第220話 会合 参

ーー暗黒の空間の中に円卓と7つの椅子がある。時間が経過するとともにその椅子が1つ、また1つと埋まっていく。だが全ての椅子が埋まる前にその会合が始まった。


『揃ったようだな。では始めようか。今回のゲリライベントも無事に成功を収めた。これも皆の尽力の賜物だ。御苦労であった。』


ーー円卓の中央に座するモノ、アインスが他の参加者、”ヴェヒター”に対しそう述べた


『オイオイ、アインスよ。成功なのか?洋館じゃ随分な事が起きたって話じゃねぇか?』


ーーアインスを中心に時計回りの4番目の席に座しているフィーアが高圧的な口調でアインスへと問いただす。


『フィーアよ、何か問題があるような口調だな。』


『あるんじゃねぇのか?何故”神具”を与えた?それにヘンカーを解き放つ事は明らかに計画外だろ?』


『理由は簡単だ。田辺慎太郎と島村牡丹は部屋の仕掛けを解いた賢者だからさ。私は正当な報酬を払ったにすぎん。そしてヘンカーはその過程で出してしまっただけの事。イレギュラーはつきものだろう?』


『俺が言いてぇのはいくらなんでも”神具”を与えるのはやり過ぎだって事だ。もはや島村の力は一介のプレイヤーの域を超えてんだろ。』


『だから彼女にはフライヘルの爵位を与えた。』


『あぁッ!?聞いてねぇぞ!?』


『ああ、キミには初めて言ったからな。だが我々の過半数の同意は得ている。後任のドライが見つからない間は3名の同意があれば過半数に到達する。オルガニの規定に則って起こなったのだから問題は無い。』


『アインス、テメェ俺を嵌めるつもりか?』


『そんな事は無い。現に賛成派は私とフンフ、ズィーペンだ。まぁ、キミとツヴァイ、ゼクスには伝えてはいなかったがね。ククク。』


ーーツヴァイはここで”ヴェヒター”の対立図を理解した。それぞれ単独で動き、考えていると思っていた”ヴェヒター”たちの中でアインス、フンフ、ズィーペンらは手を結んでいる。この事はツヴァイの計画の中において非常に厄介であった。

アインス、ミリアルド、桃矢の3名を始末すればいいと思っていたものが、フンフ、ズィーペンという強大な力を持つモノまで始末せざるを得ない状況になってしまった。更にはフンフとズィーペンの直属のリッターまでもが加わる事となる。

慎太郎らにアインスの始末をさせるつもりであった計画が完全に頓挫した。

ツヴァイは腸が煮えくりかえる思いであった。


『テメェら…いつの間に組みやがった…?』


『ヒト聞きの悪い事を言うなフィーアよ。前回の会合でも言ったであろう。島村牡丹は素晴らしい、フライヘルの爵位を与えるべきである、と。』


『なら田辺はどう説明すんだ?不必要だろう?それも奴には『フライハイト』を渡したそうじゃねぇか!!』


『貴様には知性が無いのか?島村に『フリーデン』を使わせるには『フライハイト』が必要だからだ。双剣なのを忘れたのか?』


『そんな事を言ってんじゃねぇ!!『フライハイト』なんか使わせてどうするつもりだって事を言ってんだよ!!アレは”彼の方”のモノだぞ?恐れ多い…そうは思わんのか!?』


『安心したまえフィーアよ。田辺は『フライハイト』は使え無い。”封印”を解けなかったからな。私はそれを見越して渡したのだ。』


『……だが爵位を与えた事で”サイドスキル”は使えんだろ。他のプレイヤーとのパワーバランスがメチャクチャだ!!島村と田辺が同じクランなら誰も勝てねぇだろ!?それに芹澤までいんだぞ!?どうすんだ!?』


『だから次のステージへと行こう。この後にメンテナンスを行い”メインスキル”と”サブスキル”をアンロックする。』


『『『何だと!?』』』


ーーツヴァイ、フィーア、ゼクスの3名が声を荒げる。


『俺'sヒストリーのプレイヤー数はとうとう20万人を超えた。現状新規プレイヤーと既存プレイヤーとの実力差は相当なものだ。そして”闘神”、”五帝”、”三拳”らトッププレイヤーとの差は最早埋まらないであろう。それなら次のステージへと押し進めて問題は無い。』


『だがいくらなんでも早すぎますよ!?全てがメチャクチャになります!!ゼーゲンの恩恵やアルティメットの優位性すら失います!!』


ーーゼクスが2人の話へ割って入る。


『だからこそだよゼクス。フィーアが言ったではないか。パワーバランスがメチャクチャだと。だから一度リセットするのさ。』


『しかしーー』

『ゼクス、アインスの決定が絶対だ。我々に覆す権利は無い。』


ーーフンフがゼクスを制止する。それによりゼクスは言葉を飲み込む。そしてツヴァイもフィーアも反対意見を出す事をやめた。


『諸君らの英断に感謝する。さて、では他にも議題はあるだろうがメンテナンスへと取り掛からなくてはならない。続きは次回の会合にて執り行う。以上だ。』


ーー会合終了の合図がアインスから出され、各々が退席する。だがツヴァイだけはその場へと残りアインスへと近づく。


『…何を考えているのだアインス。』


『フフ、何がだ?』


『何故このタイミングで”メインスキル”と”サイドスキル”をアンロックする?』


『先程述べた筈だ。現状のーー』

『ーー茶番はいい。本音で話せ。』


ーーツヴァイから剣気が放たれ、この場が凄まじいプレッシャーに包まれる。


『俺は真実を言っている。』


『戯言だ。ここでリセットをかければ島村が俄然有利になる。それが狙いではないのか?』


『フフ、それはキミが夢中になっている田辺慎太郎も同じではないか?彼にも”サイドスキル”が与えられるのだ。何も損は無いのではないか?』


『”サイドスキル”など発動させなければその能力を知る事は出来ない。それに所詮は”1番目”だ。そこまで得になりはしない。』


『なるほど。ツヴァイ、キミの言う事は分からなくはない。だがそれがどうした?』


『何?』


『仮にそうであってもお前に何の損がある?島村牡丹は田辺慎太郎のクランだ。お前に不利益は一切無い。違うか?』


『……。』


ーーツヴァイは言い返す事が出来ない。それはアインスの言う事が筋が通っているからだ。慎太郎と牡丹は同じクラン、それが有利になるのならツヴァイにとってはメリットしかない。ツヴァイは慎太郎を死なせないようにあらゆる策を講じている。それは運営としてあるまじき行為なのは言うまでもない。これをフィーアが言うのなら分かるがツヴァイが言うのはどう考えても御門違いである。


『フフ、ツヴァイよ、俺たちの目的は多少は違うが、田辺慎太郎のクランを贔屓しようとしている点は同じではないか。言ってみれば俺たちは同士だ。互いに協力出来るのではないか?』


ーーそう言いながらアインスはツヴァイに手を差し出して握手を求める。

だがツヴァイはその手を強く叩き拒絶をする。


『協力なんてするつもりはないわ。失礼する。』


ーーそう言ってツヴァイは退席する。



『フフ、いるか?ミリアルドよ。』


ーーアインスの言葉にミリアルドが姿を現わす。


「ああ。」


『ここまで俺の筋書き通りだと退屈だな。』


「お前の知恵が異常過ぎるのだ。」


『フフ、あの女が馬鹿過ぎるだけさ。いや、サーシャも葵もリリもだな。女は馬鹿でつまらん。』


「お前のお気に入りもか?」


『彼女は聡明さ。あんな馬鹿女どもと一緒にされては困る。ログを見たがやはり素晴らしかった。”贄”に相応しい。』


「フッ、ご機嫌だな。」


『それはそうさ、聞いていたか?『所詮は”1番目”、得にならない。』だそうだぞ?クックック、まさか田辺にアレを付けているとは夢にも思っていないだろうな。それもあの女を討つ為のモノだと。』


「当然だろう。”サイドスキル”を操作して付けるなど聞いた事もない。”サイドスキル”は神に与えられた祝福なのだから。」


『一度だけ許された俺の権利であるからな。彼女の”サイドスキル”はどうなっていた?』


「『幻剣』だ。」


『フフ、流石だな。やはり彼女は神に愛されている。”1番目”としては最高峰の能力ではないか。』


「ああ。これならばクランイベントも心配ないだろう。」


『三間坂は何をしている?』


「スカウトをしに行ったよ。島村の知人をな。」


『フフ、そうか。』


「それがわからんな。島村を助ける一方で何故追い込むような真似をする?」


『わからんか?知人といっても仲良しをスカウトさせに行かせてはいない。ちゃんと計画があるのさ。ミリアルド、キミには色恋がわからぬか?』


「生憎、俺は黙っていても女が寄って来るタイプだった。お陰で本気の恋愛などした事は無い。」


『クックック、それは悲しいな。では顛末を見届けるがいい。きっと理解出来る筈さ。』


「楽しみにしていよう。」


『さて、準備に取り掛かろう。忙しくなるぞ。』


ーーアインスとミリアルドも退席をする。

”ヴェヒター”たちの決定により俺'sヒストリーは新たな局面を迎える。

そしてそれが慎太郎たちに数多の危機をもたらす事となる。

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