第165話 今こそ正妻力を見せる時ですっ!

【 美波・慎太郎 組 1日目 PM 7:53 】



看守室を後にした私たちは軽快な足取りで通路を突き進む。しばらく歩くと正面から風が来るのを感じる。


「…どうして風が来るんでしょうか?」


「中庭でもあるのかな?」


…中庭。弟がやってたホラーゲームにそんな場所あったよね。うぅ…嫌だなぁ…

そう思っているとタロウさんが私の手を握ってくれた。


「た、た、た、タロウさんっ!?」


「美波もしかして怖いの苦手?さっきから様子変だからさ。ごめんね、気づかなくて。こんな事で和らぐかわかんないけど人肌感じられると安心するかなーって思って。」


…ズルいなぁ。


「…恋人繋ぎがいいです。」


「え?恋人繋ぎ?…ごめん、どんなやつ?」


「…こういうのです。」


私はタロウさんの手を取って恋人繋ぎに組み替えた。


「これが恋人繋ぎっていうのか、知らなかった。」


「…誰かとした事ありますか?」


「いやー、ないなぁ。」


よしっ!!私が初めて!!

視線を感じるので横にいるノートゥングの方を向く。するとノートゥングが手を胸の所まで持って来て拳を握り『やったな』と言ってるような素振りを見せる。


「じゃあ行こうか。クリーチャーが現れても俺が守るから。」


「はいっ!」


通路を再度突き進むと半壊してるような場所へ出る。天井から何から全てが根こそぎ吹き飛ばされ夜空の月が綺麗に照らされていた。


「戦闘の跡かな…?」


あ…なんかデジャブ…


「これ…絶対楓さんだと思います。この前の強制参加イベントの時に同じように吹っ飛ばしてましたから。」


「ホラー的要素じゃなかったって事か。お、ここから地下に通じてるのかな?」


瓦礫の下に地下へ通じてると思われる階段を発見した。暗いから何も見えないが先程まで同様に進めば明かりが灯るシステムになっているのかな?


『ククク、監獄の地下か。拷問により死に至った怨霊がおるかも知れぬな。』


「何それ、超楽しそう。」


そんなのいたら美波は昇天します。


「さて、それじゃあこっからが本番戦だな。地下1階は何もいないかもしれないが2階には間違いなくボスがいる。気合い入れていこう。」


「はいっ!」


『ああ。』


私たちは階段を降りて行く。程なくして地下1階に降り立つとえぐり取られた一室に到達した。探索をして見たが他には特に変わったものも見つからないので私たちは対面側にある扉を開けて部屋を後にした。

扉を開けた先は地上1階同様の薄気味悪い長い通路たった。歩く度に両側に設置されている蝋燭に火が灯り通路を照らす。決して明るいわけではないので通路の先の様子は伺えないのがより一層恐怖を引き立てる。

少し歩くと前方に扉らしきものが見える。見た限りでは何の変哲もない木製の扉だ。


「開けたらゾンビ出てくるかな?」


「こ、怖い事言わないで下さいよっ!!もうっ!!」


「あはは、ごめんごめん。じゃ、サクッと開けちゃいますか。ーーって、あれ…?どうしよう、鍵かかってんだけど…」


「えっ?あ、本当だ…」


ノブを回すが扉は開かない。良く見ると鍵穴が付いている。鍵が無いと先に進めないんだ。


「困ったな…鍵なんてドコにあるんだ?」


「来た道のドコかにあったんでしょうか…?それともエリアのドコかにあるとか…?」


「後者だとスゲー大変なんだけど。どうするかな…」


ーーその時だった。

後ろにいたノートゥングが扉を蹴り飛ばす。その威力により木製の扉は粉々に砕け散った。


『こうすれば手っ取り早いだろう。』


「…どんな威力してんだよ。てか触れられるんだ!?」


『あいすくりぃむ等が触れられるのだからいけると思ってな。恐らく生物に対してはミナミの力が無いとダメージを与えられないのだろう。』


「その理屈で言うと俺は生物じゃないって事になんですけど。」


「でもこれで先に進めますねっ!」


「そうだな。じゃあ俺が先頭歩くから美波は後ろね。ノートゥングは殿をよろしく。」


「はいっ!」


『ああ。』


だが壊れた扉の先を見ると少し拍子抜けしてしまった。部屋になっているのかと思ったら更に地下へ続く階段があったのだ。

私たちはあまり理解できない設計の階段を降りて地下2階層へと進む。するとその先はずいぶん広い大部屋へと繋がっていた。


「部屋…だよな?今度は扉も無いし行き止まりか?」


「みたいですよね…?」


道を間違えたのだろうか?でも一本道だから間違えようも無いのだけれど…


ーーここで事態は動く。


ーー美波と慎太郎が室内に入った瞬間に黒い魔法陣が床に出現する。


『しまった…!!ミナーー』

ーーノートゥングの身体が美波たちの前から消える。


「の、ノートゥング!?」


ーーそして部屋の奥にも黒い魔法陣が現れ、そこから仮面をつけた異形のモノが現れる。そう、ジェイソンのような仮面を付けた異形のモノが。


「うわぁ…トラウマなんですけど…」


『イヒヒヒヒ…!!!』


ーー仮面を付けた異形のモノが奇声をあげながらチェンソーのエンジンを吹かし始める。


「ゲシュペンスト…!?」


「え?知ってんの?」


「この前の強制参加イベントの時、私たちのスマホにタロウさんが戦ってる動画と通知が来たんです。それにはアレがゲシュペンストって書かれていました。」


「えっ!?美波たち俺が戦ってたの見てたの!?」


「あ、はい。」


「…そっか。」


どうしたのだろう?タロウさんがバツの悪そうな顔をしている。


「いや…今は集中だ。ノートゥングが消えた理由はこの黒い魔法陣が原因だろ。て事はスキルが使えないって事だろうな。」


「そうですよね…」


「これはかなりのハードモードになるな…」


「がんばりましょう!!私とタロウさんなら

絶対やれますっ!!」


私だって強くなったんだから大丈夫だよっ!!タロウさんとの初の共同作業!!今こそ正妻力を見せる時よ美波!!


「おっしゃ!!んじゃやりますか!!」


ーー美波サイドでも状況が大きく動き出した。

アルティメット級のゲシュペンストを相手にする美波と慎太郎。

リッターオルデンの夜ノ森葵と交戦中の楓。

両サイドでの熾烈を極めた戦いが繰り広げられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る