第164話 怖いのは嫌いですっ!

【 美波・慎太郎 組 1日目 PM 6:17 】



私の1人での初勝利からずいぶんと時間が経ったが未だに”監獄”らしき所は見当たらない。延々と樹海をただ彷徨っているだけだ。

それと不思議な事に他のプレイヤーとはあれ以降遭遇していない。それどころか他のプレイヤーが撃破したという通知も来ていないのだ。最低でもあと4組減らないと全員が死亡となってしまうのに動きが無いのが不気味だ。虎視眈々と機会を伺っているのだろうか。

でも仮にそうだったとしても私とタロウさんがいれば大丈夫だよねっ!


「もう陽が暮れ始めて来たな。ただでさえ森の中で暗いんだからそろそろ動くのはやめた方がいいかもな。」


「そうですね。以前の時と違って洞窟も無いですしどうしましょうか?」


「木の下で明るくなるまでじっとしてるしかないかな。長い時間俺と一緒にくっつかっている事になるけど大丈ーー」

「何の問題もありません!!」


「あ、はい。」


一晩中タロウさんとベタベタしてられるなんて最高のご褒美じゃないかな!?近くにいれば匂いも嗅ぎ放題だしっ!!今日はすごく良い日だなぁ。美波の日って感じだよねっ!早くタロウさんとくっついてイチャイチャしたいっ!!


ーーだがここでノートゥングが美波の願望をぶち破る発言をする。


『おい誑し、監獄とやらはアレではないか?』


「ん?あー…アレは怪しいな。」


2人が見ている方を私も見る。すると木々の隙間から遺跡のような建物が見えている。距離があるのでハッキリとは言えないが怪しいのは確かだ。

…絶対今から探索する流れになるよね。タロウさん成分補給したかったのにっ!!クンスカしたかったのにっ!!


「とりあえず行って見るか。」


『そうだな。』


…やっぱり。ノートゥングは私の味方じゃないかな?自分ばっかりイチャイチャしちゃってさ。

ーー美波が若干の不満を抱えながらも一行は遺跡へと近づいて行く。


「相当古い建物だな…苔も生えてるし。」


「本当ですね…映画とかに出て来そう…」


タロウさんと一緒に外壁を調べているとノートゥングが何かを発見した。


『おい、来てみろ。入口だ。』


タロウさんと共にノートゥングの所へ向かう。すると内部へと続く通路がある。扉があるわけではない入口だから閉じ込められる心配はなさそうだ。でも…中からは異様な気配が漏れ出ている。中へ入るなと警告しているように思えてしまう。正直怖い…


『よし、入るか。』


「だな。」


やっぱり入るんですよねっ…大丈夫かな…お化けとか出て来たりしないかな…?


ーー美波の心配をよそに慎太郎とノートゥングはズンズン進んで行く。その後ろを美波がビクビクしながらついて行く。


私たちが一歩踏み入れる毎に、壁に設置されている蝋燭のような物に明かりが灯る。決して明るいとは言えない光度だが、確かに明かりだ。一体どんな仕掛けになっているんだろう。

そのまま一本道を進んで行くとドアのようなものが見えてきた。よく見ると左側にはまだ道が続いている。このドアはスルーしたい。開けたら何か居そうな気がして仕方ない。もし何か出て来たら心臓が止まる自信がある。


「この部屋めっちゃ怪しいな。」


『監獄ならば看守がおるはずだ。この部屋におるかもしれんな。』


「こういう所にいる奴って結構ヤバかったりするのが定番だよな。」


『ヤバい?』


「ホラー映画とかホラーゲームだとゾンビとかクリーチャー、幽霊とかが出てくるんだよ。」


『ほう!それは面白そうではないか!』


「お!ノートゥングもそーゆーのイケる口か?」


『ククク、妾は怖い話は好物だ。正直ここに入ってから胸が高鳴っておる。』


「いいねぇ、俺もホラー大好きっ子だからワクワクが止まらねぇよ!」


私を置き去りにして何を言ってるのかなこの2人は…私はホラーが大嫌いなんですっ!!


『よし、さっさと入ろう。妾はもう我慢できん。』


私もここから出たくて我慢できないわよ。


「ああ!行こうぜエデンへ!!」


私はエデンに行く前に死にそうです。


ーービクビクする美波を完全に置き去りにして慎太郎とノートゥングが扉を勢い良く開ける。するとそこにはーー


『なんだ、何もおらんではないか。』


「なんだよ、つまんねーな。」


つまらなくありませんよっ!何もいなくて心から安堵しましたよっ!!


『あるのは机だけか。』


「机開けたら入口のドアが開いてゾンビ出て来たりしないかな?」


『ほう!それは面白いな!』


面白くないわよっ!!馬鹿じゃないのっ!?


「た、タロウさん!?無理に開けなくてもいいんじゃないですかっ!?」


私は一縷の望みをかけてタロウさんに懇願してみた。

しかしーー


「美波、そこに机があるなら開けてみるしかない。それが人類の真理だ。」


『ふむ、確かに。』


…ダメだった。2人して訳のわからない事を言ってる。ていうかこの2人相性良すぎじゃないかな…?なんかムカムカするなぁ。


ーーそんな美波をよそに2人が目をキラキラさせながら机を開ける。だがーー


「…空か。」


『チッ、つまらん。』


はぁー…よかったぁ…何事も無くて本当によかったぁ…


「あ!わかった!これ楓さんが攻略した続きになってんじゃないか?きっと机から鍵でも取って先に進んだんだよ。」


「そうかもしれませんねっ!だから空なんですよっ!」


それならきっと心霊現象的な事は起こらないわねっ。ふーっ、一安心。


「そんじゃガンガン先に進むか。地下2階までは楓さんが攻略してんだし何もいないだろ。そこからなら…出るかもしれないな?」


『ああ、間違いない。早く行くぞ。』


うぅ…そういう事になるのかぁ…嫌だなぁ…


ーー美波たち一行は看守室を後にした。

だが美波たちはまだ知らない。地下2階層で待ち受けているモノの事を。

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