第283話 安定のリザルト

ーークランイベントが終了し、慎太郎たちはリザルト部屋へと連れて来られる。ここに来る事により、皆にようやく安堵の表情が見られる。命懸けの戦いをしているのだから無理は無い。束の間にしか過ぎないが今はゆっくりと安全な状況を謳歌しようと慎太郎は思っていた。


「あぁー!!取り敢えず今回も無事に生き残れなぁー!!」


ーー慎太郎が手を上に伸ばして身体を伸び伸びさせている。何だか凄くオッさん臭い。


「そうですね。これが終われば…祝勝会ですね!」


ーー楓がお猪口で日本酒を飲むようなジェスチャーをしながら慎太郎に相槌を打つ。その姿がまたオッさん臭い。このクランにはオッさん属性が2人いるようだ。


「ご馳走いっぱい作りますねっ!」


ーー美波があざとく得意のぶりっ子ポーズで慎太郎にアピールしている。


「恒例の美波のハンバーグかな?アレ美味いんだよなぁ。もう美波のハンバーグ無しじゃ生きられないもん。」


ーーまたこの馬鹿は余計な事を。


「作りますっ!!いっぱい作りますっ!!!胃袋がはち切れるまで作りますっ!!!!」


「お、おうっ!?」


ーー美波が目を血走らせながらグイグイと慎太郎に詰め寄る。

本当にこの馬鹿は余計な事ばっかり言っている。


「私はデザートを担当します!今日は杏仁豆腐にチャレンジしてみたいんです!」


ーーアリスが少し張り切りながら慎太郎に宣言する。


「お!それは楽しみだな。アリスは料理上手だもんな。」


ーー慎太郎は恒例のアリス頭撫で撫でをする。それによりアリスが幸せそうな顔をする。微笑ましい光景だ。


「……。」


ーーだが慎太郎はそんなに呑気にしている場合では無い。危険なヤンデレクイーンが先程から無言で慎太郎を見ている。本来ならこういう場面では、いの一番に牡丹は絡んで来る。それが絡む事無く慎太郎をただジッと見ているのはなかなかホラーである。


ーーそんなこんやでワイワイやっているとツヴァイが闇から姿を現わす。


『お待たせ致しましタ。それではリザルトを始めましょうカ。』


「おう。今回は上位の自信は無いなぁ。最後はプレイヤーとのバトルじゃないし、それは反映されないんなら多分無理だよなぁ。」


『そうですネ。儀式の間へ向かったのはイレギュラーですのでアレはカウントされませン。』


「儀式の間?あー、石像のトコか。行っちゃダメな所なら貼り紙とかしなきゃダメじゃね?そういうの足りないと思うよ?」


『”駅”に掲示してありましたヨ。貴方方が見落としただけデス。』


「え?そうなの?」


『貴方方は注意が足りないと思いマス。特にタナベシンタロウサマ、貴方ガ。』


ーーツヴァイに説教させられ始めて微妙な顔になる慎太郎。


何でコイツに説教されなきゃならんのだ俺は。だいたいからしてお前らのアナウンス不足と後出しが色々と問題なんだろ。


『力だけで何とかなると思ったら大間違いデス。今後は自重する事デスネ。』


「はいはい。すみませんね。」


『……。』


俺が少し捻くれたように言うとツヴァイの野郎が無言で俺を見ている。何だろう。怒ったのか?コイツの機嫌損ねて殺されたらどうしよう。

そんな事を考えながら全員が沈黙しているとツヴァイが口を開く。


『…完結に言えば貴方方の戦績は第3位でしタ。惜しかったですネ。よって追加報酬は御座いませン。勝利報酬であるサブスキルガチャ券をそれぞれ一枚ずつお渡し致しまス。次も頑張って下さイ。これにてリザルトを終了致しまス。御機嫌よウ。』


相変わらずの身勝手さで俺たちは強制的にリザルト部屋から退出させられる。

こうして俺たちのクランイベントは幕を閉じたのであった。
















「何をしょげているのよ?」


ーー慎太郎たちが消えた辺りからサーシャが姿を現わす。


『別に…』


「たーくんに冷たくされてヘコんじゃったんでしょー?」


ーー同じく闇から葵が姿を現わす。


『…違うし。』


「まーねー、他の女の子には優しいのに自分にだけは冷たかったらヘコむわねー。」


『違うし。全然ヘコんでなんかないし。』


「だったら正体を明かせばいいじゃない。そうすれば芹澤たちと同じ扱いをしてくれるんじゃない?寧ろ正体を明かした方が協力的になってくれるんじゃないかしら。」


『それは嫌。まだその時じゃないもの。もっとロマンティックな状況で正体を明かすんだから。』


「いや〜ん!!ツヴァイちゃんったらオトメ〜!!」


ーー続いてリリが姿を現わす。


『リリお疲れ。シュッツガイスト倒したのリリでしょ?ありがとうねタロウの事を守ってくれて。』


「大丈夫だよ〜!リリちゃんに任せてくれればまるっとオッケー!!」


ーーリリには何とも言えない後ろめたさがあったがテンションでどうにか誤魔化そうと思い、いつもより三割増しでテンションを上げ上げしていた。


「やれやれ。ま、あなたがそれでいいなら私は何も言わないわ。今回も何事も無く終えられたわね。シュッツガイストは厄介だったけど流石はリリね。」


「リリちゃん褒められちゃった。」


「でも2位以内に入らなかったのは誤算じゃない?サブスキルを充実させられなかったのは大きいと思うな。」


『儀式の間に行くとは思わなかったからね。天栄王武にしてやられたわ。』


「あの男はどうするの?”五帝”なんて邪魔なだけよ。天栄王武にしても矢祭凱亜にしても何を考えているかわからないわ。特に矢祭は凶暴じゃない。田辺慎太郎と対峙したらかなり危険よ。」


「”三拳”も同じじゃない?アイツらが一番危険だと思うなぁ。特に三國はツヴァイにとっても腹立たしい相手でしょ?散々たーくんの事馬鹿にしてるし。」


『流石に勝手に始末は出来ないわよ。それに…あまり図に乗るようなら三國は私が始末するわ。』


「うわ、こわっ!」


「はいはい。雑談は後にしましょう。次は入替戦よ。ある意味ここが正念場。私たちの介入は出来ないんだから。」


『ええ。私がうまく調整するわ。』


「芹澤と島村もちゃんと守りなさいよ?」


『極力頑張るわ。』


「極力って。リリちゃんどう思う?」


「う〜ん?ツヴァイちゃん?ちゃんと守らないとダメだよ?彼女たちがいないと私たちが困る事になるんだから。私情は挟んじゃダメだよ?」


「リリちゃんが真面目な事言ってる!?」


「えっ!?明日は雪が降っちゃうかも!?いや〜ん!真夏の雪合戦できちゃ〜う!!」


「…なんか頭痛くなって来たわ。帰るわよ。」


「「はーい!」」

『そうね。』


ーーこうして再開した俺'sヒストリー最初のイベントが終了した。

次の入替戦、慎太郎にとっては大きな出来事が起こる事をまだ誰も知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る