第156話 インターミッション

トート・シュピール開戦まで10分を切った。

俺たちはマイページにあるソファーに座り、その時を待っていた。

実を言うとここには30分前から入っていたのだがさっきまでは大変だった。なぜかワインセラーの他に冷暗所までできていてそこにあるブランデーだかなんだかを見て興奮してる楓さんを宥めるのが大変だったのだ。




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【30分前】



『リシャールがあるじゃない!?こんな高級なお酒がどうしてここに!?こっちにはルイ13世まで!?』


『何やってんですか楓さん。作戦会議始めますよ。』

『それどころじゃないですよタロウさん!!リシャールとルイ13世があるんですよ!?』


知らんがな。そもそもルイ13世って何?フランスの王様?あ、でもリシャールは知ってるぞ。よくホストクラブとかでリシャール頂きましたー!とかやってるやつだよな。

…まさかホストクラブなんか行ってないよな?


『そんな事言ったって知りませんよ。ほら、始めますよ。』



ーー


『楓さんって本当にお酒がお好きなんですね?』


『この前もあそこにあるワインセラーを見て興奮してたのよ。私はお酒って飲まないからよくわからないけど…』


『楓さんが言ってました。漫画とアニメとお酒は命だって。』


『楓さんて漫画が好きなんですね。もしかしてアリスちゃんが最近読んでる漫画って楓さんのですか?』


『はい!プリンセスガールズっていう漫画です!凄く面白いんですよ!』


『あ、ひょっとして家にあるブルーレイのアニメもかな?』


『そうです!あれはアニメ版のプリンセスガールズです!』


『へー、結構意外だなぁ。楓さんって難しい本とか読んでるイメージあったから。』


『同感です。』


『2人も見てみませんか?凄く感動しますよ!』


『それじゃあ私も見てみようかな。』


『私は本は好きですがあまり漫画は読んだ事がないもので…それでも大丈夫でしょうか?』


『大丈夫です!プリガルはきっと牡丹さんの心に感動を与えてくれます!』


『ならば私も読んで見ましょう。ふふふ、楽しみですね。』



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『ああっ!?』


『え!?なに!?』


『キュヴェ!!キュヴェ5.150がある!?』


『何ですかそれ?』


『知らないんですか!?』


そんな某ロボットアニメに出て来そうな機体みたいな酒、知らねーっすよ。


『このお酒は世界で1492本しか無いんです!!物凄く貴重なお酒なんですよ!!』


『あ、はい。』


…この人酒が絡むと人が変わるよな。本当にアル中じゃないだろうな。本当に禁酒にしないといけないかもな。


『…タロウさん。』


『何ですか?』


『…試飲したいです。』


『…はい?』


『これ…飲みたいです。』


『な、何言ってんですか!?今からイベントやるんですよ!?』


『でも…私、飲みたいんです!お願いします…!私に下さい…!飲ませて下さい…!』


…言い方。エロいんだって。週末マジでお城に連れてくからな。


『そんな事言ったって…酔ったらどうするんですか…』


『あ、それなら平気です。こんなの少し飲んでも酔いません。』


ドヤ顔してる楓さん可愛い。やっぱ押し倒したいーーなんて事を考えてると牡丹からの殺気が背中に突き刺さるように感じる。後ろを向かなくてもわかる。間違いなく牡丹が殺気を出している。それにヤンデレモードに入ってるのも手に取るようにわかる。牡丹がいる時には他の子でエロい妄想するのやめよ。


『でもな…』


『お願い…』


上目遣いとかダメだって…!そんな事されたらもう我慢できーーるよ。大丈夫!全然ムラムラなんてしてないから!!だから剪定バサミしまおうね!?鞘から出す音聴こえたし、その音覚えちゃったからさ!?てか何でここにあるの!?牡丹の標準装備なの!?


『やっぱダメです。』


『そ、そんなぁ!?酷いです!!』


『だって今からイベントなんだから普通ダメでしょ。』


『…そうやって私をイジメるのが趣味なんだ。』


『イジメるだなんて人聞き悪い。』


『だってそうじゃないですか!!』


『…はぁ。じゃあ明日ウチに来た時に飲むの付き合いますよ。それでどうですか?』


『……それは一缶だけですか?』


『…明日だけは飲み放題でいいですよ。』


『…!!じゃあタロウさんはどれぐらい飲んで付き合ってくれるんですか!?』


『…とことん付き合いますよ。それなら今飲むの我慢してくれますか?』


『します。我慢します。キュヴェなんて要りません。知りません。』


『…んじゃ、作戦会議始めますよ。』



ーー



ーー



ーー




てな事があってイベント前から疲れてしまった。変な約束しちゃったし。俺は酒弱いから嫌なんだよなぁ。昔酔って記憶失くしたら、なぜか友達がドン引きしてた事あったし。不安だなぁ。


「時間無くなっちゃったけど簡単に作戦考えとくか。」


「そうですねっ!でも牡丹ちゃんが入ってくれたから3人チームにもなれるから心強いですよねっ!」


「そうだな。牡丹が入ってくれて本当に嬉しいよ。」


「そう仰って頂けるのなら光栄です。全力で頑張ります。」


「基本的にどんな組み分けされても戦力的には問題無いけど2人組の方は慎重にいくようにしよう。」


「そうですね。昨日の運営からの通知で今回からは敗北したプレイヤーの情報が送られて来るとの事。そして5組以下にならないと全員死亡という条件なら動きが活発になるわ。2人組の方は極力動かないようにしましょう。私たちの弱点としてはスキルの使用回数が少ない事と奴隷がいない事。他のプレイヤーの多数は奴隷を持つ事でスキルの使用回数を抑えられているわ。私たちは弾切れが早い、数が減るまでは動かないようにしましょう。」


「わかりました。3人組の方はどうするんですか?私が3人組の方に入れば《回数回復》と《全回復》で身体への負担も無くせますが。」


「アリスちゃんが3人組の方に入って、私か牡丹ちゃんがいれば初日でゴリ押しして終わらせてもいいんじゃないかしら?」


「そうですね。状況を見て、終わらせられそうなら終わらせてしまいましょう。」


良く考えたらスゲー会話だな。チートキャラがいるからこそできる会話だろこれ。てか思ったけど俺が2人組の方に行ったら迷惑じゃね?楓さんと牡丹の人外っぷりは言うまでも無い。美波は半分”具現”できてるから恐らく2人に次ぐ高火力。アリスは一撃必殺の魔法が2発。

俺…やっぱ役立たずじゃん…むしろ俺とアリスが組んだら時間ギリギリまでの持久戦確定じゃん。

…やばい。強くならないといずれは追い出されるんじゃないか…?蘇我みたいな奴が現れたこんな感じになったりしないだろうな。



ーー



ーー




【慎太郎's妄想ストーリー】



『タロウさん。お話があるんです。』


美波、楓、アリス、牡丹が慎太郎の前に集まる。

『え?みんなしてどうしたの?』


『クランから抜けてくれませんか?』


美波がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『え?み、美波!?なんでそんな事を!?』


『だって使えないんですもん。』


『そんな…!?か、楓さん!?』


『抜けて下さい。抜けないなら訴えます。』


楓がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『訴えるってドコに!?あ、アリス!!』


『消えて下さい。むしろ私の保護者ももう結構です。』


アリスがゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『なんでそんな事を言うんだよ…!?ぼ、牡丹!!牡丹ならそんな事言わないよな?』


『ふぅ…鬱陶しいですね。空気も読めないとか…』


牡丹がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『そんな…!!牡丹まで…!!』


『ガタガタうるせぇな。』


4人の後ろから顔の整った男が現れる。


『お、お前は蘇我!?なんでお前が!?』


『夢幻くん!!待っててって言ったじゃないですかっ!!』


『フッ、美波のその可憐な声が聞きたくてな。』


美波が蘇我に近づいて腕に抱きつく。


『あ!美波!何でそんな奴にくっついてるんだ!!』


『何でって…カレシだからですけど?』


『か、彼氏!?えっ!?美波って俺の事好きなんじゃなかったっけ!?』


『あぁ…そういえばそんな事ありましたね。でもタロウさんの事はもう何とも思ってません。頼りないし、ブサイクだし。何より加齢臭がキツいし。このオッさんが。』


美波がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『加齢臭は…しょうがねぇじゃねぇかよッ…!!』


美波の言霊により慎太郎は片膝を着く。

だが追い打ちをかけるように楓が蘇我のもう片方の腕に抱きつく。


『もう!夢幻くんはどうして待てないの?』


『フッ、楓の美しい顔が早く見たくてな。』


『か、楓だと!?俺だってまだそんな風に呼んでないのに!?』


憤る慎太郎をよそに楓がより一層蘇我に身体を密着させる。


『どうしてあなたにそんな風に呼ばれないといけないんですか?汚らわしい。』


『だ、だって、楓さんって俺の事好きですよね!?』


『一時の気の迷いです。弱いし、馬鹿だし、ブサイクだし。それなのに私を押し倒して何をするつもりだったんですか?この変態が。』


楓がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『だって…あの状況なら勘違いするじゃねぇかよッ…!!』


楓の言霊により慎太郎は片膝を着く。

だが追い打ちをかけるようにアリスが蘇我に抱きつく。


『夢幻さん!ちゃんと待ってないとダメじゃないですか!』


『フッ、早くアリスの綺麗な髪を撫でたくてな。』


アリスが蘇我に抱きつきながら頭を撫でられ至福の笑みを浮かべる。


『な、何してんだこのロリコン野郎!!アリスから離れろ!!』


憤る慎太郎に対してアリスが振り向く。


『ロリコンはあなたでしょう。気持ち悪い。』


『そ、そんなぁ…何でそんな事を…!アリスは俺が好きなんだろ?』


『幻に包まれていたんです。弱いし、臭いし、ブサイクなあなたを好きになるわけありません。私が中学生になったらナニをするつもりだったんですか?このロリコンが。』


アリスがゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『だって…アリスが告白したからじゃねぇかよ…別にナニもしねえよッ…!!』


アリスの言霊により慎太郎は片膝を着く。

だが追い打ちをかけるように牡丹が蘇我に抱きつく。


『夢幻さん、待てなかったのですか?』


『フッ、絢爛豪華に咲き誇る牡丹の花の匂いに誘われてな。』


『何キザったらしい台詞言ってんだお前!!この中二野郎が!!』


憤る慎太郎に対して牡丹が振り向く。


『加齢臭がキツいと思ったらあなただったのですね。まだいたのですか?』


『酷い事言うなよ…!牡丹は俺の事好きなんだろ?』


『心が弱っていたからです。それなのにそんな私をどうするおつもりだったのですか?50年分私にご奉仕させるおつもりだったのですよね?この性欲の塊が。』


牡丹がゴミを見るような目で慎太郎にそう告げる。


『だって…少しはエッチな妄想しちゃうじゃねぇかよッ…!!』


牡丹の言霊により慎太郎は両膝を着く。完全に膝から崩れ落ちてもはや慎太郎に戦う力は残っていない。


『フン、わかったかオッさん。コイツらは俺のモンだ。わかったらとっとと失せろ。このゴミ野郎が。』



ーー



ーー




…みたいな事になったらどないしよ。ワイは…ワイはどないすればええんや…


「…急に項垂れてしまいましたがどうかされたのでしょうか?」


「…きっとタロウさんはイベントの戦略を練ってるんだよっ!」


「…流石です!」


「…ウフフ、そうね。タロウさんがリーダーで本当に良かったわ。」




ーー慎太郎が馬鹿な妄想をしている間にイベント開始まで1分を切ってしまった。



「とにかくみんなで乗り切ろう!以上!」


「はいっ!」

「ええ!」

「はい!」

「心得ました。」


アホな妄想してたらこんな時間になっちまったよクソ。だいたいからして俺の天使たちがそんな事言うわけないだろ。集中しろ!絶対みんなで帰って来るんだ!!


恒例の円陣を組み、俺は右手を前に出す。


「みんなで必ず帰って来るぞ。」


それと同時に光速の速さで牡丹が俺の手の甲に手を乗せる。


「ふふふ、もちろんです。」


すかさず楓さんが俺の手の平に手を重ねる。


「ええ、帰って飲み会をしないと。」


2人から一歩遅れて美波が俺の手首を掴む。


「恒例の祝勝会ですねっ!」


場所が無くなったアリスは俺の二の腕を掴む。


「楽しみです!」


「…円陣じゃねぇなコレ。」



ーー時間になり転送が始まる。



ーー第二次トート・シュピールが開戦する。

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