第189話 続 大食堂攻防戦

【 楓・美波・アリス 組 2日目 AM 8:45 洋館 東棟 2F 大食堂 】




「マトモに会話が成立するかわからないのだけれど聞いてもいいかしら?」


ーー楓がフェルトベーベルへと話しかける。


「あなたたちと私が監獄で出会ったフェルトベーベルとは会話が成立した。でも”黒の家”周辺の密林で出会ったフェルトベーベルは会話をする事が出来ないようだった。いえ、プレイヤーを捕食したら会話が出来るようになった。これはどういう事かしら?」


『ソレヲ…コタエル…ギム…ナイ…』


「ウフフ、そうね。でもその返答によって捕食する事によって会話が出来る事が裏付けられたわ。それが出来ないなら『何を言ってるかわからない』って答えるだけだものね。貴重な情報ありがとう。」


『オマエ…コロス…ソレデ…オレ…カクセイ…スル…』


「カクセイ…?覚醒の事?」


『コタエル…ギム…ナイ…』


ーーフェルトベーベルたちが剣を引き抜き戦闘態勢に入る。


「いつもみたいな身体のキレは無いけど、あなたたち程度に遅れをとる程では無いわ。かかって来なさい。」


ーーフェルトベーベル2体が銀色のエフェクトを発動させ、楓へと襲い掛かる。

フェルトベーベルは互いに連携を取り左右からの連続攻撃を繰り出す。それを楓は特に焦る様子もなく冷静にフェルトベーベルの剣を捌く。

SSスキル重ねがけ状態のフェルトベーベル2体を相手にしても楓は相当の余裕がある。洋館とゲシュペンストによる恐怖値上昇のデメリットを受けてもまだまだ楓に分がある事は明らかだ。

現状の楓の能力値としては強化系アルティメットをやや下回る程度にまで抑えられている。よって、敵がアルティメット級で無い限りは特段焦る事も無いのだ。

アルティメット級で無い限りはーー


「それで全力なのかしら?」


『ナメル…ナ…』


ーーフェルトベーベル2体が楓に波状攻撃を加える。しかし楓はその攻撃を完全に見切り、もはやゼーゲンで捌く事すらしない。

そして隙が出来た所をゼーゲンで薙ぎ払う。楓のその一撃によりフェルトベーベルたちの黒き甲冑に大きなヒビが入った。


『グガ……!!』


ーーそのダメージが思ったよりも大きいのかフェルトベーベルたちが大きく後退し、片膝を着いてしまう。


「勝負ありのようね。知っている事を素直に話すなら命は取らないわよ?」


ーー慎太郎だけでなく楓にも言える事だが彼女も意外と甘い。男に対しては非情なのだが、命は極力取りたくないと思っている。

だが、性別はおろか、生命体としての種別すら怪しいフェルトベーベルらに対してまでそのような感情を持つのは危険である。


『カカカカカ…!!!』


ーー突如としてフェルトベーベルが笑い出す。その光景に楓は怪訝な顔をする。


『オマエ…ツヨイ…クワナクテモ…”ハズシテ”クレタ…』


「”外す”?一体何を…?」


『カカカカカ…!!!』


ーーフェルトベーベルが再度笑い出すと黒き甲冑に入った大きなヒビが全身へと帯びて行く。そしてそれが全身へ到達した後に黒き甲冑が割れ、そのナカが露わになる。


「…まさに化物ね。」


ーー現れ出たのは全身が焼け爛れたような皮膚をした化物であった。だがヒトとしての原形をとどめており、その異様さが楓に恐怖として伸し掛かる。


『ココカラ…”アレ”にナレるカ…ゲシュペンストに…ナル…か…決ま…ル…』


「ゲシュペンスト?あなたが…フェルトベーベルがゲシュペンストなの?」


『あア…ソウ…ダ…失敗…すれバ…醜イ…ゲシュペンスト…成功…すれバ…誇り高き…”アレ”に…ナル…』


「”アレ”?」


『リッターになれる。』





********************






ーー同時刻、同場所にて剣王ノートゥングとゲシュペンストとの戦いが始まろうとしている。

だが正直この展開はノートゥングにとっては好ましくはなかった。今日二度目のスキル発動もさる事ながら、連戦になればそれだけ相葉美波の身体がダメージを負う事になる。それは避けたかった。結城アリスの《全回復》を使えばダメージを取り除く事は可能だが、現在の時間から考えると好ましくない展開なのは間違い無い。

そして何よりゲシュペンストとの真っ向勝負を今度はしなければならないのがノートゥングにとってネックであった。まともにアルティメット級の2体とやり合えば体力の大幅な消耗は避けられない。悪くてもノーダメージで切り抜け、良くて奥義未使用で戦いを終えたい。それがノートゥングの本心であった。


『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!』


「木偶人形が…何を調子付いておる。妾を誰だと思っておるのだ。跪け虫ケラが。」


ーー対するゲシュペンスト2体はどちらもチェンソー装備のモノだ。慎太郎の例から考えれば厄介な方を相手にしなければならない。それも2体もだ。


『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!!』


ーーゲシュペンストが脈絡も無く襲い掛かって来る。やはり知性のかけらも無い。このモノはただの破壊者だ。

その速度は凄まじく、かなりの距離があったノートゥングに対して一瞬で間を詰めた。

ゲシュペンストが手にしているチェンソーをノートゥングに対し振り回しながら当てて来る。だがノートゥングはそれをゼーゲンの切っ先をチェンソーの刃の腹に当て、軌道を変えてそれを回避する。

しかし回避した先にもう1体のゲシュペンストが回り込み背後からチェンソーを叩き落とす。それをノートゥングは横へ少し大きく飛んで何とか回避に成功した。


ーーだがこの一連の流れはノートゥングにとっては苦しい以外に言葉は無かった。最後の回避行動が美波の身体の負担になった事は間違い無い。それに身体を気にしながらのこの状況は劣勢以外のなにものでもない。


『イヒヒヒヒヒヒヒ…!!!』


「…調子に乗りおって。」


ーー劣勢を感じながらも戦いの熱は増していく。

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