第154話 異常者
食事が終わった時だった。
視界が歪むので瞼を閉じる。数秒の後に瞼を開けると真っ暗な空間にぽつんと円卓と椅子が置かれている。もう見慣れた場所に私はいた。本来ならこの状況に戸惑いもするだろうが前もってタロウさんから聞いていた為、予測する事が出来た。
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『そうだ、牡丹。』
『はい、あなたの牡丹です。』
『……。今日だけど”闘神”の会合があると思う。』
『そうなのですか?』
『さっきアリスがシーンで聞いて来たんだ。明後日にトート・シュピールが行われるらしい。いつものパターンなら2日前に”闘神”たちには伝えられるはずだから今日中に牡丹と楓さんは集められる事になるよ。』
『またイベントが始まるのですね、わかりました。私が必ずあなたをお守り致します。タロウさんは私の背後に隠れていて下さい。』
『いや、俺も頑張るから!!俺は姫ポジションじゃないならな!?』
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やはり情報の共有というのは大事ですね。夫婦になるのですからお互い全てを知るのが当然です。ふふふ。
「こんにちは牡丹ちゃん。」
右隣を見ると楓さんが椅子に座っている。彼女は私の大切な仲間であり、親友である、そして好敵手である楓さんだ。やはりとても綺麗な方です。この方と美波さんが好敵手というのはとてつもなく恐ろしいですが絶対に負けません。
「こんにちは楓さん。2日ぶりですね。」
「そうね。どう?タロウさんの家は慣れた?」
「はい、毎日が幸せです。」
「ウフフ、それなら良かったわね。それと…タロウさんから聞いたかしら?」
「はい。私たちは好敵手ですね。」
「そうね。牡丹ちゃんの事は大好きだけどこれだけは譲れないわ。ごめんね。」
「いえ、私も楓さんの事が大好きです。でも負けません。」
「ウフフ、恨みっこ無しよ?」
「はい。あ、美波さんも参戦されるそうです。」
「…やっぱり美波ちゃんも来たわね。望むところよ。絶対私が勝つわ。」
親友であり好敵手、良いですねこの関係性。青春を感じます。
「んー?なになにー?何の話ー?」
私の左隣からみくちゃんが声をかけてくる。
みくちゃんとはこの前の入替戦の時から仲良くなった。毎日数回ラインのやり取りをしている程の関係だ。つまりは親友である。
ふふふ、友人が増えるのは良いものですね。
「なんでもないわよ。」
「あー!!楓チャン酷い!!ウチだけ除け者にしよーとしてるー!!牡丹チャン!!助けて!!」
「イベントを頑張ろうという話をしていたのですよ。みくちゃんも頑張りましょうね。」
「なんだそういうことかー!もう!楓チャンがイジワルするからー!」
「ウフフ、みくちゃんはイジメがいがありそうだったから、ついね。」
みくちゃんには申し訳ありませんがここで私と楓さんが同じクランというのは伏せた方が良いですからね。情報は敵には与えない、これは鉄則です。みくちゃんにはラインで伝えてもいいかもしれませんがうっかり話されても困りますからね。許して下さい。
「みくちゃんの席、しれっと牡丹ちゃんの隣に変わってるわね。」
「きっとツヴァイチャンが変えてくれたんだよー!気が利くねー。」
気が利く…本当にそうでしょうか…?何か意図があって動いているようにしか私には感じない。あのツヴァイというモノは信用ならないと前々から思っている。あのようなモノは自分の得になる事でしか動かないタイプだ。それなのに気を利かせての事なんて考えられない。注意深く監視しないと。
「それよりもさ…あの三間坂って奴やっぱりいるんだね…」
みくちゃんが不快感を表しながら見つめる先には先日の入替戦で七原を討ち取り”闘神”の座を手にした三間坂が円卓に座っている。七原との戦いを見る限りでは相当な強さなのは言うまでもない。何よりあの男のスキル《初期化》が厄介だ。効果範囲がわからないが、クラウソラスや《水成》も消されてしまうのだろうか?でもそこまで便利なスキルだとしたら最強という事になる。いくらなんでもそれは無い。きっと何か条件や制約があるはず。それを見極めないと。
「別に七原クンの事が気に入ってたわけでも何でもないんやけど、ここでよく喋ってたから気分は良くないなぁ。」
「あれだけ猟奇的な光景を見せられたら気分なんて良くないのが当然よ。」
「そうだよね。だから、はいあなた”闘神”ね、って言われても納得いかない。」
「おや?レディーたちが僕に何かご用ですか?」
三間坂がこちらの会話に気づき話に割り込んで来る。
「…別に。」
「おやおや、嫌われてしまいましたね。悲しいです。」
三間坂が両手を肩のところまで持って来てお手上げ状態のようなジェスチャーをする。
「そう言う言葉遣いもイケメンじゃないと似合わないと思うんですけどー。」
「そうですか?自分で言うのもなんですが、僕はそれなりにイケてると思うのですが。」
「普通かな!ふ!つ!う!ウチのイケメンセンサーに反応せーへんもん!」
「これは手厳しい。蘇我さんぐらいでないとみくちゃんのお眼鏡にかなわないという事ですね。」
「下の名前で呼ぶな!」
「ははっ、いいじゃないですか。蘇我さん。蘇我さんはやはりモテモテの人生だったのですか?」
「……」
蘇我さんは三間坂の質問には一切答えない。腕を組み目を瞑ったまま微動だにしない様相だ。この集まりで蘇我さんを見て来たがいつも変わらず同じような姿勢でここにいる。私には他人に…いえ、人に関心が無いように思える。
「お話をしましょうよ蘇我さん。僕はあなたを尊敬しているんです。”五帝”と”闘神”に君臨し、尚且つそのルックス。あなたのような方が主人公属性というのだと思います。他の有象無象たちとは纏っている空気感が違う。きっと僕たちは分かり合えると思うんです。」
三間坂は饒舌に蘇我さんに話しかけている。だが私にはその饒舌さが薄っぺらく感じてしまう。ツヴァイ同様にこの男もまた信用ならない。
「俺に話しかけるな。それにお前と馴れ合うつもりは無い。」
蘇我さんは閉じた瞼を開ける事なく三間坂に答える。
「ははっ、その姿勢がまたいいですよね。蘇我さんって昔からそうなんですか?」
それでも御構い無しに三間坂は話を続ける。空気が読めないのだろうか。
「空気読めない男って最悪だよねー、ないわー。」
みくちゃんが苛立ちながら私たちに言ってくる。まあ私としてはタロウさんが空気を読めなくても何とも思いませんが。
「ははっ、いいですね!僕はみくちゃんみたいなレディーは好みですよ!」
「だから下の名前で呼ぶな!!それにウチは全然好みじゃない!!アンタみたいな性格の奴は仮にイケメンでも無理!!」
「ははっ、僕がオレヒスをクリアした暁にはあなた方のような美しいレディーは僕の彼女にしてあげますよ!今の内に僕と親しくしておけば待遇を一考して差し上げますよ?」
「結構です!!それにクリアはウチがするからアンタの野望は達成できませーん!!」
「みくちゃんには無理ですよ。そちらの島村さんと芹澤さんならクリアの可能性はありますがキミには無理だ。あ、決してみくちゃんを馬鹿にしているわけではありませんよ?それはここにいる他の方も同様です。”五帝”の蘇我さん、島村さん、芹澤さん以外は言って仕舞えば雑魚です。ははっ。」
「おいおい、新入りがあんまり調子に乗ってんなよ。」
蘇我さん同様に普段からあまり話さずに寝ている坂本さんが声を荒げる。
「気分を害されましたか?それは申し訳ありません。僕はつい本音を言ってしまう癖があるんです。ははっ。」
「喧嘩売ってんなら買ってやるぞ。」
「えっと…坂本さん…でしたっけ?結構沸点が低いんですね?いつも寝たフリをしているようですがカッコつけですか?そんな事しても蘇我さんみたいなイケメンじゃないと痛いだけですよ?あ!それともボッチすぎて人とのコミュニケーション取れない感じですか?あなた大学生ですよね?そんなんじゃ世の中に出たら苦労しますよ?それともまさかニートですか?親に寄生して生きてるんですか?情けないと思いませんか?あなたのような方がこの日本をダメにしていくんですよ?わかりますか?馬鹿すぎてわかりませんか?」
…この前七原を倒した時のような異常な空気が三間坂から出てくる。この男は何かが破綻してるというか壊れているような性格だ。うまく表現できないが、自然に生まれたというより造られたような…そんな感じだ。
「…いつもはそんな口車に乗せられたりはしねぇが買ってやるよ。来い。」
「やれやれ。これだから馬鹿は嫌いなんですよ。すぐに暴力で解決しようとする。嫌だな僕は。どうしてそれしか頭に無いんですか?暴力で全てが解決するとでも?人間は昔からそうです。それしかできない。話し合いができないんです。そのような人間が消えれば少しは良い世の中になると思いませんか?あ!あなたのようなクズには理解できませんよね。すみません。でもそれを矯正するのも力のある者の使命ですよね。うん、なら仕方ないか。僕が社会のゴミを取り除いてあげます。とりあえず死ね。」
三間坂が立ち上がり金色のエフェクトを発動させる。
対する坂本さんも金色のエフェクトを発動させ応戦の構えをする。
戦いは免れない。楓さんと目配せをし、万一の事態に備えようとする。
だがーー
『”闘神”同士の争いは禁止だと申したはずですガ?』
ーー2人の間にツヴァイが割り込み、戦闘を中断させる。
「僕は悪くありませんよ。坂本さんが絡んで来たので応戦しただけです。」
「お前が喧嘩売って来たんだろ!?」
『幼稚な争いはやめなさイ。』
ツヴァイから剣気に似た圧力なようなものが放たれ、2人の行動を制止させる。
『三間坂サマ、次はありませんヨ。”闘神”同士で争いを起こした際には処断致しまス。』
「…わかりましたよ。」
『…さテ、では明後日に行われるイベントについて御説明致しまショウカ。』
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