第148話 魔法使い再び
生徒指導室の扉に耳をつけて中の様子を伺う。よくは聞こえないけど担任からクドクド言われてるのと、タロウさんとお母さんが謝っている声が聞こえる。
しばらくすると2人が生徒指導室から出てくる。
「タロウさん!!お母さん!!」
「アリス、待っててくれたのか。」
「当たり前です…だって…」
タロウさんが私に微笑むとお母さんへと向き直り頭を下げる。
「おばさん、本当に申し訳ありませんでした。僕が至らないせいで仕事を早退させ、頭まで下げさせてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。」
「お母さん!違うんです!タロウさんは私の為ーー」
「ーーわかってるわよ。」
お母さんが私の言葉を遮る。
「え…?」
「タロウはアリスを守ってくれたんでしょ?私にはちゃんとわかってるわよ。」
「お母さん…」
「タロウ、アリスを守ってくれてありがとう。」
お母さんはそう言いながらタロウさんを抱き締める。
「だからあなたが謝る事なんてないのよ。私はとても嬉しいわ。これからもアリスをよろしくね。」
「はい!任せて下さい!」
「…本当に任せたわよ。」
「え?何か言いましたか?」
「なんでもないわよ。さ!早く帰ってご飯にしましょう!家まで競争して負けた人は夕飯のエビフライとコロッケをトレードね!よーいどん!!」
「えぇっ!?おばさんズルいですよ!!」
「あわわわ!待って下さい!!」
レースの結果は途中でバテたお母さんがぶっちぎりのビリで私とタロウさんにエビフライを献上する事になった。コロッケが四つになって項垂れているお母さんにお父さんがニコニコしながら自分のエビフライをお母さんのコロッケと取り替えていた。
それが嬉しかったお母さんは私たちがいる前でお父さんに抱きつき熱いキスをしていた。
私はそれを見ていつかタロウさんともしたいなって思っていた事はナイショだ。
だけどタロウさんが厳しい表情をしている事が気になる。一体どうしたのだろう。
********************
「タロウさん、どうかしましたか?」
食事が終わり部屋へ戻った時に私はタロウさんに尋ねた。食事中の時のタロウさんの顔が気になって仕方がない。
「…シーンが終わらない。俺の時と美波の時は条件をクリアしてしばらくしたらシーンは終わった。でもアリスのシーンは半日以上経過しても終わらない…そこから考えられる事は…」
「シーンは終わっていない…」
「それしか考えられない。【主張をしろ】って事が朝のクラスでの出来事を指してなかったって事だ。それ以外に心当たりは無いか?」
「いえ…それに学校の一件で私の歴史はずいぶんと変わってしまったはずです…ここからの展開は全く想像できません…」
「確かにそうだな…一体何を主張しろって言うんだ…」
先の見えないシーンの状況に不安を抱きながら私たちの2日目は終わりを迎えた。
ーーそして
「あれ…?ここは…?」
私は真っ暗な空間にいる。何も無い真っ暗な空間に1人でいる。この空間はリザルトの時のものに良く似ている。
一体ここは…?あ、寝ていたのだから夢なのか。それにしてもこんな所にいる夢を見るのは初めてだ。いつもは誰かが居たり、風景があったり、モノクロやカラーといった変化があるがここは無だ。というよりも私の夢には大概タロウさんが出てくるから居ないのがとても違和感がある。本当にここは夢なのだろうか?
『夢であって夢では無い、そんな感じだよ。』
突如背後から声がするので私は咄嗟に身構える。するとそこには洋風の洒落たテーブルで急須に湯呑みという場違いな和のテイストを展開させ、その少し変わった光景を楽しんでいる魔法使いの女性が居た。
「フレイヤ!?」
『フフ、ワタシの事を覚えていてくれたのだね。嬉しいよ。』
「忘れるはずがありません。フレイヤには本当に感謝しているんです。あなたが助けてくれなければタロウさんは殺されていました。私にはタロウさんが全てなんです。あの人が死んだら私は生きてる意味などありません。タロウさんを救ってくれたフレイヤは命の恩人です。本当にありがとうございました。」
私はフレイヤに深々と頭を下げた。
『そんなにかしこまる必要は無いさ。田辺慎太郎を助けたのはワタシでは無い、キミだよ。キミが魔法であの男を救っただけさ。ワタシは魔法を使えるきっかけを与えたに過ぎない。だから感謝なんてする必要は無いよ。』
「それが一般的に救ったって事になると思います。」
『ふむ、確かにアリスの言う通りかもしれないね。ワタシはキミたちを救ったわけか。ではキミの感謝を受け入れる事にしよう。』
謙遜していたわけではなくて本当にそう思ってなかっただけなのか。フレイヤって凄く頭が良さそうだけど少し一般的な常識が欠けているような感じがする。
「あの、フレイヤ、さっき言っていた言葉ってどういう意味ですか?」
『夢であって夢では無いって事かい?簡単に説明するとここはアリスの夢である事には違いは無い。間違い無くキミは想い人である田辺慎太郎と寝ているよ。組んず解れつね。』
「言い方…。というか、私たちはまだそんな関係じゃありません!!」
『まだ?つまりキミはあの男とそういう事をしたいという事か?』
「うぅぅ…」
『フフ、意地悪な言い方だったかな。許してくれ。』
「もう!…でもそうしたら夢の中でフレイヤとお話が出来てるという訳ですね。」
『確かにキミの夢であるがここはワタシに許された空間である事にも違いは無い。ここに居る間はキミは目覚める事も無い。ワタシがキミを帰さないと思ってしまえばそれで終わりさ。フフ。』
「フレイヤはそんな事はしません。」
『ほう、凄い信頼度だな。そんな簡単に信用してもいいのかい?ワタシはキミを食べようとしてるのかもしれないよ?』
「そのつもりならそれを私にバラしてしまわないはずです。」
『フフ、なるほど。それは正論だ。それに私は肉は食べない主義だからね、キミを食べる事は無いよ。』
どこまで冗談なのかわからない。やっぱり少し欠如している所があるのは確かだ。
『さて、そろそろ本題に入ろうか。このシーンについての話をしよう。』
「え?何か知ってるんですか?」
『このままではキミはシーンをクリアできない。それを伝えに来たのさ。』
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