも同様か。やはりゼーゲン入手がみんなの争点なんだな。


「私もみんなと同じです。私はゼーゲンを持てませんけどみんなが持つ事で私たちは強くなれます。参加すべきです。」


アリスの参加票で俺たち全員の方針が決まった。やっぱ、価値観同じなんだな。


「じゃ決まりだな。参加しよう。」


「ええ。」


「はいっ。」


「はい。」


「やったるでー!」


「はい!」


みんなの同意を得て俺は参加バナーをタップする。そしてーー






















「……うっ…ここは…?」
















目を覚ますと四畳半の半分程の狭い部屋に俺は寝転がっていた。部屋を見渡すとドアとモニターだけがある。まずは部屋から出るかと立ち上がろうとした瞬間、モニターが点く。


『プレイヤーの皆サマ。今イベントの統括を行なっておりますアインスと申しまス。只今よリ、皆様の知略を尽くす新イベント、トート・ゲヒルンを開始致しまス。』

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