第151話 渦

まだ身体に温もりがある。まやかしでは無い確かなお母さんとお父さんの温もりが。

嬉しい反面いなくなってしまった事がとてつもなく悲しく寂しい。

だがそんな私の背中をタロウさんがさすってくれる。

「アリス…平気か…?」

「…はい。久しぶりだったので別れるのはとても寂しいですけど…大丈夫です。タロウさんがいてくれていますから。」

「俺にできる事があったら何でも言ってくれな?そんな事でアリスの寂しさを埋められるはずはないとは思うができる限りの事はしてあげたい。」

そうやって優しくしてくれるから私の辛さは軽減されるんです。本当にありがとうございます。

「じゃあ後でお願いしてもいいですか?」

「おう、なんでも来い!」

『リザルトを始めマス。』

私たちへと近づき威嚇するようにツヴァイが言ってくる。元々強引な性格だが、いつにも増してツヴァイの態度が強引だ。何か虫の居所でも悪いのだろうか。

「悪いな、じゃあ始めてくれ。」

『シーンクリア御見事でしタ。高難度のシーンにも関わらず難無くクリアされた事は流石としか言えませン。』

「やけに褒めてくれんじゃねーか。なんか良い事でもあったのか?」

『いエ。どちらかと言えば苛立つ事が多いデスネ。』

…タロウさんって女の子が絡む事には結構鈍いですよね。あれ?そう考えるとツヴァイって女の子なのかな…?

『星5のシーンをクリアしましたのでユウキアリスサマの歴史が大きく変わっている可能性がありまス。』

「え?」

『低難度のシーンでは改変の可能性は低いですガ、高難度のシーンなら現代に影響を及ぼしている可能性が高いでス。それが良い方にか悪い方にかはわかりませんガネ。カカカカカ!』

そうか、改変が良い方に傾くとは限らないんだ。悪い方に傾いたら一体どうなってしまうんだろう…私は今の生活は壊したくない…もしもタロウさんと一緒にいられなくなってしまったらどうしよう…

そんな未来を想像すると身体が震えてしまう。だがそんな私をいち早く察知してタロウさんは私を抱き締めてくれた。

「大丈夫だよアリス。どんな結果になってもアリスには俺がいるから。」

その言葉を聞くだけでさっきまでの身体の震えが嘘のように止まる。いや、むしろどうでもよくなってしまった。この人がいてくれればなんでもいい。だってタロウさんが私の全てだから。

「…約束…ですよ…?」

「もちろん。アリスに嘘なんて吐かないさ。」

顔がニヤけてしまう。私って本当にチョロいなぁ。

『これにてリザルトを終了とさせて頂きまス。御機嫌よウ。』

ーー相変わらずの身勝手さで勝手に締められ私たちは現代へと戻される。

私の初めてのシーンはタロウさんとフレイヤのおかげでどうにか乗り切る事ができた。

『…あんな子供にまで嫉妬をするなんてどうかしてるわね。少し頭を冷やさないと。』

「確かに見るに堪えなかったわね。」

『…なんでそうやって嫌な所をしっかり見てるのかなぁ?』

「まだ田辺慎太郎の護衛担当だから仕方ないでしょ。それを命じたのはあなたよ。」

『はいはい、そうでしたね。すみませんね。』

「そんなにあの男が欲しいならそこの計画だけは前倒しにしてしまえばいいじゃない。」

『それはダメよ。”彼の復活”と同時にしないといけない。それが契約だから。そうでないと芹澤と島村は絶対に動かない。』

「私は面倒なのが嫌いだからやるなら一人でオルガニを一掃しても構わないわよ?」

『ダメ。あなたと葵は動かしたく無い。オルガニは芹澤と島村にやらせる。あわよくば”彼の復活”も。』

「…慎重ね。」

『当然よ。その為に私たちはいるのだから。』

「まあ…ね…。」

『だから我慢するわ。その時まで。』

「健気ね。」

『そうかしら?』

「そうよ。」

ーーツヴァイとサーシャの間に自然と笑みが溢れる。

「そうだ、さっきの話で気になった事があったんだけど、アインスと一戦交える時に蘇我夢幻もあちら側に付くんじゃない?そうなると田辺慎太郎たちが勝てるの?あの男のスキルは正直厄介よ。」

『多分蘇我は付かないと思うわ。』

「根拠は?」

『女の勘。』

「勘が当たるといいわね。外れたら自動的に私か葵、リリの参戦が確定するから。」

『きっと蘇我は私たちに付く事になると思うわ。』

「女の勘?」

『目的が同じだから。』

「へぇ…あの男もそうなのね。」

『多少の違いはあるだろうけど向いてる方角は同じよ。だから最終的に私たちに付くはず。付かない時は”選別”の時に”彼”に粛清されるわ。』

「そう。でもまだ長い道のりね。」

『平気よ、私たちはもっと長い時を過ごしてきたのだから。』

「…ええ。長かった…本当に…でも…あと少しなのね…」

『うん、だから…頑張りましょう。』

ーー2人は無言で頷き空間から姿を消す。

ツヴァイたちの目的を現段階で慎太郎たちは知る由も無い。だが時計の針は止まらない。刻一刻とツヴァイたちの計画の渦に飲み込まれていく。

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