第157話 第二次トート・シュピール開戦
「ここは…?」
転送された先は近未来的な都市だった。現代よりも明らかに二歩先を進むような科学力によって彩られた街が眼前に広がっていた。
「アリスちゃん。」
近未来的な光景に魅入られていると後ろから呼ばれたので振り返る。するとそこには牡丹さんがいた。
「牡丹さん!」
私は牡丹さんの元へ駆け寄る。
「今までこんなエリアに転送された事はなかったのでぼーっとしてしまいました。」
「私もこのようなエリアは初めてです。現代とはかけ離れている分、何が起こるかわからないですね。」
「ここに転送されたのは私たちだけでしょうか…?」
私は周囲を見渡すが他に誰かいるような気配は伺えない。私と牡丹さんのペアという事だ。強い牡丹さんと一緒なら心強いがタロウさんがいない事に少しガッカリした事は内緒だ。
「いえ、上に楓さんがいます。」
「えっ?」
牡丹さんが上を見ながらそう言うので私も視線を合わせる。すると上空から急下降して天使の羽を身につけた楓さんが地上へと降り立って来た。
「どうでしたか?」
「障害物が多すぎてはっきりとした事は言えないわね。ただ、相当広大な土地なのは確かよ。見える範囲全てが非現実的な建物になっているから。少なくとも50kmぐらいはあるわね。」
「そうですか、あまり広いと3日で探し出すのは面倒ですね。」
私がぼーっとしてる間に2人はもう動き出していたんだ。私もしっかり集中しないといけない。みんなの力にならなくちゃ。
「すみません…私だけ何もせずにぼーっとしてて…」
「そんな事は気にしないでいいのよアリスちゃん。私たちは仲間でしょ?私はエンゲルがあるから上から偵察をしてたの。牡丹ちゃんには下を見ててもらった。アリスちゃんだって下の様子を見ていたでしょ?みんなで調査していたのよ。ね、牡丹ちゃん。」
「はい。だからアリスちゃんが気にする事は無いんですよ?」
「でも…それじゃ2人に甘えてるだけじゃ…」
「ふふふ、いいじゃないですか。」
「え…?」
「私たちはアリスちゃんのお姉さんです。少なくとも私はアリスちゃんを妹のように思っております。だから甘えてくれると私は嬉しいです。ね、楓さん。」
「ウフフ、そうね。私もアリスちゃんの事を妹のように思ってるわ。だからお姉ちゃんには甘えて欲しいな。」
2人がニコニコと笑いながら私にそう言ってくれた。本当に2人は優しい。
「ふふふっ、じゃあお姉ちゃんに甘えちゃいます!えへへ。」
「はい、たくさん甘えて下さい。」
「ウフフ。じゃあ先ずは作戦立てましょうか。」
********************
私たちは死角へと移動し作戦会議を始める事とした。地形的には私たちの常識が通用するような場所では無いと思うがそれは他のプレイヤーも同じだと思う。それならば楓さんと牡丹さんが同時にいるこのエリアでは私たちが圧倒的優位に思えてしまう。
「正直言えば私と楓さんは別になった方が良かったですね。別れていれば”闘神”と当たる事は無くなるわけですし。」
そうだった。運が悪ければタロウさんと美波さんは”闘神”と同じエリアに配置される事になるんだ。楓さんと牡丹さんが別れていれば”闘神”同士は戦ってはいけないというルールにより配置される事は無くなる。それだけをみても相当な恩恵だ。
「そうね…それもあるけどあの2人を組ませたくは無かったのよね…」
「どうしてですか?」
「アリスちゃんと牡丹ちゃんには言ってなかったけど前回のトート・シュピールの時にタロウさんと美波ちゃんはペアで参加していたのだけれど…負けたのよ。」
「「えっ!?」」
「ど、どういう事ですか!?」
楓さんの言葉に牡丹さんが取り乱す。私も動揺が隠し切れない。タロウさんが負けるなんて信じられない。
「2人ともトート・シュピールのルールは把握してるとは思うけど、このイベントはBPといわれるポイント制のイベントよね?だからその場で負けても即奴隷になるわけではない。生きてさえいればまだ戦う事ができる。だからタロウさんと美波ちゃんは奴隷にはならなかったの。でも…あと一歩で2人は奴隷に堕ちていたわ。ううん、タロウさんは殺されていた。」
「…誰にですか?彼を痛めつけた不届き者は。」
ぼ、牡丹さんから邪気が出てるように見える…!こっ、怖いです…!
「落ち着きなさい牡丹ちゃん。入替戦の時にいた挑戦者側の澤野って男を覚えてるかしら?眼帯して義手をしていた男。アリスちゃんは覚えてるわよね?クランイベントの時の男よ。」
あの時の男か。目がギョロっとした気持ちの悪い男で、タロウさんを馬鹿にしているような態度の人だ。
「…あの男ですか。あの場で斬り殺しておくべきでしたね。いや…そんなものじゃ生温いですよね、生きているのが苦痛なぐらいの目に合わせてやらないと。ふふふ。」
…牡丹さんってタロウさんが絡むと人が変わりますよね。将来私がタロウさんと結ばれるような事になったら私は刺されたりしないかな…?
「でもその時は私が同じエリアにいる事ができたからなんとか2人を助ける事ができたの。澤野の傷は私がやったのよ。だからあの男は私を恨んでいると思うわ。」
流石楓さん!ナイスです!
「ふふふ、ではもう片方の目玉と腕ももいでしまいましょう。」
「はいはい、落ち着きなさい牡丹ちゃん。だからきっと2人とも不安に思ってると思うわ…もう窮地に陥っても2人を助ける人はいないもの…」
確かにそんな事があったトート・シュピールというイベントならトラウマになっていてもおかしくない。2人の気持ちを考えると胸が痛くなる。
場に重苦しい空気が立ち込める。
しかしーー
「ーー大丈夫ですよ。」
牡丹さんが口を開く。
「タロウさんも美波さんも強い方です。そんな事でめげたりするはずがありません。きっと今頃は勇敢に戦っておられると思います。」
「牡丹ちゃん…」
「牡丹さん…」
「信じましょう。それに美波さんは”具現”ができかけております。必ずやタロウさんのお力になっておられることでしょう。ならば私たちは私たちの事に集中して、クリアを目指し、タロウさんに褒めて頂けるように頑張りましょう。うまくいけば抱き締めて頂けるかもしれません。もう充電が切れてるので沢山褒めて頂かないと発狂しそうです。」
…途中までは良い話だったのに最後は牡丹さんの願望ダダ漏れで終わってしまった。
でも正直、私も褒めてもらいたい。
「そうよね。よし、2人なら大丈夫!私たちもタロウさんに褒めてもらえるように最速でイベントを終わらせましょう!」
「ふふふ、はい。」
「はい!」
ーー3人の欲望が渦巻きながら第二次トート・シュピールが開戦した。
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