第170話 特訓がんばりますっ!

【 美波・慎太郎 組 ?日目 ???? 】



「わ、私が…?スキルも使えない私が一体どうやって…?」


ノートゥングから勝つ為の手があるとは言われたがまさか私が倒すだなんて思わなかった。タロウさんよりも遥かに劣った実力なのにどうやってあの化け物を倒せるのだろうか。私には全く勝利への道筋が見えない。


『あの木偶人形は決して不死身などでは無い、再生力が並外れておるだけだ。当然殺す事は出来る。そして奴にも急所はあるという事だ。』


「急所!?あるの!?」


『ああ。お前にはその急所を突いてもらう。それが唯一の勝機だ。』


…急所があるのなら確かに勝ち目はある。問題なのは私が急所を突けるのかどうかだ。アルティメット級であるゲシュペンストがSS級相当である私を間合いに入れてくれるとは到底思えない。


「で、でも私がゲシュペンストの間合いに入れるの?」


『無理だな。』


即答であった。ならどうしてそんな提案して来たのよ…


『そんな顔をするな、策も無しに妾がそんな事を言うと思っておるのか?今のままのミナミでは無理だと言う意味だ。妾が鍛えてやる。』


「き、鍛えるって…!?時間なんて無いのよっ!?」


そう、こうして話している間もタロウさんは必死に戦ってくれている。そして動けば動くだけタロウさんの体力が削られ死へと近づいて行く。時間的余裕は無いのだ。


『案ずるな。妾が教えるのは呼吸を読む方法だ。』


「呼吸…?」


『戦いにおいて相手の呼吸を読む事は大事だ。呼吸を読む事によって気配を消したり、攻撃の察知、隙を見つけたり出来る。基本でもあるが極意でもある、それだけ重要な事なのだ。』


「そんな重要な事を短時間で身につけられるの…?」


楓さんや牡丹ちゃんならできるだろうが、武術経験がある訳でも無い私にそんな芸当ができるとはとても思えない。不安は募るばかりだ。


『妾は無理な事はしない。ミナミなら出来ると思ったから言ったまでだ。』


そう言うノートゥングの目には曇りなど一点も無かった。私ならできる、そう確信した目だった。


「…わかった、やってみる。ううん、やるしかないものっ!私しかタロウさんを助けられないならやるしかないっ!」


『フッ、その意気だ。さて、始めるか。ミナミ、誑しへ襲い掛かる木偶人形の動きを観察しろ。』


「はいっ!」


ノートゥングに言われた通りにゲシュペンストの動きを観察する。だがやはりアルティメット級の速度はすさまじく目で追うのが精一杯だ。とてもじゃないけど隙なんて見当たらない。


『どうだ?』


「…速すぎて何もわからない。」


『当たり前だ。お前は動きを見ているだけだ。妾は呼吸を読めといったのだ。考え方を変えろ。ミナミ、お前は『てにす』の『しあい』の時に相手とどのように戦う?』


「どのようにって…それは相手の呼吸を…あ!」


『わかったか?原理は同じだ。アレと同じように木偶人形の呼吸を読んでみろ。』


やっぱりノートゥングはすごい。アドバイスが的確だし、わかりやすい。

私はノートゥングのアドバイス通りにテニスの試合のようにゲシュペンストの呼吸を読んでみた。するとほんの僅かだがゲシュペンストの動きを察知する事ができた。


「今…わかった。ゲシュペンストの動きがわかったよ。ほんの僅かだったけど確かにわかった。」


だがこの程度の事では到底ゲシュペンストの急所を突くなんてできない。それに動きが多少わかったぐらいでは回避に至る事すら怪しい。


「でも…これぐらいじゃーー」

『ーーよし、第一段階はクリアだな。次に移行する。』


「次…?」


『それだけで奴を倒せるなどとは思っておらん。感覚を掴ませただけだ。』


「そ、そうだよねっ…!」


『では次は心を無にしてみろ。心を無にして気配を消し、相手に動きを読ませないようにする、それをやってみよ。』


「…そんな達人みたいな事できるわけないでしょ。」


『妾の言う通りにやってみよ。先ずは心を空にしろ。何も考えずに自分を空から眺めているような気持ちになれ。』


「空から…?」


私はノートゥングに言われるままにやってみた。すると不思議な事に魂だけが身体から抜け出るような奇妙な感覚に襲われる。

見ている世界は確かに私の身体からだけど、空から見てるようななんとも言えない不思議な状態だ。


『ふむ、出来たようだな。これでミナミの気配はこの場から完全に消えてある。この感覚を忘れるな。』


「わかった。」


『仕上げだ。その感覚から目を瞑り木偶人形を視てみろ。目で見るのでなく心で視るのだ。』


「心…」


目を瞑りゲシュペンストを視る。すると赤い光のようなものが一点だけ確かに視える。


それを確信したと同時にーー

『ーーやれ。』


ーーノートゥングが私の背中を押す。


その声に私は無意識で反応し、ゼーゲンを抜いてゲシュペンストの急所を刺していた。

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