第152話 告白4

視界が明るくなると私はタロウさんのマンションへと戻っていた。現実に戻った実感とお母さんとお父さんのいない寂しさが込み上げて来る。だが隣にいるタロウさんを見るとその寂しさも和らいでくる。

タロウさんはいつも通り眠っている。シーンによって変わったのか私は少し大胆な行動に出る。タロウさんが眠ってるのをいい事に抱きついて見た。

…これ凄いですね、至福とはきっとこの事を言うのでしょう。

私は調子に乗って匂いを嗅いでみた。鼻をスンスンしてみると心が落ち着くような香りがした。きっと鎮静作用でもあるのでしょう、これを研究したらノーベル賞が取れるかもしれません。

タロウさんが起きるまでの小一時間、私はたっぷりとタロウさん成分を補給した。またチャンスがあったら絶対やろうと心に誓った。

「あれ…?また眠ってたのか…」

「おはようございます!」

「おはようアリス。あれ?なんだかスッキリしたような顔してるな?」

「気のせいですよ。」

「ん?そうか?ま、いっか。で…どうだ…?寂しくはないか…?」

「寂しく無いって言ったら嘘になります。本当はお父さんとお母さんと一緒にいたい、生きてて欲しい、そう思ってます。でも、私にはタロウさんがいます。美波さんがいます。楓さんがいます。牡丹さんがいます。だから…幸せです。」

気丈に振る舞っているわけでは無い。心からの本心だ。みんながいてくれるから私は寂しくなんてない。

「…そうか。さっきも言ったけど俺はずっとアリスの側にいるからな。目一杯甘えていいんだぞ?」

「ありがとうございます。私はシーンを通して主張する事の大切さを学びました。」

「うん、そうだね。」

ーーそう、だから私は主張する。

「主張してもいいですか?」

「いいよ?なんだ?」

「私はタロウさんの事が好きなんです。」

********************

ーー室内に沈黙が流れる。

第一声が大事なのは流石の俺でもわかる。アリスの言った意味がどっちの意味を指すのかはわからないが第一声をしくじったら大変な事になるのだけは理解できる。

俺は一呼吸置いてから勝負をかける。

「お!俺もアリスの事が大好きだぞ!両思いだな!あはは!」

ライクへと押し通す。それが俺の手だ。仮にアリスの言った意味がラブだとしてもこうやって無理矢理空気を捻じ曲げて仕舞えばライクに傾かざるを得ない。俺の勝ちだ。

「そういう意味ではありません。男性としてタロウさんが好きなんです。」

…マジか。マジなのか。アリスまでラブなのか…

えぇぇ…これはちょっとマズいだろ…牡丹はなんだかんだ言って結婚できるわけだからどうとでもなるけどアリスはマズいって!!ガチロリになるじゃん!?捕まるどころかワイドショーに取り上げられる事待った無しだよね!?アカンって!!

どーするよ…今までの3人のパターンから考えれば説得はできるわけない。受け入れる事は絶対無理。やべぇよ…どうするんだよ…

…いや、落ち着け、落ち着けよ田辺慎太郎。お前ならきっとやれる。この状況でもきっとお前ならなんとかできるッ!!説得だ、説得するんだ!!

「…アリスの気持ちは嬉しいよ。でもさ、やっぱり歳の差凄いじゃん?俺34、アリス12、犯罪、オーケー?」

「この前楓さんがビール一箱開けてる時に言ってましたーー」

ーー

ーー

ーー

『犯罪なんてものは所詮は人が勝手に決めたルールに過ぎないわ。それに立件できなきゃ犯罪にならないの。だからバレなきゃいいのよ。ウフフ、ビールおいしーい♪』

ーー

ーー

ーー

「ーーって言ってました。だから成人するまではこの家の中だけで愛を育んでいれば何の問題も無いという事です。」

何言ってんのあのメープル!?あんた弁護士だろ!!もう2日に一度しか酒は飲ませないからな!!

ーー

ーー

ーー

「くしゅん!…風邪かしら?ウフフ、それともタロウさんが私の噂でもしてるのかな…?早く会いたいな。」

ーー

ーー

ーー

…どうするよ。アル中メープルの援護射撃のおかげで敵軍が圧倒的優位に立ってしまった。言うなれば関ヶ原における西軍の石田三成状態になってしまった。このままでは歴史的大敗は必至…どうする…もうダメじゃないか…ワイには勝てへんで…もう退却するしかあらへんで…

それにさ…いいんじゃね?だってアリスだよ?この天使みたいな美少女が俺に惚れてんだよ?何の問題があるんだ?確かに今は犯罪だ。だけどあとちょっと待てばいいだけじゃん。それにアリスが成長したら美波、楓さん、牡丹と同等の超絶美女になる事は間違い無い。最高じゃん。もういいか…気持ちに応えちゃうか…

…いやいやいやいや、待てよ馬鹿!!今までとは桁が違うだろ!!ガチロリはマズいって!!それに牡丹とノートゥングに刺される!!落ち着け…クールになるんだ田辺慎太郎…

「でもさ、アリスは俺が決まりも守らない人間でいいのか?そんな無法者でいいのか?クズ男でいいのか?」

「そ、それは…」

…よーし、風向きは変わったな。後はアリスを宥めれば俺の勝ちだ。まだまだ子供よのお。

「だから今はーー」

ーーここでアリスはとんでもない奥の手を出してきやがった。俺が一番苦手なもの。女の涙を。

「あ、アリス!?ど、どーしたんだ!?」

「ひっく…だって…好きなんです…諦める事なんてできない…」

あわわわ…どないしよう…アリスが泣いちゃった…お、俺が悪いのか…?どうしよう…困った…困ったぞ…

「な、泣かないでくれよアリス…!」

「でも…諦めないとダメなんですよね…?」

「あ、諦めなくていいから!!」

もうそんな事はどうでもいい。アリスが泣くのやめてくれればなんでもいい。俺が捕まったって構いやしない。

「い…いいんですか…?」

「うん!!いい、いい!!」

「でも…タロウさんは私の事嫌いなんですよね…?」

「そんなわけないじゃないか!!アリスの事は大好きだよ!!」

「女性としてですか…?」

「え…?いや…それは…」

「やっぱり嫌いなんだ…」

…もう腹をくくるしかないか。ガチロリでもいいや。

「…正直言うとな、よくわからないんだ。ぶっちゃけアリスは超可愛い。だけど女性としては見た事は無い。」

アリスの目に涙が滲む。

「でも…未来のアリスを想像すると惚れないとは言えない。」

「…え?」

「想像する事自体が悪だと思っていた。でも、そういったフィルターを取っ払えば…俺はアリスを女性として見ると思う。」

「タロウさん…」

「だからといってアリスの気持ちに応えられるかはわからないよ?それはーー」

「そこまで聞ければ大丈夫です。」

アリスが俺の言葉を遮る。

「え?」

「タロウさんの本音が聞けたので大満足です。あとは頑張ってタロウさんを振り向かせるだけです!」

よく見るとアリスの目からは涙がもう出ていない。それどころかケロっとしている。

「あ、アリス!?涙ってそんなに簡単に引っ込むもんなの!?」

「あ、ごめんなさい。実は嘘泣きでした。」

「え!?」

「この前楓さんがビール一箱開けてる時に教えてくれましたーー」

ーー

ーー

ーー

『この前、雑誌に書いてあったんどけど、男は女の涙に弱いらしいわ。当然泣くなんてなかなかできないけど隙をみて目薬をすれば大丈夫みたいよ。アリスちゃんも好きな人できたら涙でオトしてみなさい。やり方教えてあげるわ。ウフフ、美波ちゃん、ビールもう一本追加おねがーい♪』

ーー

ーー

ーー

「ーーって言ってたので実践してみました。楓さんの言う事は凄いです!しっかりタロウさんの本音が知れました!」

あのダメープル何教えてんの!?もう禁酒だ禁酒!!アルコールは一切禁止だ!!

ーー

ーー

ーー

「くしゅん!くしゅん!…また噂してるのかしら?ウフフ、全くタロウさんには困ったものね。」

ーー

ーー

ーー

…仕方ないか。もう言っちゃったんだから。ガチロリの称号を甘んじて受けよう。

「でもな…一個伝える事がある。」

「なんですか?」

「美波と楓さんと牡丹にも告白されたんだ。それで返事はいつになるかわからないけど待つって事になってる。」

「…」

…今度はガチ泣きしないだろうな。

「わかりました。みんながライバルですね!絶対負けません!私がタロウさんを振り向かせます!!」

…何度も言うけどウチの女性陣は強いよな。

「それなら俺が言う事は無いよ。改めてよろしくねアリス。さてと、それじゃあ、昼でも食べに行こうか。」

「はい!」

「アリスは何がいい?」

「ハンバーガーでもいいですか?昔…お母さんと良く食べたので…」

「いいよ。じゃあ行こうか。」

ーーだが慎太郎はまだ気づいていない。のちにアリスに牡丹とキスしているのがバレて大変な事になる事を。

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