第311話 滅姫
【 プリンセスガールズ 】
ーー少女向け月刊漫画雑誌『フェアリー』にて11年連載されている人気漫画だ。コミックスは現在まで22巻発売され、その累計発行部数は全世界で3億4500万部を誇る。当然ながらアニメ化もされ、日曜朝8時30分から放送という国民的アニメにもなった。国内円盤売り上げは驚異の100万枚。それも1巻当たりの話だ。アニメは年間5巻、それを10年続けているので累計では5000万枚を超える。まさにモンスターコンテンツだ。
読者、視聴者の層も幅広い。小さい子供から大きなお友達までという守備範囲の広さ。それ故に、データカードゲーム展開された際には、大きなお友達が全国のスーパー並びにデパート等に設置してある筐体を長時間占拠するという社会問題まで発生し、法整備まで検討された程だ。
そしてその中で今、世界を沸かしているのがマンテンドーピタゴラスイッチ用ソフト、プリンセスガールズアルティメットファイトseason5である。全世界売り上げ本数は1億2000万本。それもパッケージ版のみという驚異の売り上げだ。推定プレイヤー数は3億人。毎年年末には世界大会が開催され、優勝賞金は100万ドルというビッグイベントだ。
このゲームは簡単に説明すれば格闘ゲームだ。だがその戦略性、駆け引き、そしてコンボを決めた爽快感、何よりAI搭載によりキャラクターを自分だけの色に染められる点が世界のユーザーを虜にした。そして自分だけのキャラクターが出来る事により、負けたくない、負けられない、そういう気持ちが強くなり、プレイヤーたちのハートに火をつけた。
また、戦績に応じた階級もプレイヤーたちのハートをくすぐった。階級は全部で30の階層で区切られている。中でも”姫”の称号を得られる7つの階層に入る事がプレイヤーたちの憧れであり、目標にもなっている。
そして、その中で最高峰の階層に位置する”神姫”とそれに次ぐ階層の”滅姫”というトッププレイヤー同士の戦いが平日の昼間から繰り広げられようとしていた。
「私はアテネを使いますが、SASUKEはジュノー使いです。相性としては決して良く無い。でも、アテネには全キャラ中最速の技である『最速紅桜剣』があります。しかもガードされても硬直フレームは無しというオマケ付き。これが決まれば10割コンボを決めて私が勝ちます。」
やべぇ、どうしよう。アリスが訳の分からない言葉を話すダメな子になっちまった。
「でも『最速紅桜剣』には弱点もあるわ。それは判定が厳しい事。コマンド入力をコンマ1秒でもミスれば『紅桜剣』になってしまう。それだと−20フレームもの硬直が発生してしまう。謂わば諸刃の剣よ。」
こっちのダメープルは元がダメだからあんまり違和感感じないのが悲しいな。
「大丈夫です。私は『最速紅桜剣』で”滅姫”まで上り詰めたんです。5本中3本先取すれば私の勝ちという条件下なら決めきれます。きっと私が生まれてきた意味はこの時の為だったんです。ここでSASUKEを倒し、私は私の運命を全うします!!」
いや、もっとちゃんと生まれて来た意味探そうぜ。ゲームやる為に生まれて来たってダメニートみたいなセリフだろ。なんでアリスはこうなっちゃったんだ。アリスじゃなくてダメアリス…ダリスじゃん。
「アリスちゃん…わかったわ。私があなたの勇姿を見届ける。私が語り部としてあなたの戦いを後世に語り継ぐわ!!」
あ、お前のせいだな。ダメープルがアリスをダメにしたんだ。茨城に帰ったらダメープルは隣のアパートにでも住んでもらおう。ダリスの治療をしないと将来ヒキニートになっちまうぞ。
ーーアリスがキャラクター選択画面にてアテネ・アルストロメリアを選択する。
『私がお相手致しますわ。この世界の平和の為…苦しんで死んで下さい。』
ーーと、このようにキャラクターを決定するとそのキャラクターの決めボイスが流れる仕様になっている。
アリスが使うキャラクターであるアテネはプリンセスガールズの主人公だ。アテネはヴィルトシュヴァイン王国の王立ーー「もうその話はいいって。別の作品の話はやめて。早く終わらしてたこ焼き食いに行こうぜ。」
ーー対するSASUKEはジュノー・マグノリアを選択する。
『あら?あなたが私の相手?正義の名の下に抹殺するわ。死になさい。』
ーーSASUKEが使うジュノーはプリンセスガールズのメインキャラクター5人の内の1人だ。ジュノーはーー「だからもういいって。早く終わらして。」
「アリスちゃん、ジュノーの超必殺技に気をつけてね。SASUKEはジュノーの超必殺技『抹殺獄雷斬肉片ノ散ラバリ』の使い方が絶妙よ。アレを防がない事には勝機は無いわ。」
プリンセスが使うようなネーミングじゃなくね?ファンシーさのカケラも無いんだけど。そもそもキャラボイスからして物騒な事言ってたよね?本当に日曜の朝から放送出来る内容?
「安心して下さい。超必殺技なら私もアテネの『血飛沫ノ雨』を習得しています。ジュノーの超必殺技となら相殺出来るはずです。」
残虐性高そうな技だなおい。それどんな内容の漫画なの?R指定入ってんじゃね?国民的アニメじゃねーだろ絶対。
「では行きます。」
ーーアリスとSASUKEの戦いが始まる。
序盤は互いに距離を取り、巧みなステップを使って相手の出方を伺う。
先に仕掛けて来たのはSASUKEだった。前に前進して来たジュノーの動きに一瞬だけアリスが釣られる。その僅かな隙をSASUKEは見逃さなかった。釣られたアリスはそのまま『最速紅桜剣』を放つ。当然ながらそれをSASUKEには避けられ、空振ったアテネにジュノー最速フレームの技である『雷光剣』を放ち、そこからのコンボが決められていく。そしてフィニッシュブローとして超必殺技である『抹殺獄雷斬肉片ノ散ラバリ』が発動する時、派手な演出カットインが出る。
『これで終わりよ。内臓をぶち撒けながら死になさい。抹殺獄雷斬肉片ノ散ラバリ!!』
ーー高速で胴体を集中的に攻撃し、肉片を飛び散らせたグロテスクな描写でKOのテロップが現れて一本目が終了した。
おいおいおい!!なんだこれ!?ホラーゲームかよ!?こんなの日曜の朝から放送してんの!?子供ギャン泣きするよ!?法整備って違う意味でだったんじゃない!?
「くっ…!!やはり強い…!!アリスちゃん…やっぱり…」
「安心して下さい。今のは様子見をしただけです。」
いや、安心出来ないんだけど。俺はアリスの将来不安しか無いんだけど。
「二本目は私が取ります。」
ーーアリスとSASUKEの第2ラウンドが開始する。序盤は第1ラウンド同様に互いにステップで相手の出方を伺う、かに見えたが、アリスが何のフェイントも入れずに『最速紅桜剣』を放つ。アリスが何もフェイントを入れなかった事が逆にフェイントになり、それが見事にヒットする。そしてそこからコンボが決められ、フィニッシュブローとしての超必殺技が発動する。
『身体中の血液を抜き取って差し上げますわ。美しく爆ぜなさい、血飛沫ノ雨!!』
ーーアテネが狂気に満ちた表情でジュノーを滅多刺しにしていく。返り血を浴びて恍惚とした表情へ変貌しながらKOのテロップが現れて第2ラウンドはアリスの勝利で終わった。
ひっでぇなコレ。こんなん子供向けじゃねぇじゃん。放送禁止だろ。アリスはプリンセスガールズ禁止な。教育上よろしくなさすぎだろ。
「や、やった…!!やったわよアリスちゃん…!!」
「計算通りです。やはり私の計算は間違っていませんでした。」
いや、間違えまくりだから。もう人生間違えかけてるから。プリンセスガールズ関連の物は処分しよう。
「さあ、行きますよ。このまま連取します。」
ーーアリスの言葉通り第3ラウンドも『最速紅桜剣』が見事にヒットし、いよいよ第4ラウンドを取ればアリスの勝ちとなった時に事件が起こる。
互いにステップで距離をはかっているとSASUKEのジュノーの動きが変わる。その異変にアリスは気づき、先手を取る為に『最速紅桜剣』を放つ。だが、SASUKEのジュノーが身体を反転させてそれを躱し、そのまま『雷光剣』を放つ。
「「あっ!?」」
ーーそのまま10割コンボを決められ、2対2の同点に追いつかれた。
「ゼロフレーム避け…」
「ま、まさかアレを使えるなんて…伝説だけの技だと思っていたのに…」
いや、それってただのバグかチートじゃね?運営に言った方がいいんじゃねぇの。
ーーファイナルラウンドが残っていたアリスだが、実力を隠していたSASUKEに敵うはずもなく嘘のようにボロ負けした。
「すみません…大口を叩いたのに負けてしまいました…」
「謝る事なんてないわよ!アリスちゃんはよく戦ったわ…!SASUKEが強すぎる…強すぎるのよ…」
「2人とも劇団か何かに所属でもしたんですか?もう口調が芝居掛かってますよ。」
『やれやれ。見ておれんな。』
ーー楓とアリスが消沈していると誰かの声が聞こえる。
「こっ、この声は…!?」
「ま、まさか…!?」
「いや、ノートゥングでしょ。トランク改造して布団持ってきて寝床にしてたの見てたよね。」
ーートランクからむくりと起き上がりいつものドヤ顔でノートゥングが顔を出す。
「の、ノートゥング…!?」
「どうしてここに…!?」
「いや、出る前にお好み焼き食いたいって騒いで俺、ボコられてたの見てたよね?」
『そんな事はどうでもいい。なんだ貴様らのそのザマは。情けない。』
「くっ…!!」
「……。」
「この演劇いつまでやんの?早くたこ焼き食いに行きたいんだけど。」
『仕方が無い。妾が見せてやろう。真の強者の強さをな。』
「む、無茶ですよ…!?」
「そうよ…!?私でもアリスちゃんでも勝てなかったのよ…!?」
「いや、相手チーターじゃん。運営に言ってバンしてもらった方が早いって。」
『フッ、これが目に入らんか?』
ーーノートゥングが懐からマンテンドーピタゴラスイッチを取り出す。
「おい、何でピタゴラスイッチがもう一台あるんだよ。それどうしたんだ。」
「ま、まさか…!?」
「そのアイコンは…!?」
『そうだ。これの意味がわかるな?』
「わっかんねぇよ。だからそのピタゴラスイッチどうしたんだよ。」
「そのゴールドアイコンは世界中でたった5人しかいない”神姫”のみに与えられるプリガリスト最大の栄誉…!!という事は…!?」
「なんだよプリガリストって。初めて聞いたんだけど。」
『妾は”神姫”の階級に君臨せし女王、ハンドルネーム『ノーたん』だ。』
「えらく可愛いハンネ来たな、おい。」
「あの、彗星の如く現れ、一瞬のうちにトッププレイヤーに君臨した『ノーたん』がノートゥングだったなんて!?」
「いつ見てもオンラインしているプロプリガリストと噂されていた『ノーたん』がノートゥングだったのね…!?」
「そりゃいつも家にいるんだから当たり前だわな。」
『ククク、伊達にやり込んではおらんぞ。毎日最低15時間はプレイしておる。』
「ダメニートじゃねぇか。」
「勝てる…!!ノートゥングなら勝てます…!!」
「間違い無いわ!!勝ったわね!!」
「うわぁ、フラグくせぇ。」
『さぁて、妾の力を見せてくれよう。』
ーー”神姫”ノーたん VS ”神姫”SASUKEのプリンセスガールズアルティメットファイト最強プレイヤーの座を賭けた戦いが今、始まる。
「え?まだ続くのコレ?」
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