第281話 弟子入り
【 ??? ??? ??? 】
ーー剣戟の音が黒い空間に鳴り響く。互いに体を入れ替え、周期的に攻防が繰り返される。表面上の勝負は互角。両者の切り札がどの程度あるかによって勝敗は決するだろう。だが真に恐ろしきは”剣聖”リリ・ジェラードだ。異形の騎士は自身を包む禍々しき黒きオーラと、ブルドガングから吸収した雷のエフェクトを発動し、スキルによる状態変化を発生させているが、リリにはそれが無い。至ってノーマルだ。ゼーゲンによる身体能力上昇は得ているがスキルは未使用。それでいて先程まで剣王ノートゥング、剣帝ブルドガング、芹澤楓、相葉美波の4人を相手にしていた異形の騎士と互角に渡り合っている。その技能、まさに剣聖よ呼ぶに相応しいものである。
『ククク、この俺とここまでやり合えるとは思わなかった。褒めてやろう。』
「フフ、何か勘違いしてるみたいだけど剣帝の力を吸収したぐらいで自惚れ過ぎじゃない?彼女は”半分”なのよ?それで自分が一番だと思ってるなんて滑稽ね。」
ーーリリの言葉に異形の騎士の四つの目が赤く染まっていく。
『…これだから雌は困る。己の立場も弁えず男に逆らうとは言語道断。貴様の身体は八つ裂きにしてから俺が喰らってやろう。そして俺の力へ変えてやる。光栄に思うが良い。』
「長い封印の間に退化してしまったみたいね。もういいわ。別にシュッツガイストは一体だけじゃないし。それに私は男はCoolな人が好みなの。貴方じゃ無理ね。フフ。」
ーーリリの挑発により異形の騎士シュッツガイストの目が更に赤く染まり、血管が浮き出る。明らかな憎悪をリリに抱き、戦いは最終局面を迎えようとしていた。
『楽しみだ。命乞いをする貴様を強姦し、喰らうのがこの眼に浮かぶ。』
「御託はいいからかかって来なよ。それとも私が怖い?」
『ククク、俺の核が何処にあるかもわからんくせに虚勢を張るな。仮に貴様の方が実力が上でも俺の核を見つけない限り殺す事は出来ん。それは”剣聖”バルムンクでさえ出来なかった事だ。』
「”初代”は封印が解かれてないんだから当然よ。それもわからないで得意になってるなんて。You are lame .それに貴方の核なんてわかるわよ。」
ーーリリの言葉に僅かだがシュッツガイストが動揺を見せる。
『戯言を…貴様如きにわかるはずがない。』
「一振り。」
『何…?』
「一振りで終わらせるわ。もう飽きたもの。私の訓練にならないし。」
ーー動揺を見せていたシュッツガイストが激昂する。それにより動揺など消し飛び、激しい憎悪と殺意の波動が露わになる。
『やってみるがいいッ!!この俺をここまでコケにするとはッ!!八つ裂きにしてもまだ温いわッ!!』
「じゃあ御言葉に甘えて。」
ーーリリがゼーゲンを音も無く軽く横に振る。そしてそれを鞘へと収め、重苦しい程の圧をリリは解いた。
『…何をしている?今更降伏する気か?』
「あれ?綺麗に斬りすぎちゃった?いや〜ん!リリちゃんったらうっかり屋さん!」
『あ?貴様ナニヲーー』
ーー異形の騎士が言葉を紡ぐのをやめた。否。やめさせられた。異形の騎士の身体が崩れ去り、砂のような形へと変貌していく。そして後に残ったのは胡桃のような物だ。それこそが異形の騎士の核だ。リリが斬ったのは異形の騎士の核。それを遠距離から音も無く斬る事が出来るのが”剣聖”リリ・ジェラードだ。その位に恥じない技量を見せつけ、人知れず強者同士の戦いが幕を閉じた。
「さってと!これでリリちゃんの仕事は終っわり〜っとーー」
ーー異形の騎士を倒したリリが慎太郎へと向こうとした時だった。
「ーーえっと…どうしたの…?」
ーー慎太郎がリリに対して土下座のような姿勢でいる。それにリリは戸惑い、慎太郎へと声をかける。
「リリ!!頼む!!俺を弟子にしてくれ!!」
「えっ?」
ーー慎太郎の申し出にリリは困惑する。
「ちょ、ちょっと、タロウくん!!頭を上げなよ!!リリちゃんそういうのは困るな〜?」
「お前の剣に感動したんだ。俺がこうなりたいって思った理想通りだった。頼む。俺を弟子にしてくれ。」
ーー慎太郎はリリに頭を下げる。
「えぇ…いや…タロウくんのトコにも強い人いるじゃん!!島村牡丹ちゃんとか、芹澤楓ちゃんとか!!」
ーー想定外の事態に困ったリリはどうにかこの場を収めようとする。
「…確かに2人とも強い。でもこう言ってはなんだが、リリの剣はそんな次元のレベルでは無い。人としての限界を超え、剣に愛されてる、そんな感じだ。だからこそ俺はリリの剣に感動した。教えを請いたいって思った。それに…俺はクランの中でぶっちぎりで弱い。何の役にも立ってない。バルムンクにだって迷惑をかけてる。どうにかしたいんだ。強くなりたいんだ。頼むよ。お前しかいないんだ。リリ、頼む。」
ーー慎太郎が再度リリに土下座をして頼み込む。それを見てリリは心底困っていた。
どうしよう。これは困ったな。リリちゃん想定外すぎじゃない?弟子なんて取った事無いし、立場的に絶対ダメじゃない?それにツヴァイちゃんに知られたら絶対怒られるし。折檻?拷問?いや〜ん!!リリちゃんの身体のピンチ〜!!
うん、断ろう。
「う〜ん。タロウくんがリリちゃんに憧れてくれる気持ちは嬉しいけど…ダメかな…だってさ、私ってリッターだよ?プレイヤーじゃないよ?」
ーー慎太郎を諦めさせる為に、リリが身分を明かす。そうすれば流石に諦めるだろうと判断した。
「わかってる。流石に俺も馬鹿ではない。それでも俺は教えを請いたい。それにリリは俺に対して敵対的じゃないだろ?敵対的なら守ってくれないし。てか、身分なんて関係無い。俺にはリリが必要なんだ。俺に出来る事ならなんでもする。俺の全てをお前に捧げる。だから…お願いします。」
ーー牡丹に聞かれたら刺される事間違い無しの危険な台詞を吐きまくる慎太郎。
えぇ…引いてくれないんだけど…困ったぞ…どうしよう……ん?でも別に鍛えるのは良い事なんじゃないかな?タロウくんの死亡率減らせるし、アインスと戦う時の備えにもなる。あれ?大丈夫じゃないかな?
でも…何だか危険な予感がするのはどうしてだろう…リリちゃんの女の勘的なのが警告してる気がする。うーん…
ーー土下座をする慎太郎をリリはチラリと見る。その必死な様が可哀想に見えて来たリリに諦めの気持ちが生まれる。
「…はぁ。仕方ないか。わかったよ。頭を上げてよ。タロウくんに剣を教えるよ。」
「ほ、本当か!?」
ーー慎太郎が顔を上げる。めっちゃ目を輝かせながらリリを見る。
「でもいくつかルールは守ってもらうよ?この事は誰にも言わない事。クランのみんなにもだからね?」
「わかった。」
「あとは私が連絡するまで絶対に連絡をしない事。仮にどこかで私に会っても知らないフリをする事。私が声をかけるまで絶対にだよ?」
「大丈夫。」
「じゃ、連絡先の交換しよっか。」
「はい、師匠!」
「普通でいいよ。リリって呼ばれる方がリリちゃんは嬉しいかな。」
「あ、それじゃあ俺もタロウでいいよ。君付けされるよりはその方が距離縮まりやすいし。もっとリリとの距離を縮めたいからさ。」
ーーまた危険な台詞を吐く慎太郎。
「オッケー!!じゃあタロウね!!それじゃ明日にでも連絡するよ。大丈夫?」
「リリからの連絡ならいつでも大丈夫。ダメな時でも何とかする。」
ーーコイツは刺される方が世の為になるかもしれない。
「じゃ、連絡するね。あ、それとシュッツガイストはタロウが倒した事にしてね。」
「どうして?」
「リリちゃんが倒した事にすると面倒なんだよね。ここなら誰にも見られてないからタロウが倒した事にしても疑われないからさ。」
「わかった。リリの命令なら何でも聞くよ。」
「フフ。それじゃそろそろ私は行くね。じきに結界が晴れて、みんなの所に戻れるから安心して。」
「色々とありがとうリリ。」
「どういたしまして。またね、タロウ。」
「ああ、またね、リリ。」
ーーそう言ってリリはこの空間から姿を消す。
ーー慎太郎を取り巻く状況はここに来て大きく変わった。
ーーそしてリリとの出会いが慎太郎の今後の運命に大きな変化をもたらす事となる。
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