第187話 化物退治
【 慎太郎・牡丹 組 2日目 AM 8:13 洋館 本館 3F 映写室 】
ーー奇声のする方へと向かった慎太郎と牡丹は薄暗い部屋へと辿り着く。
全体的に薄暗い洋館の中で更に薄暗いこの部屋はより一層プレイヤーたちの恐怖を煽っていた。
ーーこの2人を除いては。
「…なぁ、牡丹。」
「…何でしょうか?」
「…この雰囲気さ…ヤバくない?」
「…心臓の鼓動が早くなっております。」
「…だよな?ワクワクしすぎて嬉しくなってきちまったよ!!それに見てくれよ!?俺たちの目の前にいるあのクリーチャー!!」
ーー慎太郎が自身の眼前にいるモノを指差す。
「あのサバイバルホラーの定番クリーチャーみたいな奴が俺たちの目の前にいるんだぜ!?堪らねぇ…堪らねぇよ…!!身体が震えてきちまったぜ!!」
「ふふふ、私も同じ気持ちです。」
ーーこの2人には緊張感のカケラも無かった。
正にテーマパークでデートをしに来たバカップルそのものである。
「ですが…アレは何なんでしょうか?ゲシュペンストともフェルトベーベルとも違います。」
ーー慎太郎たちの前にいるモノは焼け爛れたような皮膚をし、半分身体が溶けかかっているような得体の知れないモノである。
目や口、鼻といったものはあるのかどうかさえ怪しいほど焼け爛れ、溶けかかっている。
「プレイヤーと交戦して大ダメージですって感じでも無さそうだしな。エリアボスにしちゃ弱そうだし。」
ーーその時だった。
『イヒ…イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…!!!!!』
ーークリーチャーが奇声をあげる。その音量は100デシベルを超える騒音レベルのものであった。
あまりのうるささに慎太郎と牡丹は耳を塞ぐ。
「うるせー!!!鼓膜破れちまうだろ!!!」
ーー情報を持たない相手との戦闘において集中というものは非常に大事だ。その集中の中で相手の情報を得、弱点や隙を探す。それが強者のとる行動である。
しかし田辺慎太郎はそれを度々怠る癖がある。それが彼に足りない所だ。それにより窮地に陥った事は相当数ある。
そして今回も彼はそれを怠った。
ーークリーチャーが突如として慎太郎の眼前に現れる。
慎太郎はこのモノを侮っていた。自分よりも格下だと、大した事無いモノだと、そう高を括っていた。
それが自身の命を危機に晒すとも知らずに。
ーークリーチャーが右腕で慎太郎の腹を抉ろうとする。その圧倒的な速度に慎太郎の反応は二歩も三歩も遅れる。回避は間に合わない。当たれば致命傷は免れない。それでも身体が回避出来ない。
だがその刹那、牡丹が慎太郎の襟首を掴み、強引に自分へと引き寄せる。それによりクリーチャーの一撃は空を切る。
慎太郎は牡丹により寸前の所で命を救われた。
「大丈夫ですか!?」
「あっ…ぶね…。ありがとう、牡丹…」
「良かった…お怪我は無いみたいですね…よくもタロウさんを…!!」
ーー慎太郎を攻撃された事により激昂した牡丹が金色のエフェクトを展開させアルティメットを発動させようとする。
ーーが、
「待って、牡丹。」
ーー慎太郎が牡丹を制止する事によりアルティメットの発動が中断される。
「はい…?」
「俺がやる。牡丹は下がっててくれ。」
「大丈夫です。私に任せて下さい。あのモノはタロウさんを殺そうとしました。決して許す事は出来ません。私が始末致します。」
「牡丹。」
「はい、あなたの牡丹です。」
「俺は頼りないか?」
「そのような事あるはずがありません!!」
「なら俺に任せてよ。今は確かに油断しちまったけど名誉挽回のチャンスをくれ。」
「ですが…」
「それにな、この程度の奴を牡丹に倒してもらうわけにはいかないんだ。情けない話だがこっから先、強敵がいる可能性は十二分にある。その時は牡丹に倒してもらわないとしゃーない。ぶっちゃけ牡丹は俺より遥かに強い。俺が5人いても牡丹に絶対勝てないからな。」
「そのような事は…」
「気を遣わなくていいよ。事実俺は弱い。だからさ、俺はザコを蹴散らす係なんだよ。その時まで牡丹の体力は温存しておくしかないんだ。だからそれまでは俺が牡丹を守る。」
「タロウさん…」
「姫、あなたの騎士に少しはカッコいい見せ場を頂けませんか?」
ーー慎太郎が少しカッコつけたように牡丹に振る舞う。
「…ふふふ、姫ですか。とても良い響きです。わかりました。では私の騎士様に格好良い所を見せて頂いてもよろしいですか?」
「オーケー!!特等席で見ていて下さいよ、姫様!!」
ーー慎太郎と牡丹が互いに気持ちを伝え合い、慎太郎は1人、前へ出る。
「ーーごめんな、俺が不甲斐ないせいでお前にザコ処理させないといけなくなっちまって。」
ーー慎太郎は隣に居る騎士へ呟く。
『フッ、シンタロウのせいでは無い。それは我の至らぬ故に起きた事だ。それに…我は主が強い男だと思っておる。何れ、主が皆を先導する者へと成るであろう。こうして眼を閉じればその情景が浮かんで来る。』
「期待値高すぎじゃね!?俺の事を褒めすぎだよバルムンクは。」
『我は世辞は言わん。主の事を信じておるのだ。我の眼に狂いは無い。』
「…その期待に応えられるように鋭意努力致します。」
『フフフ。……では参ろうか。』
「ああ!!」
ーー慎太郎の身体にバルムンクが憑依する。
金色のオーラに包まれながらバルムンクがゼーゲンを鞘から引き抜きクリーチャーと対峙する
「…この化物、何処かで見た事があるな…」
『イヒ…イヒ…』
「先程の一撃から察するに強者なのは言うまでもあるまい。だがシンタロウは貴様を雑魚と判断した。ならばそれが真意。雑魚退治は我の役目。かかってこい化物よ。」
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