第137話 ヤンデレ

目が醒めると部屋にはもう誰もいなかった。てかさ…かなりヤバい事したよな昨夜。楓さんとキスしたんだよ?しかもディープだよ?最高に気持ちよかったんだけど。脳がトロけるっていうかさ、マジ堪んねえんだけど。

それにさ…あと少しで童貞卒業してたよね?アリス来なきゃ完璧楓さんとヤッてたじゃん!!クソッ…!!いや、アリスを恨んでなんかいないよ?俺の可愛いアリスを憎むわけがない。でもさ…せっかく童貞卒業のチャンスやったんやでぇ…あんな美人に好きな事できたんやでぇ…てかさ、楓さんって普段はSっ気出てるけどベッドじゃ絶対Mだよね。逆に美波みたいなのはベッドではドSなんだよ。

そんな事よりどんな顔して楓さんと顔合わせればいいんだ?てか先週もこの下りやったよね?まさかとは思うけど…今回も夢オチじゃないだろうな…いや…それはないだろ…多分。


悶々としているとアリスが俺を起こしに部屋に入って来る。


「タロウさん、朝ですよ!」


アリスが俺の腕を軽く揺すって起こす。


「おはようアリス。」


「あれ…?起きてたんですか?」


「アリスが来るちょっと前に目が醒めたよ。」


「そうだったんですね。朝ごはんできました!」


「そっか、いつもありがとな。」


日課であるアリスの頭を撫でると幸せそうな顔をしている。可愛い。俺の癒しだな。


「ところでアリス。昨夜さ、トイレに起きなかった?」


「トイレですか…?どうだっただろ…すみません、覚えてません。」


ま、マジか…?えっ…マジで夢オチなの…?楓さんとチュッチュしまくったのも夢オチなの…!?

うわマジかよ…えぇ…


俺はテンションガタ落ちになりながら寝室を出てダイニングへと向かう。ドアを開けてすぐに楓さんを見つける。向こうも俺に気づく。ここで照れるようなら昨夜のは現実、照れないなら夢オチだ。俺は最後の望みをかけ楓さんの反応を待つ。

しかし、


「おはようございます。タロウさんもコーヒー飲みますか?」


前と同じじゃねぇかよ!!あー…夢オチかよー…マジで泣きそう…夢ならヤッとけばよかった。


「…おはよございます。飲みます。」


「わかりました。美味しく淹れますので座って待ってて下さいね。」


「…はい。」


ーーだが俺はここで衝撃の事実に気づく。


楓さんの左の首元に赤い内出血の跡がある。アレはキスマーク…俺がつけたキスマーク…!!!

夢じゃなかったんや…!!!うおおお!!!マジか!?アレはマジだったのか!?楓さんが俺にラブで、チュッチュしまって、いつでも俺の筆下ろししてくれるってのかよ!?堪んねえ!!!堪んねえよ!!!今から楓さん連れてお城に行くか!!!



「タロウさん?」



むしろいつでも種付けしていいわけか。この美人に?超絶美女に?俺みたいなブサイクが種付けできんの?くぅー!!!来たよ!!キタキタ!!!俺の時代がキター!!!長かったよー!!!暗黒の時代を34年生きて来た甲斐があった!!!



「タロウさん、どうしましたか?」



でもさ…牡丹も欲しいんだよね。ぶっちゃけ。だって選べないって。楓さんも牡丹もどっちも最高だもん。性格も顔も最高じゃん。

…2人とも嫁ってダメかな?ダメだよなぁ。



「タロウさん!!」



「え?」



隣で座っている牡丹が心配そうな目で俺を見ている。なんだ?どうした?


「どこか具合でも悪いのですか?先程から一口も召し上がられてませんが…」


「え?あ、ごめん。考え事してて…」


やっべ。もう食事中だったのか。妄想してて全然わからんかった。


「ご飯の方が良かったですか?冷凍しておいたご飯があるのでチンして来ますねっ!」


「違う違う!大丈夫だよ!本当に考え事してただけだから!パンが食べたいから平気だよ!」


美波が勘違いして冷蔵庫に行こうとするのでそれを制止する。

朝から邪な事を考えるのはやめよう。さっさとメシ食って水やりに行こう。煩悩を消すのだ。悟りを開け、田辺慎太郎。




食事が終わり仕事の支度をしていると楓さんに声をかけられる。


「タロウさん、すみませんが蓋が開けられないので開けてもらえますか?」


「あー、なかなか蓋って開かないですよね。任せて下さい。どれですか?」


楓さん…普通だな。昨夜あんな事したのに普通だよな。やっぱり酔ってただけなんじゃないだろうか。もしかしなくても昨夜の事なんて記憶にないんじゃないだろうか。そうすると俺が一人で舞い上がってるだけって事になんのか。心が折れちゃうぞ。


「持って来た荷物の中にあるので向こうの部屋まで来てもらってもいいですか?」


「あ、わかりました。いいですよ。」


俺の家は無駄に部屋があるのにみんな同じ部屋で寝るから部屋は余ったままだ。その内の一室を荷物部屋として使っている。

楓さんと一緒に荷物部屋へと向かう。荷物部屋といってもキチンと整頓されて綺麗な状態がしっかりと保たれている。


「どの蓋ですーーむぐうっ…!?」


楓さんに強引に抱き寄せられるとそのままキスをされる。当然ディープだ。舌を絡ませ俺の思考を完全に奪っていく。楓さんの舌使いに俺の脳はトロけそうになっていた。

1分以上にのぼる濃厚なキスが終わり自然と互いに唇を離す。


「ぷはっ…ちょっと…何してるんですか…」


「充電です。」


「充電?」


「金曜日まで会えませんから…次に会えるまでの充電です。」


…何この可愛いの。堪んねえんだけど。押し倒してぇぇぇぇぇ!!


「それに…浮気しないように唾をつけときました。」


「浮気って…」


「あと、おはようとおやすみのラインは下さい。いつも待ってたんですから。それなのにラインなんて滅多にしてくれないし。」


「…すいません、機械に弱くって。わかりました。ラインしますよ。」


「約束ですよ?くれないと泣いちゃいますからね?」


何このデレっぷり。ベッドで泣かせたいんだけど。もうこのままホテル行くか。


「約束します。」


「じゃあ最後にもう一回キスして下さい。」






*************************





まさかモテ期が来るとは思わなかったな。それも超絶美女の2人からだぞ?それに楓さんとはキスまでしてるし。いや、それどころかアリスが来なければヤッてたわけだしな。俺の童貞卒業は目前じゃん。

…土曜に楓さん連れ出してホテル行くか。いや、でもそれはなぁ…牡丹いるしなぁ…それにやっぱり選んでからじゃないとダメだよな。不誠実な事はしちゃいけない。


それよりも牡丹がさっきから鼻をスンスンして匂いを嗅いでるんだよな。車の中臭いのかな。それとも俺が臭いのか?まだシコってないぞ?加齢臭…は、無いはず。

それに無言なんだよな。どうしたんだろう。


そんな事を考えながら車を走らせているとあっという間に牡丹の家に着く。店の前に車を停め、裏口から店内へと入る。そして店内へ入ると同時に牡丹が俺の服を強引に引っ張り抱きついてくる。


「ぼ、牡丹?どうした?」


俺の胸に顔を埋めてまた車内と同じように鼻をスンスンして匂いを嗅いでいる。やはり臭いのか…?加齢臭か…?マジかよ。まだ30代なんだけど…


「えっと…臭い…?」


「…やっぱり他の女の匂いがする。」


「え?」


「…これは楓さんの匂い。ねぇ、どうして楓さんの匂いがするんですか?ねぇ、どうして?」


…アカン。牡丹の目にハイライトが無い。ハイライトさんが行方不明になってもうた。

それにいつもと口調が違うし。やっぱヤンデレ属性持ちじゃん。これ言葉選びを間違えたらそこにある剪定バサミで刺されるパターンじゃないですかねぇ。

嘘はダメだ。牡丹には絶対見抜かれる。真実を話そう。


「牡丹。」


「はい、あなたの牡丹です。」


「実はな、昨夜楓さんに告白されたんだよ。」


「……」


「それで牡丹に告白された事も伝えた。結果から言えば牡丹に伝えたのと同じ事を楓さんにも伝えた。そして楓さんから帰ってきた言葉も牡丹と同じだった。」


「……」


「でも牡丹の時と一つだけ状況が違う点がある。俺は楓さんとキスをしてしまった。俺から迫ったわけじゃないよ?楓さんにキスされたって感じかな。これが昨夜の全てだ。」


俺は牡丹に対して誠実に対応できたと思う。これで刺されるんなら仕方が無い。俺の器量が足りなかったという事で諦めよう。


「…じゃあ私にもしてくれますよね?」


「え?何を?」


「接吻です。」


接吻って。本当に古風だな。でもそれが唆るんだよなぁ。


「いや…それは…」


「楓さんにはしたのに私にはしてくれないんですか?」


…アカン。邪気まで纏っとる。闇堕ちしかけとる。


「俺で嫌じゃないの…?」


「嫌なはずがありません。」


「じゃあ…するよ…?」


「楓さんにしたのと同じようにして下さい。」


「わかったよ。ヤキモチ妬きのお姫様には困ったもんだ。」


俺は牡丹を抱き寄せ唇を重ねる。初めは軽く唇だけを動かしてのフレンチキスだが次第に求め合うように舌を入れ絡ませ合っていく。激しさを増すごとに牡丹の吐息が漏れるのがとても官能的だ。花の心地良い香りに包まれながら俺たちはしばらくの間互いを感じ合っていた。


「…どうだった?」


「最高のファーストキスでした。」


そう言う牡丹の目にハイライトが灯っていた。ハイライトさんがお戻りになられたようだ。良かった良かった。


「それなら良かった。ま…俺は初めてじゃないのは申し訳ないが…」


「最後が私なら問題ありません。」


やっぱりヤンデレ属性だな。まぁ…牡丹みたいな美少女に重いぐらい愛されるなんて最高だけどさ。


「ではこのまま始めましょうか。」


「え?」


始める…?何を始めるんだ…?水やりやってないのに開店準備をか?


「ここでは嫌ですか?私は花たちに包まれながらだとムードがあって良いのですが。」


この子は何を言ってるんだろう。花に包まれる?ムード?何の話だ?


「ごめん、ちょっと意味がわからん。」


「やはりお布団が無いと嫌ですか?ではすぐに敷いて来ますので待っていて下さい。」


「布団!?布団って何!?何をするの!?」


「契りを交わすに決まっているではありませんか。あ、お風呂に入らないと嫌という事ですね!すぐに沸かして来ますね!」


…アカン。またハイライトさんが行方不明になってもうた。何でそんな話になってんだよ。


「待った待った待った!!何でそうなる!?」


「昨夜はお楽しみだったんですよね?」


「してないから!!キスしかしてないから!!」


「そうなのですか…?それなら好都合です。私が一番を頂きます。」


「待て…!なんか怖いよ牡丹さん…?その剪定バサミをどうするの…?待て!待って!!アーーーーー!!!」

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