第244話 模擬戦 芹澤楓 VS 島村牡丹 3
【マイページ モニター前 】
「何だそれ…ブルドガングが勝負になってねぇじゃん…」
ブルドガングは首筋にあてられた手刀により身動きが取れない。どう見ても勝負はついている。クラウソラスの完勝だ。
「信じられません…ブルドガングは夜ノ森葵さんをも圧倒したのに…」
アリスが驚愕の表情でモニターを見つめる。
だが俺からすれば納得はしてしまう。俺が四ツ倉優吾の奴にやられそうだった所を牡丹に助けてもらった時にケリをつけたのはクラウソラスだ。あの時の圧と技の威力からすれば何の不思議も無い。確かにブルドガングの”具現”を俺は直に見てはいないがクラウソラスは明らかに何かが違う。それはバルムンクともノートゥングとも違う。存在そのものが違うように俺には思えたんだ。
『……。』
「…ノートゥング、どう思う?」
『……アレは相当に強い。剣帝の奴が例の如く頭に血が上って自分を見失っておったがそういう問題では無い。万全でも結果は同じだ。妾がやっても勝てぬだろう。』
「そ、そんなになの!?」
『やって見なければわからんが…策は無いな。』
あの女王様なノートゥングが簡単に負けを認める程の力って事か。ゼーゲンの差があってもここまで絶対的な差がある。もしも剣神クラウソラスだけが特別な存在って訳じゃなく、他にもクラウソラス級がいたら大変な事になるよな。
『そんな顔をするなミナミ。策は無いとは言ったがそれは今の話だ。妾が策を考えてみる。』
「そうよねっ!私のノートゥングは負けないんだからっ!」
『ああ。当然だ。それより…奴等の戦いも決着がつきそうだな。』
********************
【 模擬戦 現代エリア 東京 】
「ぐっ…!!」
ーー楓 対 牡丹の戦いも激化していた。
情勢は楓の劣勢。
楓はメインスキルの《身体能力強化》にエンゲル発動。牡丹は《水成》しか追加で使用していないが楓を遥かに上回る力で圧倒していた。
「ふふふふふふ。最初の威勢はどうしたんですかぁ?」
このままではマズい。近接戦では牡丹ちゃんの方が格上。一時撤退ね。
「はああッ!!」
ーー道路をゼーゲンで叩き、煙幕を発生させる。それに乗じて楓はエンゲルによる最高速度でその場を離れた。
「はあっ…はあっ…はあっ…」
参ったわね。ゼーゲン一本分の差があるのにここまで牡丹ちゃんが強いとは思わなかった。《水成》の効果もあるだろうけど牡丹ちゃんの雰囲気がやっぱり違いすぎる。ヤンデレモードというより最早別人格よね。
「通常時とヤンデレモードじゃステータスが違いすぎる、か…」
思い出してみれば夜ノ森葵とサーシャ、あの2人とやり合った時もそうだった。タロウさんを夜ノ森葵にバカにされて激昂した牡丹ちゃんの圧が異常に膨れ上がった事があった。恐らくはヤンデレモードだと能力が限界突破するのだろう。
「二重人格じゃない…タロウさんと結ばれたら絶対刺されるわよね…」
ーーこの楓の考察は当たっていた。牡丹はヤンデレモード時には能力が飛躍的に上昇する。そしてスキルの真の力まで解放が可能だ。牡丹の《水成》は空気中の水分だけを制御する訳ではない。それを凍らせる事も出来る。つまりは液体、固体、気体、これらを扱えるのだ。夜ノ森葵に対して放った『氷華・浮牡丹』この『氷華』というのは凍らせる事で技の威力を増していたのだ。当然ながら他の技にも『氷華』を付ける事は出来る。だが通常時の牡丹では扱う事は出来ない。スキルの真の力を扱える者は現時点では誰もいないのだ。ヤンデレモードの牡丹を除いては。
「メインスキルでの戦いで勝てないならサイドスキルでやるしかないわよね。」
トラップスキルは仕掛けた。これを踏ませれば形成は一気に逆転出来る。《無効化》だけだと牡丹ちゃんは《剣神》も《水成》も2回ずつ使える訳だから掛け直されてしまう。勝つ為には《スキル解除》を踏ませるしか無い。
「《無効化》の有用性がわかってればスキルアップさせといたんだけど…後悔先に立たずとはこの事ね…」
嘆いても仕方がない。ここから勝ち筋を見つけないと。絶対にラブラブチケットを手に入れてさっきの続きを誰にも邪魔されない所でするんだから。
「ふふふふふふふ。」
…来た。ここは路地だからこのまま牡丹ちゃんが進んで来れば必ず踏む事になる。そうすれば間違い無く私の勝ち。かなり後ろ向きな勝ち方になるけれど仕方がないわ。踏んだ瞬間に《無効化》をかけて一気に制圧する。集中よ。
「ふふふふふふふ。愚かですねぇ。そんなもので本当に私を倒せると思っているのですかぁ?」
ーー牡丹がそう呟くと周囲一帯に氷の粒が発生する。そして立ち所に桜の花弁のような形に形成されていく。
「ーー氷華・緋桜」
ーー氷の花弁が花吹雪の様に舞い落ちる。路地にある物や壁は氷の花弁に触れる事で抉られ、破壊されていく。その威力、速度はガトリングガンの様であった。
そしてそれが楓の仕掛けたトラップのある場所へと触れると、黒い魔法陣が発動し、効果を発揮する。だが当然トラップが牡丹にかかるわけではない。トラップは氷の花弁一枚に発動しただけで終わってしまった。
「…そ、そんな…」
「トラップなんて喰らわなければ良いだけですよぉ。こんなもの子供騙しに過ぎません。」
…マズい。ここから逃げないとやられる。
ーー楓はこの場から退却を図ろうとする。
ーーだが、
「見つけましたよぉ。ふふふふふふふ。」
ーー牡丹の緋桜が舞い落ちる。楓はエンゲルを最高速度で展開して逃走を図るが周囲一帯を覆う様に乱れ散る桜吹雪に退路は無かった。
「きゃああああァ…!!」
ーー氷華・緋桜を全身に浴びた楓はその場に沈黙する。
「ふふふふふふふ。ふふふふふふふ。」
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