第212話 若干の重さ
【 楓・美波・アリス 組 4日目 PM 6:20 洋館 東棟 2F 通路 】
「カカカカカ!!うーん、処女のエェ香りや!!あのヘタレ男はまーだ手ェ出しとらんのか。こんな上玉2人もおってどっちにも何もせんとかインポとちゃうか?カカカカカ!!」
この時間が無い時に鬱陶しい。コイツ1人なら即殺して先に進むけど三國がいるのは厄介ね。この男の実力は知らないけど風格が備わっているのは確かだ。速攻で倒す事は正直難しいと思う。
ーーそう、澤野の横には慎太郎のライバルといえる存在である三國裕太がいる。この三國裕太は楓と牡丹が名を連ねる”五帝”の下の位である”三拳”の座に就いている実力者だ。まともにやり合えば例え楓といえども絶対勝てる保証は無い。特に今の状況では楓は冷静に戦う事は出来ないだろう。それならば尚の事戦うべきでは無い。
「さ、澤野…!?どうしていつも現れるのよっ…!?」
美波ちゃんが物凄い嫌そうな顔でそう言う。
「それはワイと美波ちゃんが運命の赤い糸で結ばれとるからや!!カカカカカ!!」
「あなたとはそんな運命あるわけないわっ!!」
『おい、美波。誰だこの気持ちの悪い男は。』
ノートゥングが更に嫌そうな顔をしている。そんな顔してると美人が台無しだからやめなさい。
「…私が一番最初に負けた相手よ。この男に性奴隷にされそうだったのをタロウさんが助けてくれたの。」
『ほう。つまりは屑という事か。クックック、我が友をそのような女の尊厳を奪う位にしようとした罪、妾が清算してくれよう。』
「ふふっ、そう言ってくれてありがとう。でもノートゥングは今、憑依できないんだから無茶をしちゃダメよ。それに今は戦っている場合じゃないわ。」
「そうね。こんなクズを相手にしてる場合じゃないわ。ここを突っ切って下へ降りるわよ。」
今回はこの男たちと戦うべきではない。タロウさんと牡丹ちゃんとの合流を最優先にすべきだ。強行突破しかないけどアリスちゃんをどうするかが課題だ。私と美波ちゃんはゼーゲンによる身体能力上昇の効果があるから一気に駆け抜けられるが、アリスちゃんは普通の小学生の身体能力しか無い。フォローしながらでも確実に追いつかれる。三國も厄介だけどもう1人の女の実力もわからないから強行突破の成功率は相当低いだろう。
でも考えている暇も無い。やはり私が一気に三國を倒すしかないわね。
「…楓さん。」
私がゼーゲンを引き抜こうとした時、アリスちゃんが小声で話しかけてくる。
「…私が魔法で一気に勝負をかけますか?あの3人は私の魔法の事は知らないはずです。5秒あればやれます。」
そう言うアリスちゃんの手には既にマヌスクリプトが握られていた。
「…それは万が一の時にしましょう。だから無闇に使っちゃダメよ?」
「…わかりました。」
アリスちゃんの言う通り魔法を放てば一気に勝負をつけられる可能性は相当高いとは思う。だけど万が一失敗したらアリスちゃんは攻撃手段を失う事になる。アリスちゃんは地下牢で魔法を1回使っている。そうすると残りは1回だけだ。それを超えたら何らかの代償を払わなければならない。敵が3人いる以上はそれぞれマッチアップする事を余儀なくされる。そうなったらアリスちゃんは魔法を使うしかなくなるのが必然。やはり使わせられない。私がなんとかしないと。
「カカカカカ!!そんな構える事はあらへんで楓ちゃん!!ワイらは別にキミらと戦うつもりはあらへんで。」
「お前のようなクズの言う事を私が信じるとでも?」
「相変わらず口が悪いな楓ちゃんは。その生意気な口をワイのブツで塞いでやりたいわ。カカカカカ!!」
「私は人を見るのよ。クズ相手には相応しい言葉遣いだと思わない?ウフフ。」
「エェなァ。流石は楓ちゃんや。ワイの色に染め上げるのが楽しみやで。」
「オイ、いつまでくっちゃべってんだ。時間がねぇんだろ。さっさと行くぞ。」
私が澤野と睨み合っていると横にいる三國が割って入る。
「なんや三國くん。ちょっとぐらいエェやろ。愛しの楓ちゃんとの語らいぐらい邪魔せんといてや。」
「あ?テメェ誰に口利いてんだ?」
「わーった、わーったて。怒らんといてや。」
「チッ…オウ、芹澤、行くんならさっさと行け。タロウの野郎がこの状況作りやがったんだろ?とっととケツ拭かせて来い。面倒クセェ事しやがって。」
三國が異様に不機嫌そうな顔で私に話しかけてくる。
「どういうことかしら?」
「この洋館内に残ってるプレイヤーはもう俺らのクランとお前らだけだ。通知が来てから俺が5クランぶっ潰したからな。て事は首狩り村だがなんだかに行ったのはタロウの野郎とお前らのクランのもう1人が行ったって事だろ。そんでこの洋館内にあんなモン放ちやがったら面倒な事この上ねぇだろ。」
「ヘンカーって奴の事を言っているの?」
「ああ。一応忠告しといてやる。アレとは戦わねぇ方がいいぞ。」
「カカカカカ!!そうやな!!三國くんでさえ腹に穴開けられた程やからな!!」
「黙れ澤野、殺すぞ。」
「わーったって。シャレやろシャレ。つーことや楓ちゃん。アレはまだ現段階でワイらが手に負える相手やない。そもそもが首狩り村へ行く事を前提としとらんのが今回のイベントや。それをシンさんが余計な事して引っ掻き回したってわけや。」
ヘンカーというのは三國がやられる程の相手って事ね。やはり早くタロウさんと牡丹ちゃんを探さないと。スキル無しじゃ分が悪いなんてものじゃないわ。全員揃って何とかヘンカーから逃げ切る、それがベストね。
「情報に関しては礼を言うわ。じゃあ私たちは行かせてもらうわよ?」
「ああ。コイツに騙しなんかさせねぇよ。俺は汚ねぇ手は使わねぇ。さっさと行け。」
「そう。みんな、行くわよ。」
「はいっ!」
「は、はい!」
そんな言葉を信じる程私は甘くない。アリスちゃんを先行して行かせ、美波ちゃんをその後に付かせる。そして一定の距離を2人が取るまで私の全神経は3人に集中させる。いつでも全員の首を落とせるように。
「それとタロウに伝えとけ。今回は俺たちにはやる事があるのとヘンカーが出て来たからテメェらは狙わねぇが次は殺す。精々残りの人生を楽しんでおけってな。」
「ウフフ、その言葉をそっくりお返しするわ。彼は絶対にやらせない。私があなたたちを斬るわ。」
「フン。」
美波ちゃんとアリスちゃんの姿が見えなくなったので私も歩みを始める。どうやら本当に戦うつもりは無いようだ。それならありがたい。早くタロウさんと牡丹ちゃんを探さないと。
私は小走りで2人に合流する。
「戦闘を避けられてよかったですねっ。」
美波ちゃんがホッとしたような声で話しかけてくる。
「そうね。正直ありがたかったわ。」
「あの三國って人…そんなに悪い人じゃないですよね…」
アリスちゃんが複雑な顔でそう話す。
「でもタロウさんを馬鹿にするような態度は許せないわ。良い人では無いわよ。」
「そうだよっ!それに澤野なんかと一緒にいるんだからっ!」
「そ、そうですよね!変な事言ってすみません!」
アリスちゃんがそう思う気持ちは分からなくは無い。アリスちゃんが今まで関わった大人たち、それにオレヒスで出会った男から考えれば比較的マシなのは確かだ。でも善人では無い。そういう所もちゃんと教育しないといけないわよね。近い将来、アリスちゃんは私の娘になるようなものなんだから。
「さ!行くわよ!」
「はいっ!」
「はい!」
ーー若干の重さを匂わせる楓を先頭に彼女たちは本館1階へと駆けて行った。
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