第186話 大食堂攻防戦
【 楓・美波・アリス 組 2日目 AM 8:25 洋館 東棟 2F 大食堂 】
ーー大食堂の状況は既に地獄のようであった。
プレイヤーたちの血や臓物、生首などがそこらじゅうに転がり落ち、室内は鉄臭い臭いに包まれていた。
楓たち以外に数名のプレイヤーが交戦しているが情勢は悪い。50体程度のゾルダードと2体のゲシュペンストが大食堂での覇権を握っていた。
ゲシュペンストを倒さない事には大食堂を制圧する事は出来ないが、こちら側には”闘神”及び”五帝”に名を連ねる芹澤楓がいる。制圧する事などは造作も無い事だ。
ーー本来ならば。
『おい!!何をしておるのだ馬鹿者が!!迎え討つぞ!!』
ーーノートゥングが楓たちに対し声を荒げる。しかし、
「わ、わかってるんだけど…身体が動かないのよ…」
ーー相葉美波がそう答える。その顔は真っ青になり、身体は小刻みに震えている。
『何…?』
ーーノートゥングもその異常に気づく。美波の様子は明らかに正常では無い。
「そ、そうなんです…異様に怖くて…身体が…」
ーー結城アリスも同様の答えをノートゥングに伝える。
アリスも美波同様、顔が青ざめ、身体が震えていた。
「いくら何でも心霊現象とは違うなら身体は動くわ…でも…恐怖で動けないの…」
ーー芹澤楓も同様の答えだ。
楓に至っては一番症状が酷い。身体がブルブルと震えている。
『…この部屋自体に何か術式がかけられておるのだな。恐怖値が異常に上がるようになっておるのだろう。チッ…効果的なトラップだな。』
ーーノートゥングの読みは当たっていた。
この洋館内の至る所に恐怖値が上昇するトラップスキルが仕掛けられている。ホラー系が苦手な者で無くても怖いと思うだけで能力値は相当分下げられてしまう。非常に厄介なスキルと言えるだろう。
加えてゲシュペンストと遭遇する事によりその効果は更に上昇する。このコンボを楓たちは喰らってしまい戦闘不能状態に陥ってしまった。
『ミナミ、身体を貸せ。能力値が下げられていてもこの程度なら特に問題は無い。妾が1人で此奴らを蹴散らす。貴様らは隅で大人しくしておれ。』
「ごめんね、ノートゥング…お願い…」
「ごめんなさいね…後は任せます…」
「すみません…お願いします…」
『気にするな。わ、妾たちは、と、友なのだからな…!!』
ーー3人は心の中で思った。『可愛い』と。
ーーノートゥングが美波の身体へと憑依する。
金色のオーラが美波の身体を包み、瞳の色がノートゥングと同じ蒼へと変化する。
「さて、さっさと制圧するか。2日目と現在の時間から考えてもあまり力は使いたくは無い。」
ーー美波のノートゥング使用回数は現段階で3回。これは第二次トート・シュピールの報酬によるスキルアップカードによって増えたからだ。よって今日はまだ2回、使う事が出来る。これは楓とアリスのいる状況から考えればかなり多い回数に感じるかもしれないが実際はそうでも無い。このエリアに配備されたプレイヤーと敵の数から考えても決してゆとりがあるとは言えない。また、それだけの回数を一日で使えば身体への負担が計り知れない。余程の事が無ければ一日2回までにした方が賢明である。それだけ憑依は使用者への負担が大きいのだ。
ノートゥングの発言はそれらを加味しての表現である。
ーープレイヤーを喰らっているゲシュペンストの背後へノートゥングが音も無く移動し、ゼーゲンを軽く振ってその首を刎ねる。そして左の脇腹あたりをゼーゲンで一突きするとゲシュペンストは泥のように崩れ去っていった。
『おい!!生き残っている虫ケラ共!!生きたければ戦え!!ゾルダード程度ならば貴様らでも倒せるだろう!!ゲシュペンストは妾がやる!!立ち上がれ!!!』
ーーノートゥングの激励により生き残っている数名のプレイヤーたちが息を吹き返す。
自分たちがあれだけ手こずっていたゲシュペンストを瞬殺する程の者がいる事により希望が繋がり活力になる。
各々が武器を持ち、再度抗おうと今一度立ち上がった。
ーー別にノートゥングは彼らを助けるつもりなど毛頭無い。ただ彼らを動かす事によって美波の身体への負担を少しでも減らそうとしての行動であった。全ては美波の為、それがノートゥングの思考の全てであった。
ーーノートゥングを筆頭に残ったプレイヤーたち6名がゲシュペンストとゾルダードへ襲い掛かる。
ノートゥングにより闘志を燃やされた彼らを倒す事は到底不可能であった。数分の後に大食堂は制圧され、ノートゥングたちの勝利により大食堂の戦いは幕を下ろした。
********************
「終わったな。」
ーーノートゥングたちの活躍により大食堂が静寂に包まれる。
先刻まで多数の亡骸がここにはあったが、ゲシュペンストの撃破によって解放されたかのようにそれは消えていった。それを見ながら楓たちはどうか安らかに眠ってくれと心に願った。
「そうね。ありがとう、ノートゥング。本当に助かったわ。」
「ありがとうございました!本当に頼りになります!」
「フッ。礼には及ばん。わ、妾たちは友なのだからッ…!!」
可愛いわね。ツンデレは私たちの中にいないからキャラも被らないしバランス取れてるわよね。
「俺たちからも礼を言わせてくれ。」
ーー楓たちの元に生き残ったプレイヤー6名が集まる。
「ありがとう。君がいなければ俺たちは死んでいた。君は命の恩人だ。」
「気にするな。」
「流石は”闘神”の芹澤楓のクランだな。仲間からしてこの強さだ。あの程度の敵など自分が動く必要は無いという事だな。」
ーー男の言葉に楓は微妙な顔をする。
ホラーが嫌いで震えていたとは言えない楓であった。
「このオレヒスは裏切りや騙し合いなどは日常茶飯事だが俺たちは君たちに命を救われた恩がある。君たちとは戦いたく無い。どうだろう?同盟を組めないだろうか?当然だが君たちに頼ろうとする訳では無い。俺たちは別の通路を進む。だがボスに出会った時に共闘出来るように同盟を結びたいんだ。」
ーー楓たちは互いに顔を見合わせる。
私はノートゥングに目をやる。すると、
「カエデ、お前が思う通りに決めろ。シンタロウが居ない今はお前がリーダーだ。」
「そうです!楓さんの決定に従います!」
「みんな…。じゃあ同盟を結びましょう。私たちにも利点があるもの。」
私の決定に2人は頷く。
「ありがとう!じゃあ俺たちはこれで同盟関係だ。先ずは戻ろうか、もう一度洋館の探索を始めないと。」
「戻る?ここは行き止まりだったの?」
「君たちが現れた扉以外にもう一つ扉があるんだが鍵がかかっているんだ。」
「鍵…?」
私の脳裏に浮かんだのは持っているペガサス座の鍵だった。
「俺たちは戻るが君たちはどうする?」
「私たちは大食堂を少し調べてから向かうわ。」
「わかった。ではまた後で会おう。」
ーー6人のプレイヤーたちが大食堂から出て行く。
「正直どこまで信頼できるかはわからないものね。ここで別行動にした方が正解だと思うけど間違って無いかしら?」
「お前の判断は正しいだろう。同じ方向に行っても妾たちが守ってやるハメになるしな。彼方は彼方で探索をしてもらおうではないか。」
「私も正しいと思います。信用出来るのは私たちのクランメンバーだけですから。」
「ありがとう。先ずは鍵を開けられるか調べてみましょう。」
私たちは彼らが去った扉とは別の扉へと向かう。ノブを回してみると確かに鍵がかかっている。私はペガサス座の鍵を取り出し鍵穴へ差し込み、回してみると、
ーーガチャリ
「開いたわね…」
「ここから先はまだ誰も行っていないんでしょうか…?」
「この先に転送されたプレイヤーがいるかもしれないから何とも言えないわね。用心して行きましょう。」
ーー楓たちは扉を開けた。するとそこは、
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