第171話 プロフェート
【 美波・慎太郎 組 ?日目 ??? 】
ーーゲシュペンストは理解が出来なかった。
なぜ自分は急所を刺されているのか?
なぜ自分の急所がわかったのか?
疑問は尽きない。
ーーそもそも誰が自分の急所を?眼前の男は何もしていない。それどころか自分が圧倒しているのだから何も出来るわけがない。何より気配など感じなかった。
ーーここでゲシュペンストの脳裏に浮かんだのは美波の事だ。このフロアにいるのはあの女しかいない。だが眼前の男よりも格下の女が自分に一撃を加えるなんてありえるはずがない。ましてや急所を一突きする事など。
ーーしかし、もう考えても仕方がない。急所を貫かれた以上、死からは免れない。
ゲシュペンストは自身の命を奪った者の姿を確認しようと振り返る。
『ヤハリ…オマエカ…オマエヲ…アナドッテイタ…』
「私1人の力じゃないわ。ノートゥングが、タロウさんがいたからこそできたのよ。」
『ミゴトダ…イヒ…イヒヒヒヒヒヒヒ…』
ーー奇声をあげてゲシュペンストは泥のように崩れ去っていく。その泥と化した身体はフロアの床の一部となり何事もなかったかのように消え去る。
そしてゲシュペンストのいた場所には古ぼけた宝箱が現れた。
「やった…勝てた…」
ゲシュペンストを倒した事で力の抜けた私はその場に座り込んでしまった。
「美波…!」
タロウさんが私に駆け寄ってくる。
「凄いじゃないか!!美波が急に現れたかと思ったら一撃でチェンソー野郎を倒しちゃうんだもんな!!」
あっ、タロウさんが褒めてくれてる嬉しいな。このイベントで私の正妻力はかなり上がったはずっ…!!
「ふふっ!タロウさんに喜んでもらえたなら良かったですっ!」
「ありがとう、正直勝機を見つけられなかったから助かった。美波がいてくれて良かったよ。」
美波がいてくれて良かった…?つまりは俺の嫁でいてくれて良かったって事だよねっ…!?
『ふむ、見事だったぞミナミ。』
ふと横を見るとノートゥングがしれっと外に出ていた。
「ノートゥング!?出られたの!?」
『ミナミが木偶人形を倒した事により邪符の効果が解けたのだ。頑張ったな。』
「ノートゥングがいてくれたからだよ。ありがとう、ノートゥング。」
私がそう言うとノートゥングは笑ってくれた。本当にありがとう。
「で…どうする?アレ。」
タロウさんが指差す先を見ると怪しげな宝箱がある。先程までゲシュペンストが居た場所だ。そこに宝箱が突如として現れた。
「…怪しいですよね?」
「だよな。でもあそこに特殊装備があったら損なんてもんじゃないしな。…よし、俺が開けるよ。」
「だ、大丈夫でしょうか?」
『大丈夫だろう。最悪手が吹き飛ぶだけだ。』
「大問題だよねそれ!?」
さっさと行けというようなノートゥングのジェスチャーによりタロウさんは宝箱へと向かう。大丈夫かなぁ…?
ーーだがここで問題が起きる。
「あれ?開かないんだけど…」
「鍵…でしょうか…?」
ーーその時だった。2人の心にナニカが語りかけてくる。
『選ばれし者以外は特殊装備を受け取る事が出来ません。相葉美波様、速やかにお受け取り下さい。』
「え…私…?」
「そっか、倒したの美波だから美波じゃないとダメなのか。」
「良いんでしょうか?」
「そりゃあ美波が倒したんだもん当然だよ。」
「じゃ、じゃあ開けますねっ!」
私は恐る恐る宝箱を開けてみる。すると中にはメモ紙のような物が一枚置かれていた。
私は宝箱の中からそれを拾い、裏面も調べて見るが何も書かれていない。
「何でしょうかコレ…?」
「 どう見てもメモ紙だよな…」
するとメモ紙が虹色に輝き出し、小さな粒に分解されていく。そして光の粒が私の中へ入って来る。
「うわっ…!!」
「み、美波!?」
私は手でそれを振り払おうとするがすり抜けて全て身体の中へ入ってしまった。
そしてそれと同時にスマホの通知音が鳴り響く。動揺しながらも私たちはそれを確認する。すると、
『相葉美波様、おめでとうございます。
エリアボスを倒しましたので特殊装備『プロフェート』を付与致しました。相葉様の体内へと強制的に装備する事になりましたが、害はございませんのでご心配なさらぬようお願い致します。
使用方法ですが、スキルを使う時と同様に念じて頂けるだけで結構です。使用時間はイベント、シーン、ともに30秒間となっております。
ますますのご活躍を運営一同祈っておりますのでよろしくお願い致します。』
「制限時間が短いんですね…?そもそもどんな能力なのかも書いてませんね…?」
「楓さんのエンゲルを考えれば強力な事は間違いないだろうな。時間が短い分、より強力なのかも。」
「そうですねっ!これでもっとみんなの為になれるなら嬉しいですっ!」
ーーその時、再度スマホの通知音が鳴り響く。2人は顔を見合わせながらスマホを確認する。
『福井・沢田のクランが敗れました。これにより監獄エリア内の残りクランは3組となりました。現在4日目最終日、AM7:53分となっております。』
「4日目!?ここに入った時は1日目だったんだぞ!?」
『先程までの空間内は時の流れが変わっていた、だからであろう。』
「相変わらずのオレヒスだな。なら危険を冒してここから出る事もないな。ここで籠城してトート・シュピールを終わらせよう。」
「そうですねっ!」
「じゃあ試しに美波のそのプロフェートってやつ使ってみない?能力知っておいた方がいいと思うんだよね。」
確かにそうだ。残りの時間から考えれば誰かが襲って来る事もないだろうし襲って来てもノートゥングとバルムンクで勝負をつけられる。それならここでプロフェートが何なのかを調べてみるべきだ。
「わかりましたっ。じゃあ…使ってみます!」
ーー美波がプロフェートを使おうとすると瞳が金色に光出す。美波は無意識的に慎太郎を見る。すると慎太郎がノートゥングに頭を小突かれている。何をしているのかわからない美波はプロフェートの使用を中断する。すると眼前に居たはずのノートゥングが自身の傍へと移動していた。
「あ、あれ?いつの間にノートゥングは移動したの?」
『移動?妾はここから動いておらぬぞ?』
「え、えっ!?うそ…だって今確かにノートゥングがタロウさんを叩いてたのに…」
「俺を?ノートゥングの奴が俺を殴りすぎるから美波のトラウマになっちゃったんじゃないか?ホント自重しろよ。」
『あ?貴様『奴』と言ったか?妾の事を『奴』と呼んだな。』
「あ…いや…違うですよ…私は女王陛下に逆らう気は無いでございますよ…」
『豚には躾が必要だな。いや、褒美か。喜べ豚。』
そう言いながらノートゥングがタロウさんを叩き始める。
「痛い痛い!!ホントにやめてくれって!!」
『何だその態度は。』
またイチャイチャしてる…。ん?あ、これさっき見たやつだ。
「これですっ!!このやり取りですよっ!!」
『は?』
「え?」
「プロフェートを使った時に見えた風景はこれだったんですっ!!」
「どういう事?」
『なるほどな。その特殊装備は先を視る事が出来るのであろう。』
「先って…《予知》のスキルみたいな事?」
『似てはいるがそれとは根本的に違うだろう。《予知》は断片的な未来を視る事が出来る。だがプロフェートは美波が見た者に直近で起こるであろう事を視る事が出来るのだと思う。』
「何それ超スゲーじゃん。美波のアシスト力極大アップじゃん。」
『強力なだけに使用時間が短いから使い所を見極めないといかんな。』
確かにすごい能力だ。なんか今回は私のパワーアップイベントって感じだったよねっ!やっぱり正妻としての実力を備える為にテコ入れをしたんだよねっ!!
ーー美波が若干暴走していると周囲が闇に包まれ始めた。
「リザルトか…楓さんたちは大丈夫かな?」
「当然ですよっ!牡丹ちゃんもいるんですからっ!」
「そうだね。じゃあ早くみんなと合流して祝勝会だな。」
「はいっ!」
こうして私の正妻力上昇イベントは幕を閉じるのであった。
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