第282話 イベントの終焉

【 2日目 PM 10:15 儀式の間 】



ーー慎太郎がシュッツガイストに呑まれてから数十分が経過する。美波たちが色々と策を講じて慎太郎の救出に尽力するが全てが空振りに終わる。

そして皆に焦りと苛立ちが募っていく。


「埒があきませんね…!!クラウソラス!!」


ーー中でも牡丹の苛立ちは限界突破してるのが見え見えであった。だが無理も無い、依存対象の慎太郎が窮地に陥っているかもしれないのに冷静になれと言うのが無理な相談だ。

そのような中で牡丹はクラウソラスを召喚する。剣神クラウソラス、相変わらずの神々しさだ。クラウソラスが場に現れるだけで妙な安心感と威圧感が混在する奇妙な感覚に襲われる。


『…ナディールの器ですね。』


「ナディールの器?」


ーークラウソラスの呟きに牡丹が反応する。


『あの空間の名です。タナベシンタロウはアレに呑まれてしまったのですね。』


「お願いクラウソラス、タロウさんを助けて!!貴女なら出来るでしょ!?」


ーー牡丹が苛立ち、焦りといった感情を抑えられないままにクラウソラスへと詰め寄り懇願する。


『そうですね。ですがここから出すとしたらこの解放度の”具現”では難しいです。”憑依”をする事になりますが宜しいですか?言うまでもないかと思いますが、”憑依”をすれば貴女の身体に相当な負担がかかります。特に私を入れるとその負担は計り知れない。このイベント中は、回復をしたとしても貴女の身体は使い物にならなくなりますよ?』


ーーその言葉に美波が食いつく。


「どう言う事?アリスちゃんに回復をしてもらえばダメージは回復するんじゃ…?それに”具現”じゃなくて”憑依”…?」


『私の”憑依”は少し特別なのですよアイバミナミ。”憑依”をすると回復では身体の歪みが治せないのです。』


ーー美波はクラウソラスの言葉が理解出来ない。その意味を尋ねようとするが、鬼気迫る勢いの牡丹にそれを遮られる。


「そんな事を天秤にかけるまでも無いよ。お願い、早くタロウさんを!!」


『わかりました。ではーー』

ーーその時だった。異形の騎士が作り出した黒い影から亀裂が発生する。その光景に皆が同様するが、一気に亀裂が加速して影が割れ、中から慎太郎が出てくる。


「「「「タロウさん!?」」」」


「おっと…?本当に出られーー」

ーー牡丹が皆よりも遥かに早く一歩で慎太郎へと抱き着く。


「大丈夫ですか!?お怪我はされていませんか!?」


「大丈夫だよ牡丹。心配かけたね。」


「もう…心配かけさせないで下さーーん?」


ーー牡丹が慎太郎の匂いを嗅ぎ始める。


「タロウさん!?平気ですか!?」


ーー牡丹から遅れてしまったが楓も慎太郎へと駆けつけ、腕に抱き着く。


「平気ですよ。すいません。楓さんにも心配かけさせちゃいましたね。」


「いえ、近くにいた私がちゃんとするべきでした。」


ーー楓にもようやく安堵の笑みが溢れる。


「タロウさんっ!」


ーー更に遅れた美波がもう片方の腕に抱き着く。


「美波、ごめんね。」


「よかったぁ…もうっ…タロウさんはいつも心配かけさせるんですからっ!」


ーー美波は少し目を潤ませながら笑顔で笑う。


「た、タロウさん!!」


ーーみんなからだいぶ遅れてアリスが慎太郎の近くに来る。


「アリス、心配かけてごめんな。」


「タロウさんが無事ならそれで大丈夫です!」


ーー入る隙間の無いアリスだが、慎太郎が頭を撫でるのでそれで十分満足なのであった。


ーーだがこれで一安心とはいかない。牡丹が慎太郎の胸に顔を埋めながら鼻をスンスンさせている。どう考えても危険な事が起きる前触れだ。


「ん?どうした牡丹?」


「…いえ、なんでもありませんよ。」


ーー牡丹はとりあえずこの場は堪える。


ーー慎太郎は何のことか気づかない。


ーー牡丹には全てバレている。


ーーだが慎太郎は気づかない。


ーー戻ってからこの一件に関して修羅場が起こる事を慎太郎はまだ知らないのであった。



********************



【 ??? ??? ??? 】



ーー慎太郎が黒の空間から出て来たのと同時刻。ここでも戦いの終わりを迎えている場所があった。


「がああっ…!!た、助けて…」


ーー身体の大きな男が命乞いをする。その身体は全身血に塗れ、片腕、片足を失う程の重体だ。だが、その身体は金色のオーラで覆われている。そこから察するにアルティメットの所持者だ。しかし、そんな強者でさえこの女の前には屈する事になる。


「あー、そういうのいいから。結華ウザいの嫌いなの。」


「た、頼む…もう二度とアンタらに手はーー」


ーー男が喋り終わる前に男の頭部が突如として破裂する。女がやったのだ。女が男の頭を潰して勝負は終わった。


「王武くんに一度でも逆らったら次は無いんだよオッさん。」


ーー女が凄んだ顔で男の死体を見ながらそう言い放つ。そして戦いが終わると男ともう一人、女が現れる。

「ご苦労様、結華。流石の強さだね。」


「王武くん!!」


結華が王武の元へ小走りで駆け寄り、そのまま抱き着く。


「怖かったよー!」


「怖かったって。こんだけ大量虐殺しといてよく言うわよね。」


ーーもう一人の女が周囲一帯を指しながら皮肉交じりに言い放つ。だが事実、周囲には死体の山が築かれていた。その数は20は優に超えている。男も女も関係なく、惨たらしい死に方をしている骸が其処彼処に散乱していた。


「留美はホントうるさい!!王武くんとの時間を取らないで!!」


「ハァ?今日はアタシの担当だって何回言えばわかるの?アンタ、馬鹿なんじゃないの?」


ーー2人が睨み合い険悪なムードが漂い出す。だが男が割って入る事で落ち着きを取り戻す。


「留美さん、結華。喧嘩はやめようね。僕は2人が争う所を見たくないよ。」


「「はい!王武くん!!」」


ーー王武が宥める事により2人は瞳の中にハートを宿しながら争いをやめる。


ーーそしてスマホの通知音が同時に鳴り響く。


「…イベントも終わりか。今回も何とか生き残れたわね。」


「まあねぇ…同盟組んだからいいけど”五帝”にとうとう出くわしたもんね。芹澤たちは無事かな?」


「無事だと思うよ。シュッツガイストというのがどの程度の力かはわからないけど芹澤さんが簡単に敗れるとは思わない。彼女の仲間も強そうだったしね。」


「イケメンと子供だけだったけど…強そうかな…?留美はどう思う…?」


「正直どっちも大した事なさそうだったわ。特に男の方。」


「留美はキッツいなぁ。」


「あはは。留美さんも結華もわかってませんね。」


「え?」


「どういう事?」


「あの男、田辺慎太郎は何かありますよ。決して雑魚では無い。芹澤さんよりも、僕よりももしかしたら上かもしれません。」


ーー王武のその言葉に留美と結華は『いくらなんでもそれは無いだろう』という顔をする。


「何れわかると思います。でも僕は負けませんよ。蘇我夢幻にも、島村牡丹にもね。さ、帰りましょうか。留美さんの手料理が食べたいです。」


「フフッ、帰ったらすぐに作るわね。」


「むぅー!!結華だってカレーぐらいなら作れるんだからね!!」


ーー王武と留美の雰囲気に苛立つ結華がどうにか気をひこうとする。それに王武は気づき、優しい顔で結華に話しかける。


「明日は結華のカレーにしようかな。楽しみにしてるね。」


「うん!!任せて!!」


ーー王武に構ってもらえる事でご機嫌な結華。この光景はやはりどっかの誰かを彷彿させる。


ーー3人が闇に包まれリザルトへと向かっていく。時を同じくして慎太郎たちも。

状況が大きく変動しながらのリザルトが始まっていく。

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