第188話 クリーチャー

【 慎太郎・牡丹 組 2日目 AM 8:25 洋館 本館 3F 映写室 】




『イヒ…イヒヒ…』


「気味の悪い奴だ。」


ーーバルムンクは自身の記憶を探っていた。


間違い無くこのクリーチャーの事を知っている。だが、いつ、どこで見たのかが思い出せない。あまりにも遠い記憶故に思い出す事が出来ない。

遠い記憶…?何故そう思ったのか…?

思い返して見れば思い出せない事が多い。何か記憶に封がされているような…そんなーー


ーーバルムンクが自身の違和感を感じている時であった。相対するクリーチャーが奇声を発しながらが右腕の形を変え、剣のような形状へと変化させていく。


『アハァ…!!』


「ほう…それが貴様の武器というわけか。面白い、受けて立つ。」


ーーバルムンクのその言葉が合図となり両者が跳ねる。

そして剣と剣の打ち合う音が映写室内にこだまする。

互いの剣の衝撃により映写室の座席が弾け飛び、吊るされているスクロールが宙に舞い散る。

バルムンクはその舞い散ったスクロールに身を隠しクリーチャーの視線を逸らす。その一瞬の隙を突いてスクロールごとゼーゲンによる真空の刃で横一閃薙ぎ払うが、クリーチャーは身を躱し真空の刃は壁を壊すに過ぎなかった。

だがバルムンクはそのままクリーチャーとの間合いを詰め、ゼーゲンを振り被りクリーチャーへと斬りつけるが、影を斬っただけに終わる。

両者の第1ラウンドは全くの互角で終了する。


「ふむ、やるな。」


『イヒ…!!』


バルムンクは距離を取ったクリーチャーへ再度間合いを詰め、次々と攻撃を繰り出す。バルムンクの一撃一撃の剣の重さに次第にクリーチャーは防戦一方になる。

そして壁際まで追い詰め、クリーチャーの腕と一体化した剣を頭上に大きく弾いた。それにより大きな隙が出来た胴体に回し蹴りを放つ。

ーーだがその刹那、バルムンクの背筋に悪寒のようなものが走った事により回し蹴りをキャンセルし、後方へ大きく跳ね、クリーチャーとの距離を取った。

間髪入れずにバルムンクはラウムからロングソードを取り出しクリーチャーへと投げつける。クリーチャーはそれを避ける事も無く胴体へと刺さる…かに見えたが、ロングソードはクリーチャーに刺さる事なく溶けて消えていった。


「なるほど、厄介な身体だな。」


あのまま回し蹴りを放っていれば慎太郎の足は溶け落ちていた。それをギリギリの所で回避出来たのはバルムンクの経験による賜物であろう。


「ゼーゲンが溶ける事は無いだろうから攻撃は与えられる。だが全身が武器というのは中々に手強いな。」


『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!!』





********************





【 楓・美波・アリス 組 2日目 AM 8:40 洋館 東棟 2F 大食堂 】





「通路…?」


大食堂の扉を開けた先にあったのは通路だった。だがその通路は洋館内の通路とは造りが異なっている。漫画で良く見るような牢屋に繋がっているそんな造りだ。


「楓さん…なんか…これって…」


いち早くアリスちゃんがそれを察知する。やはりアリスちゃんも同じ事を思ったのね。


「牢屋に繋がってそうよね。」


「ろ、牢屋ですかっ!?」


牢屋というワードに美波ちゃんが驚きを隠せないでいる。


「漫画で見た牢屋への通路ってこんな感じなのよね。だから私とアリスちゃんはそう連想してしまったの。」


「うぅ…怖いのがもっと怖くなっちゃいました…」


『なるほどな。確かに牢獄へと繋がる道に酷似しておる。カエデの言う事は間違いでは無いかもな。』


「ノートゥングもそう思うのならやはり可能性は高いわね。」


「いつもの楓さんみたいになってますけど、怖くないんですか?」


淡々と話す私にアリスちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてくる。ウフフ、愚問よ。


「足はガクガクよ。正直歩き出せないわ。」


そんな私の台詞を聞いて美波ちゃんとアリスちゃんはホッとしたような顔をするがノートゥングは深い溜息を吐いていた。


「でも…行くしかありませんよねっ…!!」


「はい…!!」


「ウフフ、そうね…!!」


『妾が先頭で行くだけだろ。』


ーー不満げな顔をしながらもノートゥングが率先して足を踏み出した時だった。







『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!!』








ーー4人が背後を振り返ると、倒したはずのゲシュペンストが甦り、チェンソーのエンジンを蒸していた。


「ど、どうして…!?確かにノートゥングが倒して泥になったはずなのに…!?」


『…妾は確かに急所を突いた。現に憑依が解かれている事を考えても先程の木偶人形は間違い無く倒した。』


「じゃ、じゃあアレは…」


「新手と考えるべきよね。」


『仕方が無い、貴様らは下がっていろ。妾がやる。ミナミ、身体を借りるぞ。』


「うんっ…!!お願いね、ノートゥング!!」


ーーノートゥングが再度美波に憑依し、戦闘態勢に入る。


「さぁて、一気にケリをつけーー」


ーーノートゥングたちの背後、つまりは開けた扉の通路から殺気を感じる。それにいち早くノートゥングが気づき、楓に指示を出す。


「カエデ!!扉を閉めろ!!」


ーーノートゥングの声に楓が反応をする。だがゲシュペンストが再度現れた事による恐怖値の上昇によりいつもよりも明らかに楓の反応速度は遅い。それによりそのモノの大食堂への侵入を許してしまった。


『オマエ…タチ…コロス…』


ーー黒き甲冑を身に纏うフェルトベーベル2体が更に加わる事になる。


「チッ…!!すまん、ミナミが認識したのはゲシュペンスト2体だけだ。だかーー」

「大丈夫よ。」


ーーノートゥングの呼びかけを楓は遮る。


そして腰に携えているゼーゲンを鞘から引き抜く。


「いくら能力値が下げられていてもこれぐらいは出来るわ。あなたはそっちに集中していて。」


「…フッ、任せたぞ。」


ーーノートゥングは振り返る事無くゲシュペンストに相対す。


「万一の時は私が回復します!!」


「お願いね。さ、行くわよ!!」


ーー第二次大食堂攻防戦が始まる。

 

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