第195話 フィルム

【 慎太郎・牡丹 組 2日目 AM 9:42 洋館 本館 3F 映写室 】




「さて、結構荒れ果てちゃったけど映写室を少し調べてみようか。」


「そうですね。こういう所に生存者の手記があったりするのもお決まりの展開です。」


「フッ、そこに気づくなんて流石は牡丹だな。やっぱり趣味が合うのって最高だよな。」


ーーまたこうやって慎太郎が余分な事を言うから牡丹のLOVE度と依存度が限界突破していくのであった。


ーー2人で映写室内を調べる。


戦闘により物が散乱してしまっているがスクリーンは無事で、映写機から写せば作品を鑑賞する事が出来そうだ。映画館デートとか中学の時の憧れだったよなぁ…一度もした事なかったなぁ…


「タロウさん、来て頂けますか!!」


ーー慎太郎が若干ネガティヴモードに入っていると映写機のある小部屋から牡丹が慎太郎を呼んでいる。

慎太郎は急いで牡丹の元へ向かう。


「どうした!?」


「フィルムがありました。これは…!」


「間違い無い…誰かが俺たちに何かを教える為に遺したフィルムに違いねぇ…!!でかしたぞ牡丹!!」


ーー2人はキャッキャしながら喜んでいる。本当に緊張感のないバカップルだ。爆ぜればいいのに。


「うっし、そんじゃ映写機にかけて鑑賞会と決め込みますか。せっかく映画館みたいな映写室なわけだしな。」


「お供致します。タロウさんの隣は予約済みですので。永久に。」


牡丹が若干重い台詞を吐いてるがスルーしよう。ま、流石に何でも無いフィルムだろうし、これ見たらこの部屋撤収だな。




ーー慎太郎が映写機にフィルムをかけて再生を始める。

そして慎太郎と牡丹が座席に着いた時にスクリーンに映像が映し出された。




『はぁっ…はぁっ…はぁっ…』




ーー先ず現れたのは中年の男のアップだった。

息を切らしながらカメラで自分を録画しているようだ。


『ふぅー…えー…きっとこのエリアに来るのが俺たちだけじゃないって思うから…その為にこの記録を残しておく…まだ来てないよな…?』


ーー男は辺りをキョロキョロと見ている。何かを気にしているようだ。


『この洋館エリアは普通じゃない…まずは生き残る事を第一に考えろ…プレイヤー同士で争っている場合じゃないからな…特にまだ本館にしか行ってないプレイヤーは現状を把握出来てないはずだ…このエリアは洋館エリアとは言っても洋館だけがエリアにあるわけじゃない…洋館にある脱出口から山村にまで抜けられるんだ…だがその山村には出来る限り近づくな…あの山村はヤバい…ん…?何か聴こえなかったか…大丈夫か…?』


「山村…?そんな所もあるのか…」


「そのようですね…それにこの方は先程から何に怯えているのでしょう…?何かに追われているのでしょうか…?」


ーー牡丹の言う通り男の瞳には恐怖が宿っている。


『それと…洋館自体も気をつけろ…洋館は想像以上に広大だ…本館、東棟、西棟、南棟、北棟に分かれている…何よりも往き来するのには鍵が必要だ…その鍵は謎解きをしないと手に入らない…謎解きは残念ながら俺には解けなかった…自分でなんとかして欲しい…』


「タロウさんのお陰で鍵は入手出来ましたから問題ありませんね。」


「この洋館ってそんなに広かったんだな。ここってドコなんだろう?見取り図でもないと場所が把握できねーぞ。」


『幸い俺は他のプレイヤーが開けた扉を通って移動する事が出来ている…解けない者は上手く立ち回ってくれ…この映写室は本館だが…東棟から行ける地下牢には行かない方がいい…エリアに配置されたファイント以外の奴がいる…』


「ファイント…?なんでしょうか…?」


「話の筋から考えると敵って事かな?英語のエネミー的な。」


『地下牢へ入ると鍵が強制的に閉まる仕組みになっている…中にいる囚人を倒さない限りは出る事は出来ない…気をつけろ…運営側の囚人が入っているはずだ…恐らくはリッター以上の奴が入ってる…スキルこそ取り上げられているが尋常でない強さって話だ…戦う事は考えるな…』


「得にならない敵とは戦いたくねぇな。」


「そうですね。東棟に行ったとしてもそこへは立ち入らないようにしましょう。」


『それと…北棟には電子ロックされている扉があるらしい…パスコードがいるみたいだが鍵と違ってヒントが無いそうだ…そこは諦めろ…』


「ほー。それは面白そうだな。謎解き大好きな俺としたら俄然やる気出で来るぜ。」


「ふふふ、タロウさんは賢いですものね。」



『それとーー『ギャアアアアアアアッッッ!!!!』』



ーー音声に断末魔の叫びのような恐ろしい声が入り込む。



『ウウッ…!!来やがった…!!俺はもうダメかもしれん…もし、このフィルムを見る者が現れた時は俺の家族…娘に伝えて欲しい事があるんだ…それを言付かってくれないか…?まだ娘は5歳なんだ…頼む…『母さんを救おう思うて父ちゃん頑張ったんやけど、アカンかった。すまん、みく。お前の幸せを祈っている。ダメな父ちゃんですまん。』…どうか伝えて欲しい…俺の名前は…誠一、わーー』


ーードゴォン



ーー扉を蹴破る音が聴こえ、男がカメラから目を離す。



『ここまでか…俺は最後まで諦めんで!!親父の力を見せーー』


ーーここで映像が消えてしまった。


誠一と名乗る男の生死は分からず、誰と交戦したのかも分からないままフィルムは終わりを迎えた。


「…誠一さんと言う方はどうなってしまったのでしょうか…?」


「普通に考えれば…でもわからない…もしかしたら生き残ったかもしれないし…」


「そうですね…」


「言伝を頼まれた以上は今後その『みく』って子を探してみるか…それでこの誠一さんって人が生きてれば万々歳だしな。」


「ふふふ、タロウさんは優しいですね。」


「そんな事ないって。でも手がかりが少なすぎだよな。名字もわからんし。きっとフルネームで言うところだったんだろうけどナニカに邪魔されたわけだもんな。少しは空気読めよ。」


「娘さんに宛てた言葉の時には関西弁でしたよね。関西の方でしょうか…そして『みく』ちゃん…パッと思いつくのは最近友達になった娘の事ですね…」


「えっ?心当たりあるの?」


「いえ…年齢が違い過ぎますので別人だと思います。」


「そっか。『みく』なんてわりかし多い名前だもんな。この問題は無事にここから出たら考えよう。」


「そうですね。誠一さんのお陰でこのエリアの構造も知れました。」


「ああ。それに山村か…なぁ、牡丹。」


「はい、あなたの牡丹です。タロウさんの仰りたい事はわかっております。その用語に私は震えそうになりました。」


「やっぱり?絶対いるよなヤバい村人とか!」


「その地へ足を踏み入れたら生きて村を出られない…王道ですね。」


「くぅー!!堪らねえ…堪らねえよ!!行くぜ牡丹!!」


「はい、参りましょう。」


「うっしゃ!!燃えて来たぜ!!行くぜ山村!!待ってろ山村!!」


ーーフィルムの映像はこのバカップルにガソリンを投下するだけに終わってしまった。


だが慎太郎はまだ理解していない。この洋館エリアの真の恐怖を。

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