第223話 あなたの事が知りたいですっ

ーー慎太郎と牡丹が病院に行っている間、日課の洗濯物干しをしながら美波は考えていた。


…やっぱり私の扱いって雑じゃないかな。正ヒロインだよ?正妻だよ?それなのにタロウさんと2人っきりの時間が無いっておかしくないかな?この前のイベントだってノートゥングと一緒だしさ。そもそもノートゥングとイチャイチャしてるんだからっ!!別にノートゥングが邪魔だなんて思ってないよ?でもあまりにも私の扱いが酷いっていうか…雑っていうか…


『やはり押し倒してしまうしかなかろう。』


「それは恥ずかしいというか…無理というか…」


『だから妾に身体を貸せば良いのだ。既成事実を作って骨抜きにしてやろう。』


「だっ、だからダメって言ったでしょっ!!……ねぇ。」


『どうした我が友よ?』


「もうさ、勝手に彷徨いてるのはあなたの特権だしもう驚かないわ。でも何であなたがタロウさんのスウェットを着てアイスを優雅に食べてるのよっ!!」


『むっ?『すうぇっと』というのかこのボロ切れは。だが着心地は悪くない。』


「わ、ワタシだってTシャツしか着たことないのにズルいじゃないっ!!」


『何を言っておるのだ。着たければ着れば良かろう。』


「それは…その…まだ早いというか…ちょっと変態的というか…」


ーーノートゥングは思った。


『散々毎日匂いを嗅いでいるくせに何を言ってんだ。』

と。



ーー



ーー



ーー



「美波ちゃんはまた洗濯物を干しながら何をブツブツ言ってるのかしら?」


「あ!!楓さん、またどら焼き全部食べちゃったんですか!?」


「本当に美味しいわよねコレ。」


「また牡丹さんが帰って来たら大変な事になりそう…」


「さて、腹ごなしもしたし、やるわよアリスちゃん!!次こそあの『SASUKE』とか言う奴を倒すわ!!」


「やめた方がいいと思うんですけど…私たちは初心者なんですからオンライン対戦は早いと思います。」


「ウフフ、大丈夫よ。どら焼きを食べながら戦略は練ったわ。アテネのコマンドは全て頭に叩き込んだのにも関わらず負けた。その理由は一つ。私に足りないのはフレームについての知識だったのよ。理論通りにやれば負けない!!見てなさい『SASUKE』!!」


ーーアリスは思った。

『絶対また負ける』

と。




********************




ーー3人でお昼を食べた後、美波は部屋の掃除に取り掛かる。アリスも手伝おうとするのだが美波はそれを断り楓の相手をするように促した。アリスは今まで散々苦労をして来たのだから出来るだけ自由な時間を過ごさせてあげようという美波の思いやりである。

暴走せず、このようにしている様はまさに正妻と言えるのかもしれない。


さっきはノートゥングがタロウさんのスウェット着たりしてたからつい自分を見失っちゃったけど私は正妻なんだからもっと余裕を持たないとダメよね。そもそも私が正妻で正ヒロインなのは既定路線。これからイチャイチャラブラブしまくる事は約束されてるわけだし、慌てる事なんてないのよ。うん。


ーーそんな妄想を抱きながら慎太郎の部屋を掃除していると美波は慎太郎の中学時代の卒業アルバムを見つける。


「中学の時のだ…見ちゃってもいいかな…?」


勝手に見るのは良くないよね?でもアルバムぐらいならいいかな…?正妻だもんこれぐらい大丈夫だよねっ!


ーー訳の分からない理由をつけて美波は慎太郎の卒業アルバムを開く。


「生徒数多いんだなぁ…5クラスもある…1組には…いない。」


ーー1組の生徒を確認した後に美波はページをめくり2組へと移る。そしてすぐに見つける。


「うわぁ…!すぐにわかった…!カッコイイなぁ…!」


ーー美波は数分間慎太郎の写真を凝視して見ていた。それ以外には目もくれず慎太郎だけをガッチリと見ていた。そしてその後にスマホを取り出して写真を撮っておいた。

因みにだが美波のスマホの壁紙は慎太郎である。まぁ、言うまでもないだろうが。


ーー慎太郎(中学ver)の写真を撮って満足した美波は冷静になり、ある事に気付いた。


「どうしてタロウさんはクラスの中心にいないんだろう…これだけ優しくてカッコイイ人がクラスの中心にいないなんて変だよね…?」


2組の他の写真を見てもやっぱり中心からズレた所にいる。少し不良っぽい雰囲気は出てるけどそれが理由では無い気がする。なんていうか…孤立しているに近いようなものがそこからは感じ取れた。

他の写真も見ようと次のクラスに移るとあの三國って人がいた。今同様に凄い悪い雰囲気が出ているがそれでもクラスの中心にいる。タロウさんとは正反対だ。

納得のいかない私はアルバムを隅々まで確認したがやはりタロウさんはクラスでも学年でも中心にいるようなタイプでは無かった。三國や門田といった私が知っている面々は学年で中心にいるようなタイプであった。体育祭や文化祭でも目立っているような写真が多数あるがタロウさんは無い。タロウさんを含めた4人の決まってるメンバーで写っている写真しか無かった。当然ながら女子と写っている写真は1枚も無い。三國や門田はたくさんあるのに。


「どうしてなんだろう…私のシーンに来た時だってタロウさんは女子人気が凄まじかった。あれだけカッコイイ顔なら女子が寄って来ないなんて考えられない。絶対おかしいよね…」


『知りたいですカ?』


「だっ、誰っ!?」


ーー誰もいない室内からナニかの声が聞こえるので美波は身構える。


『これは失礼致しましタ。ワタシは俺'sヒストリーの運営”ヴェヒター”のアインスと申しまス。』


「アインス…!?」


アインスって確か楓さんたちが言ってた私たちが倒さなきゃいけない相手っていう…!?どうしてそんな相手がここに!?


『怖がらないで下さイ。危害を加えるつもりはございませン。今回はアイバミナミサマの疑問を解決して差し上げようと思イ、馳せ参じた次第でありまス。』


「疑問…?」


『気になるんでショウ?どうしてタナベシンタロウサマがこの様な中学生活なのカ?一体どの様な中学生活を過ごしていたのカ?知りたいのではありまセンカ?』


「…何が狙いなの?」


『狙いなんてございませン。俺'sヒストリーをする訳ではありませんのデ。ただ見るだけデスヨ。タナベシンタロウサマの過去ヲ。』


「過去…?タロウさんの…?」


『はイ。当然ながらシーンではございませン。ですので干渉する事は出来かねまス。見るだケ。もちろん料金などは発生致しまセン。危険もありまセン。どうされますカ?』


「…本当に危険は無いのね?」


『御約束致しまス。』


「わかった。見るわ。」


こんな疑問がいっぱいなのに我慢する事は出来ない。タロウさんに何があったのか知りたい。だって…寂しそうだったから…タロウさんの目はすごく寂しそうだった。もしタロウさんの過去を知れてタロウさんの気持ちに寄り添う事ができるのなら寄り添ってあげたい。だからこそ知りたいんだ。


「ではスマートフォンに手をかざして下さイ。参りましょウ。タナベシンタロウサマの過去エ。」


ーー美波がアインスに言われるままスマートフォンに手をかざす。すると画面が虹色に光り輝き美波の視界が闇に覆われる。

そして暫しの間を空けて、光が戻ると、目の前には慎太郎がいた。中学生の、13歳の時の田辺慎太郎がそこにいた。

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