第218話 このクランはダメかもしれない
ーー声が聞こえる。
ーー前よりも声がハッキリしてきている。
ーーやはり知ってる声だ。
ーーでも知らない声でもある。
ーー『もうすぐだよ。』
ーー何が?
ーー『会えるから。』
ーー誰と?
ーー『ううん、もう会ってるね。』
ーー君は誰?
ーー『知ってるよ。』
ーーわからない。
ーー『わかるよ。』
ーー『”その時”は近いから。』
ーー”その時”って何?てか、うるさいな。
「楓さんっ!?ズルいですよっ!?」
「そうです!!横暴です!!」
うるさくて目が醒めると、楓さんが俺にくっつかってホールドしている。そしてそれを美波と牡丹が引き剥がそうと躍起になっている。何とも醜い光景だ。
「嫌よッ!!私がジャンケンで勝ったんだからッ!!」
「30分の約束のはずですよっ!!もう時間ですっ!!Time's upですっ!!」
「そんな約束はしてないわよッ!!誰がくっつくかの権利を決めるジャンケンをしたに過ぎないわッ!!」
「狡いです!!弁護士ともあろう方がそのような卑劣な手を使っても良いんですか!?」
てか楓さんが必死に俺をホールドしてるから結構痛いんですけど。それにしれっとアリスは俺の反対側にくっついてるし。
「事実を言ったまでよッ!!卑怯な事はしてないわッ!!それにズルいのは2人でしょッ!!朝だって2人してタロウさんの寝間着の匂いを嗅いでたじゃないッ!!」
「「う…そ、それは…」」
えっ!?何それ!?あ!!前に言ってたやつか!?えっ!?本当にこの2人俺の匂い嗅いでるの!?こんな顔してクンカーなのかよ!?なんか恥ずかしいんだけど…
「じゃ、じゃあ明日は楓さんにその権利を譲りますっ!!それでどうですかっ!?」
えぇぇ…これってこの前の流れと同じじゃん。楓さんもクンカーなのかよ。このクラン変態ばっかりじゃん。
「いや、それは遠慮するわ。そんな変態みたいな事したくないもの。」
「ぐはっ…!!」
「がはっ…!!」
ーー楓のその言葉に美波と牡丹は膝から崩れ落ちる。
良かった。楓さんは変態じゃなかった。まだまだこのクランは安泰だな。
「ま…まだです…まだ私は負けるわけには参りません…!!」
ーーフラフラになりながらも牡丹は歯を食いしばり立ち上がる。
お前は一体何と戦っているんだ牡丹よ。
「ここに今朝タロウさんが脱いだタンクトップがあります。」
いや、何で牡丹が持ってるの?おかしいよね?
「…それがどうかしたの?」
「この匂いを嗅いでみて下さい。」
「嫌よ。」
そりゃあそうだよな。でも拒否されるとちょっと悲しい。
「何故ですか?臭いとでも仰るのですか?まさか楓さんのタロウさんへの想いはそんなものなのですか?」
「……。仕方がないわね。嗅ぐだけよ。」
楓さんが牡丹から俺のタンクトップを受け取りその綺麗な顔に俺の臭いモノを押しつけている。なんかさ…結構興奮するんだけど…ヤバい扉開けちゃいそうなんだけど…
ーーだが真にヤバいのは楓であった。
アレだけ馬鹿にしていたにも関わらずタンクトップを鼻から離す事が出来ないのだ。本人が隣にいるのだから直に匂いを嗅ぐのが一番良いに決まっている。だが、一晩汗を吸ったそれは何ともいえない安心感と高揚感を楓に与えてくれた。もう楓はそれを嗅がずにはいられない。楓は堕ちた。完全に堕ちたのだ。
「こんな…!!こんな事って…!!」
「ふふふ、ようこそこちら側の世界へ。」
「ふふっ、ようこそこちら側の世界へ。」
うわぁ…変態が増えたよ…もうアリスしか常識人いないじゃん。
ーーだが慎太郎は知らない。アリスも毎日慎太郎が使ったハンカチの匂いを嗅いでいる事を。
「フッ、改めて聞きます。私たちにその場所を譲ってもらえるんでしたら明日の朝は楓さんに譲ります。どうしますか?」
ーー美波がドヤ顔で楓にそう告げる。
譲るって俺のタンクトップだからね。まさかとは思うけどお前ら俺のパンツまでクンカしてんじゃないだろうな?牡丹はともかく美波はかなり怪しいんだけど。
「…タンクトップの持ち帰りは?」
「許可致します。」
許可致します、じゃねーよ!?それ牡丹のじゃないからな!?俺のタンクトップだからな!?てか何持ち帰ろうとしてんの!?何に使うの!?
「わかったわ。交渉成立ね。」
「ふふっ、流石は楓さんです。楓さんならきっと理解してくれると信じていました。」
うん、俺も楓さんを信じてたのに裏切られたわー。変態三銃士完成じゃん。
「では美波さん、どちらに行きますか?」
どちら”に”?どちら”が”じゃなくて?
「楓さんを引き込んだ功績は牡丹ちゃんのものよ。牡丹ちゃんが選んで。」
選ぶ??何をだ??
「ありがとうございます。では僭越ながら上に行かせて頂きます。殿方の上に乗るなどはしたないかもしれませんが折角の好機ですのでやらせて頂きます。」
え?上ってーー
ーーなどと思っていると慎太郎の上に牡丹が乗ってくる。騎乗位の形で。当然その光景に慎太郎の愚息はいきり立ってしまう。
さらに当然ながら慎太郎と牡丹は密着しているのだから慎太郎の愚息が反応している事に牡丹は気付く。そしてその体勢のまま慎太郎へと倒れ込み、耳元で囁く。
「…お目覚めですか?」
ーー牡丹のその台詞により慎太郎はトリップしそうになる。だがそれを必死に耐え、慎太郎はどうにか理性を保った。
血の涙を流しながら。
ーーそして当然今のままでは起きられない慎太郎は愚息が鎮まるまで素数を延々と数えているのであった。
ーーそして最後に慎太郎は誓った。
『今日は牡丹もオカズにして2回戦しよう。』
と。
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