第155話 反省

「またイベントかぁー、頻度多ない?」

みくちゃんが不満を口にする。確かにイベントの頻度は多くなっているのは感じる。イベントに多く臨むということは死の危険も高くなるということだ。

私は死が恐ろしい。彼と離れてしまう事が怖くて仕方がない。恋をする事がこんなにも自分を弱くしてしまうものだとは思わなかった。

平穏な時を過ごしたい。少なからず私にはそんな気持ちが芽生えている事は紛れてない事実だ。

『それが貴方たちに課せられた使命デス。』

「はぁー…でー?今度はどんなイベントなん?」

『トート・シュピールを開催致しマス。』

「トート・シュピール…?あー!あの10組集められて3日間戦うやつやろー?」

『左様で御座いマス。純粋にプレイヤー同士の戦いを楽しめるイベントとなってオリマス。』

やはりタロウさんから伺っていた通りの展開ですね。

「…牡丹ちゃん。」

「…はい?」

楓さんが周りに気づかれないように小声で私に話しかけてくる。

「…あまり驚いていないように見えるけどもしかして知っていたの?」

「…直前にタロウさんに伺っておりました。アリスちゃんのシーンを攻略中にお知りになったそうです。」

「…そういう事ね。じゃあ2人は無事にクリアできたのね、良かった。」

「…それと、アリスちゃんは新たにマヌスクリプトを入手したみたいです。」

「…マヌスクリプトを?私、あんまり魔法はアリスちゃんに使わせたくないのよね。」

「…どうしてですか?」

「…詳しくは話してくれないから推測に過ぎないのだけれど、魔法はイベントやシーンで一度しか使えないのよ。それ以上使用した時には代償を捧げないといけない。アリスちゃんが隠すぐらいだからきっと命かそれに相当するものを代償に捧げるんだと思う。」

「…そんな!それじゃあ!」

「…だからアリスちゃんには使用回数を超えての魔法の使用はさせてはいけない。私と牡丹ちゃんが頑張らないといけないわ。」

「…わかりました。窮地に陥らせなければいいわけですからね。私たちで頑張りましょう。」

私たちのクランは家族だ。私が必ずみんなを守ってみせる。

『そしテ、トート・シュピールには少し変更点が御座いマス。』

「変更点?」

『制限時間内に5組以下にならなかった場合は全員死亡とさせて頂きマス。』

「ちょっとぉー!?だからなんで条件が厳しくなるん!?」

『ゲームには緊張感が大事だと思いますノデ。』

相変わらず滅茶苦茶な提案をしてくる。だが、いずれにしても私は立ちはだかる者は容赦はしない。私の大事な仲間を傷つけようものなら血の花を咲かせましょう。

「むー!!もう言ってもムダやからウチは喋りません!!」

みくちゃんがそっぽを向き、椅子の上で体育座りを始める。

『変更点は以上デス。報酬につきましては前回同様にスキルアップカードとなっておりまス。他に御質問が無ければここで御開きとさせて頂きますがいかがでショウカ?』

「よろしいですか?」

三間坂がツヴァイに対して手を挙げる。

『何でしょうカ?』

「マッチングはどうなるんですか?完全ランダムですか?それとも実力的に近いものを各エリアに配置されるんですか?」

『完全ランダムとなってオリマス。ですガ、”闘神”たちが敵対するような配置はされませン。』

「敵対?ならば共闘する場合には配置されるという事ですか?」

『それには御答えできカネマス。』

…三間坂は頭が切れる。恐らく私と楓さんが同じクランという事に気づいているのかもしれない。

「わかりました。僕の質問は以上です。」

『他にありまセンカ?』

誰もこれ以上質問をする気配は無い。私としても早く終わりにして欲しい。タロウさんと離れすぎていてストレスが溜まってきた。早く戻って補給しないと。

『ではこれで終了とさせて頂きマス。正式な通知は明日送る事となっておりまス。では御機嫌ヨウ。』

蘇我さんと橘さんがすぐにこの場から消え、続いて坂本さんが消えて行く。

「では僕も失礼します。また会いましょう、みくちゃん。」

「下の名前で呼ぶなっての!!」

三間坂もここから消えて行く。

「うー…キモ…」

「ウフフ、みくちゃんは男運悪そうだものね。」

「楓チャン酷いよ!!ウチはイケメンが好きなのっ!!この前の入替戦の時の挑戦者側にいたイケメンとかさー。ああいう優しそーなイケメンがええなぁ。」

それは無理ですね。タロウさんは私の旦那様ですからみくちゃんは他を探して下さい。

「じゃ、ウチも帰るね!またラインするね!またねー!」

「またね、みくちゃん。」

「さようなら、みくちゃん。」

みくちゃんが手を振りながら消えて行く。

「…牡丹ちゃん、気持ちはわかるけどあの目はやめなさい。」

「目…ですか…?」

楓さんの仰っている意味がわかりません。目とは何の事でしょう…?

「嫉妬に狂ったような目をしていたわよ。およそ女の子がしちゃいけないようなね。」

「そんな目をしていましたか?すみません…これからは気をつけます…」

みくちゃんは大事な親友なのにそんな目をしていたなんて反省しなくてはいけませんね。どうも最近、タロウさんが絡むとなると私の中にもう一人いるような感覚に陥ってしまいます。気をつけないと。

「さて、私たちも帰りましょう。」

「そうですね。では楓さん、当日お会いしましょう。」

「またラインするからね。」

「ふふふ、楽しみに待っています。」

私たちも空間から離脱し、現代へと戻る。

ーーそして、トート・シュピールが開戦する。

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