第153話 はしたなくありませんよね?

中間考査1日目が終わり、私は電車でタロウさんのマンションまで戻って来た。テスト期間中なので流石に店は臨時休業せざるを得ない。夕方に一度水やりに行かないといけないがタロウさんに送ってもらえる手はずになっているから楽しみだ。本当ならテストで帰りが早いなら迎えに行くとタロウさんは仰ってくれていたが今日はアリスちゃんのシーン攻略があるのでお断りした。

本音を言えばとても残念だが、アリスちゃんの事も大好きなのでそこは堪えないといけない。その分夕方にタロウさんに充電して頂かないと。

部屋のドアを開けると食欲を唆るような美味しそうな匂いが室内に立ち込めている。ちょうどお昼時という事もあり、私のお腹はぺこぺこだ。ぐー、という音が玄関に響き渡る。

するとダイニングの扉が開き、部屋からタロウさんが出て来る。

「お帰り牡丹。時間通りだったな。」

「ただいま帰りました。無事にシーンを攻略されたのですね。」

「なんとかね。牡丹は中間どうだった?」

「特に難しくは感じませんでした。」

「牡丹ならそうだろうね。」

「それよりも…凄く美味しそうな匂いが…」

「ちょうど今、買って帰って来たんだよ。牡丹が帰って来る時間に合わせてね。冷めちゃうから早く手を洗って食べよう。」

タロウさんが私の手を引きダイニングへと連れて行く。ふふふ、何だか恋人同士みたいですね。

ダイニングへ入るとハンバーガーとポテトが並べられている。この良い匂いはポテトの匂いだったんだ。匂いを嗅ぐだけでお腹が鳴ってしまう。

「牡丹さん、お帰りなさい!」

「ただいま帰りました。美味しそうですね。」

「牡丹はハンバーガーは大丈夫?」

「しばらく食べてませんが大好きです。」

「よかった。じゃあ手を洗って食べよう。」

流しで手を洗っている間もポテトの匂いが胃袋を刺激してお腹がぐーぐーと鳴っている。ポテトの匂いは殺人的ですね。

「それにしても量が多いですね。」

テーブルに並べられたハンバーガーの数は5個、ポテトの数は大きいサイズが8個、小さいサイズが3個ある。それとドリンクが5つだ。

「牡丹の好きなハンバーガーがわからなかったから分けてみた。それとポテトは俺が大好きだから多めに買った。」

タロウさんが目をキラキラと輝かせて子供のような顔をしている。そのお顔も素敵です。なぜだかそのお顔を見ていると私の中の何かが熱くなってきます。

「ありがとうございます。どのようなハンバーガーがあるのですか?」

「定番のパティが入ったスタンダードハンバーガーとチーズバーガー、それと白身魚のフライが入ったフィッシュバーガーに海老が入ったエビタルタルバーガー、そして俺オススメのその全部が挟まったギガンティックギャラクシーバーガーの5つだ。何個でも食べていいよ。」

どれも美味しそうですが最後のギガンティックギャラクシーバーガーはボリュームがありすぎますね。

「アリスちゃんはどれにしますか?お先に選んで下さい。」

「いいんですか?それならチーズバーガーでもいいですか?」

「私は大丈夫ですよ。」

「俺は残りでいいからさ。牡丹はどうする?」

「ではエビタルタルバーガーでよろしいでしょうか?」

「もちろん。2人とも一個でいいの?」

「ポテトがたくさん食べたいので一個にしておきます。」

「私は一個と小さいポテトでお腹いっぱいになっちゃいます。」

「アリスは育ち盛りなんだからたくさん食べないとな。てか、ウチの女子たちは細すぎるからな。たくさん食べないと。」

「タロウさんは細い女性はお嫌いですか?」

タロウさんが細いのが嫌いなら無理にでも食べて太らないと。

「…ぶっちゃけると細いのが大好きです。だからウチの女子たちのくびれが最高です。」

「ふふふ、それなら問題はありませんね。」

良かった。私は食べても太らないからどうやって太ればいいのかと思ってしまいました。

「私はポテト食べないようにします。」

「ダメダメ。なんでだよ。アリスは一番細いだろ。大きくなれないぞ?」

「大きく…牡丹さんみたいにですか…?」

「ん?そうだぞ、牡丹みたいに大きくなれないぞ。」

「わかりました食べます。私も牡丹さんのように大きくなります。」

そう言うアリスちゃんの目が私の身体に向いている。どう言う意味でしょう?

「…そっちの話じゃないからな。」

何の話をされてるのかわかりませんがこのほのぼのとした空気は私は好きです。

「さて、それじゃ食べようか。いただきまーす。」

「いただきます!」

「頂きます。」

私は包み紙をめくりエビタルタルバーガーと対面する。タルタルソースが外にはみ出て包み紙に付くほど大量のソースが加えられている。これを見るだけで涎が出そうだ。

私はエビタルタルバーガーにかぶりつく。だが口を大きく開けても一口では収まりきらないほどのボリュームなのでエビカツ半分とパンズを半分しか一口では食べられない。しかし私の口には十分な量だ。口に収めた瞬間にタルタルソースの酸味の効いた味と海老の磯の香りが混ざり合って味の調和が行われる。美味。まさにこの事を表す為の言葉ですね。このような美味しい物を食べられて私は幸せです。それもこれもタロウさんのお陰、彼には感謝しても仕切れません。でも少し不思議なのは先程からタロウさんが私の事をチラチラと見ている事です。大口を開けたのがいけなかったのでしょうか?

「タロウさん?どうされましたか?」

「えっ!?いや…ナンデモナイヨ…」

「大口を開けたのがいけなかったのでしょうか…すみません…」

タロウさんに嫌われてしまったのだろうか…もしそんな事があったら生きていけない、腹を切って旅立とう。

「ち、違う違う!!だからそんな顔しないで!?」

「では何がいけなかったのでしょうか…?」

「え…?いや…その…」

やはりダメなようですね。切腹致しましょう。お父さん…牡丹はそちらへ参ります。

「わかった!!わかったからその目やめて!?ハイライトさんに帰って来てもらって!?」

「では何がいけなかったのでしょうか…?」

「村人との会話かよ…。しゃあない…アリス。ちょっと待ってて。牡丹、こっち来て。」

タロウさんに導かれるままダイニングの外へと連れ出される。

「いやね…口開けた牡丹がさ…その…」

タロウさんが言い難い雰囲気を出している。やはりお気に召さなかったのですね。ここで腹を切りましょう。

「わかったから!!ちゃんと言うから!!剪定バサミしまって!!」

「では何がいけなかったのでしょうか…?」

「…なんかエロかったの。」

「はい?」

「…口開けた牡丹がエロくていけない事考えてたんです。ごめんなさい。」

「えっ?それだけですか?」

「それだけって…?これって結構大事だと思うけどな…」

「大口開けた私がはしたなくて嫌いになったのではないのですか?」

「はしたないわけないだろ。牡丹は大人すぎるからな。年相応な事やるぐらいがちょうどいいよ。それにどんな牡丹でも嫌いになるわけがない。」

彼からそう言われるだけで胸が熱くなる。先程まで切腹とか言ってた自分が馬鹿みたい。

あれ…?どうして私は剪定バサミを握りしめているのだろう?

「納得してくれたのなら食事の続きをしようか。」

「あ、待って下さい。」

「ん?ちょっ!?」

私はタロウさんを引き寄せ、自分から接吻をした。

「年相応ならこれもはしたなくはありませんよね?」

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