第178話 ほのぼの
土曜の昼下がり、俺たちは電気屋に来ている。牡丹用のパソコンを買う為だ。俺はあんまりパソコンに詳しくないから美波にも来てもらおうとしたら結局全員で来る事となった。
楓さんとアリスは2人でマッサージチェアーのコーナーへと向かって行った。あの2人ってかなり仲良いよな。普段の楓さんなら問題無いけどダメープル化するとアリスの教育上良く無いからそこが困ったもんだよな。
俺たちはパソコンコーナーへとやって来たがオッさんの俺にはぜーんぜんわからん。基本的に国内メーカーで値段高くてカッコいいのしか買わないから何が良いのかなんて俺には全くわからない。美波が呪文みたいな言葉を発して牡丹に説明しているが頭が痛くなって来る。
「ーーて、事だからこれがオススメかなぁ?」
「ですが…お値段が高いですね…他にはございませんか?」
チラリとプライスカードを見ると15万となっていた。確かにお高いな。
「牡丹は美波が勧めてくれたやつをどう思うの?」
「使いやすそうですし、色も赤で私の好みなのは確かです。ですがお値段が…」
「ならそれにしようよ。」
「でも…」
「値段は確かに高いかもしれないけどノートパソコンってそんなもんじゃない?それにケチって安いの買うとかえって高くつく事が多いと思うよ。」
「それはそうですが…申し訳無くて…」
「気に入ったやつを俺は牡丹に使ってもらいたいなぁー。」
俺がわざとらしくそう言うと牡丹と美波が笑い出す。
「では…これでもよろしいですか?」
「おう。んじゃ会計しに行くか。それでメシに行こう。腹ペコペコだよ。」
「そうですねっ!私もお腹空きましたっ!」
俺たちは会計しにレジへと向かう。並んでる時にマッサージチェアーコーナーをチラリと覗くが楓さんとアリスはいなかった。どこ行ったんだ?
「ほい。」
俺は牡丹にノートパソコンの入った袋を渡す。
「本当にありがとうございます。」
牡丹がめっちゃ笑顔で俺にお礼を言う。超可愛い。その顔見れればオッさんは満足だよ。
「家に帰ったら早速ホームページ作ろうねっ!」
「はい、よろしくお願い致します。」
「それじゃメシ行こうか。その前に楓さんとアリスを回収しないと。ドコ行ったんだあの2人。」
俺たちは売場を探して歩くが一向に見つからない。最後に玩具売場を覗くと2人でゲームコーナーの所に陣取っている。
「か、楓さん!?プリガルのゲームもあるんですね!?」
「あるのは知っていたけど対戦格闘ゲームなのよね…私そういうのは不得意だから敬遠していたの。」
「でも!!これをやらなくてプリガルファンは名乗れないんじゃないですか!?」
ーー楓はアリスのその言葉に衝撃を受ける。
確かにその通りだ。苦手だから素通りするなんて何の努力もしない事と同じ。ましてや愛するプリンセスガールズにおいてそのような行動を取るなんてあってはならない事だ。
「…アリスちゃんの言う通りね…私は大切な事を忘れていたわ…プリガルへの愛を!!」
「楓さん!!」
「よし、ハードとセットで買いましょう。」
「あれ?ハードはマンテンドーピタゴラスイッチですよね?それならタロウさんの家にもありますよ?」
「二台あれば2人で特訓できるじゃない。それこそがガチ勢よ!!」
「さ、流石楓さんです!!」
…酒だけじゃなくてプリガルもダメープル化の素だったんだな。
********************
「じゃ、昼メシ行こうか。何か希望ある人いる?」
車内が静まり返る。そんな風に聞いても遠慮して発言はしないか。それなら指定して聞くしかない。助手席にいる美波だ。
「美波、何か食べたいのある?」
「うーん…私優柔不断だから悩んじゃいますね…」
「それならうなぎなんてどうかしら?私がご馳走します。」
「いや、大丈夫ですよ、俺が出しますから。」
流石に女性に払わせるわけにはいかない。それに俺は34なんだ。社会人になったばかりの楓さんには奢ってもらうわけにはいかないぞ。例え黒いカードの所持者だとしてもだ。
なんて事を考えていると真後ろにいる楓さんが小声で俺に耳打ちする。
「…お金使い過ぎですよ。これぐらい私にも協力させて下さい。」
俺の最近の懐事情を知って気遣ってくれてんだな。優しいな楓さん。でも流石にそれは出来ない。やんわりと断ろう。
「…そういうわけにはいきませんよ。」
「…私には頼ってくれないんですか?」
そんな風に言われたら断れないじゃないか。
「…そういう言い方は…」
「…断れないと思ったから言いました。」
くそ…さっきまでダメープルだったくせに…
「…お願いしてもいいですか?」
「…もちろん。」
…くっそ。これがギャップなんだな。
「じゃあ、うなぎにしましょうか!遠慮なんかしないでね。それを口にしたらオシオキするからね。嫌いな人いる?」
「私は大好きですっ!」
「滅多に食べられませんが私も大好きです。」
「私も同じです!」
「じゃあ問題無いわね。行きましょうか、タロウさん。」
「オッケー、じゃ、うなぎ屋にレッツゴー!!」
ーー幸せな日々を皆が過ごす。
5人の心は非常に満たされていた。確かな幸せを彼らは感じていた。
ーーだが、ほのぼのした日常も終焉を迎える。
家路につくと同時に視界が闇に包まれ、慎太郎たちは戦いの舞台へと引きずり込まれる。
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