第196話 慎太郎の気持ち

【 慎太郎・牡丹 組 2日目 AM 10:23 洋館 本館 3F 通路 】





ーー映写室にて情報を得た慎太郎と牡丹は山村へと進む為、脱出口探しへとシフトしていた。


「脱出口って言ったら最低でも1階に出ないと絶対無いよな。」


「そうですね。山村へと繋がっている訳ですし、1階か地下と考えるのが適当かと思います。」


「窓から見る限りじゃここは3階だよな。なら下へ降りる階段探さないとな。」


「東棟へは行かないように気をつけましょう。万が一にも地下牢へと降りてしまったら余分な戦いになってしまいますからね。」


「だな。てか楓さんたちがそっちに行ってないよな。」


「この情報を知らなければ降りてしまう可能性はありますよね。」


「でも俺らみたいなホラー好きなら降りるかもしれないけど美波が怖いの苦手なのは確定してるから多分降りないかな?」


「そうなのですか?」


「この前のトート・シュピールの時に怖いの苦手って言ってたんだよ。アリスも苦手そうだからな。楓さんはちょっとわかんないけど。」


「仮に降りてしまっても楓さんがおられるのですから大丈夫ですよ。」


「そうだね。楓さんの実力はわかってるからどんな奴が来ても絶対みんなを守ってくれるはずだ。俺たちに出来るのはクランの数を減らす事と山村への道を切り開く事だ。」


「はい。」


「…まぁ、ちょっと山村で遊んじゃうかもしれないけど。」


「ふふふ。私はタロウさんの正直なところをお慕いしております。」


「照れるな。さて、通路を歩いてたら見事に挟み撃ちにあったわけだけど。」


ーー前方にはゾルダードが4体。後方にはプレイヤーが5人いる。


「一応聞くけど共闘してゾルダードを倒すつもりはあるか?」


ーー慎太郎はプレイヤーに問いかける。


「へっへっへ、あるわけねーだろ。テメェを殺してその極上の女を手に入れるのが最高だろ。」


「ヒューッ!!マジ可愛いんだけどこの女!!水口杏奈より可愛いくね!?」


「おぉ!ちょっとヤベーぐらい可愛いんだけど!!」


「ヤリてぇ!!今日は寝かせねぇぜ!!」


「おいおい、ちゃんと順番だぞ?みんなで仲良くヤろーぜ!!」



ーー下衆どもが下衆な会話を繰り広げる。もはやお約束だ。


クズどもが。俺の牡丹をなんて目で見てやがんだ。そもそも水口杏奈って誰だよ。自慢じゃねーが俺は芸能系には疎いからさっぱりわかんねーんだよ。誰だか知らんが牡丹より可愛いわけねーだろ。アホか。

俺はチラッと横にいる牡丹を見るとゴミを見るような目で男たちを見ていた。自分でこんな事は言いたくないが、牡丹って俺以外の男には無関心っていうより生物として認識してないよね。


「タロウさんは待っていて下さい。私が全て始末して参りますので。」


牡丹が前に出ようとするので俺はそれを止める。


「タロウさん…?」


「奴らは俺がやるよ。てかあんな奴らに牡丹を近づけたくない。」


「…それは嫉妬でしょうか?」


「…何嬉しそうな顔してんの?」


「答えて下さい。」


「…ぶっちゃけ嫉妬だな。」


「つまりは『俺の嫁である牡丹で妄想なんてするな。貴様らが妄想するような事は俺しか出来ないんだ。』という事でしょうか?」


「目をキラキラさせながら何を言ってんだ。…まぁ…大筋は合ってるけど。」


「ふふふ、今日はとても良い日です。嬉しい事ばかりで私は幸せです。」


可愛い顔して頬を染めやがって…そういうのが男心をくすぐるんだよな…


「…ま、そういう事だから俺が奴らを相手するよ。」


「わかりました。では私はゾルダードを相手致します。」


「おう、よろしく。」


俺がゼーゲンを鞘から抜き、一歩前に出ると、背後から鍔鳴りの音が聞こえたので振り返る。

すると、さっきまで確かに居たはずのゾルダードがそこから消えていた。


「これで嫉妬に狂う騎士様のお姿をじっくりと拝見出来ます。」


「強っ!?いや、わかってたけどさ!?てか嫉妬に狂ってないからね!?」


ーー牡丹の圧倒的な強さを見せつけられテンションダウンしながらも慎太郎は気を取り直して再度男たちの前へと出る。


「ヒヒヒ、なかなか強え女じゃねぇか。こりゃあ身体以外にも使い道ありそうだな。」


「おお!俺たちに徹底的に尽くさせてやろうぜ!!」



ーー牡丹の強さを見ても男たちは先程までと態度が何ら変わらない。それを見て慎太郎は緊張を強める。銀色のエフェクトを発動させるゾルダードを一瞬で葬り去る力を目の当たりにしても恐怖が出ていないのならそれ以上の力があるという事だ。男たちが相当な強者なのは間違い無い。


「どんだけ強かろうと関係ねぇよ。騎士は姫を守るのが仕事だからな。オラ、かかって来い。」


ーー慎太郎がゼーゲンを構え、戦闘態勢をとる。


「ヘッ、女の前だからってカッコつけやがって。嬲り殺しにしてやるから覚悟しろよ。」



ーー男たちも各々の武器をラウムから取り出し戦闘態勢をとる。


ーーそして、男たちはスキルを発動させる。


ーー慎太郎は男たちのエフェクトの色を見て驚愕する。















「……は?赤と…黄と…青…?」






「ヒヒヒ!ビビっちまったか?」


「許してなんかやらねぇぞオラァ!?」


ーー男たちは慎太郎に対してマウンティングをとっている。完全に勝ったと思っているのだろう。

だが慎太郎は理解が出来なかった。なんでその程度のスキルで勝った気になれるのだろう?クエッションマークで慎太郎の頭は一杯になっていた。


「あのよ…なんでそのスキルで勝てると思ってんだ?さっきのゾルダードはみんな銀色だったんだぞ?それで牡丹に瞬殺されてんだぞ?」


「あぁー?何言ってんだテメェ?赤の上は金だろ?それしかねぇじゃん。なぁ!?」


「おぉ!!赤だってかなりアチいしよ!!黄色ならチャンスだろ!!青はガセだけどよ!!ブハハ!!」


ーー男たちが妙に盛り上がっている。


「…お前ら何の話してんの?」


「アァ!?パチンコの話に決まってんだろうがよ!!」


…えっ?パチンコの話?何言ってんのコイツら…意味わかんねぇ…そもそもパチンコ知らねぇもん。


ーーどうやら男たちは俺'sヒストリー内のスキルのレアリティをパチンコの演出だと思っているらしい。そしてそれには銀色が無いのだろう。だから銀色は大したことが無いと思っているのだ。

慎太郎はギャンブルが嫌いだからそういった類のものには手を出した事が無い。だから男たちの会話が全く理解出来なかった。


ーー男たちがどうなったかは言うまでも無い。その程度のスキルにゼーゲン所持の慎太郎が負けるわけがない。男たちは慎太郎に瞬殺され、あっという間に戦闘は終了した。


「お疲れ様でした。嫉妬に燃える騎士様のお姿に私の心は熱くなりました。」


ーー牡丹がうっとりとした表情で慎太郎を見ている。


「はいはい。てかよく考えたらアイツらみたいなのが普通なんだよな。本来はオレヒスのガチャって凶悪なんだからSS以上なんてなかなか手に入らないんだもんな。俺らのクランが異常なんだよ。」


「タロウさんが素晴らしい方だからみんなが集まるのです。」


「牡丹はいつも俺を褒めてくれるね。」


「愛しておりますから。」


「こんなオッさんの何がいいんだか。」


「全てです。」


「そこまでハッキリ言われると正直かなり嬉しい。…ありがと。んじゃ、先行くか。」


「はい。」



ーー今までの慎太郎の人生においてここまで人に愛された事も、好きと言われた事も無い。こと恋愛においては苦い経験しかした事が無い彼にとって牡丹の気持ちは心底嬉しかった。

慎太郎は『牡丹の気持ちが変わらないといいなぁ』そう思っていた。

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