第134話 入替戦 慎太郎 side 4

「シンさん、ワイがさっき言った”三拳”あるやろ?それの1人があの三間坂って男や。」


「あいつが?」


「3人おるから”三拳”でもあるが、名字の最初が三がつくから”三拳”でもあるんや。三國、三間坂、三柳、コイツらが”三拳”や。」


なるほど、それで”三拳”か。なら『拳』が付くならそいつらは拳で戦うって事か?それは安易な考えかもしれないな。この三間坂の戦いをしっかりと見極めておく必要がある。さっきの澤野の口ぶりでは楓さんクラスって事だ。もし本当に三國の野郎も楓さんクラスの強さがあるならかなり厄介な話になるし、”闘神”、”五帝”、”三拳”の連中が組んでクランを組み出したらかなり面倒な事になる。今はオレヒス最高峰の位である”五帝”に名を連ねる楓さんと牡丹がいる俺らのクランが恐らくはトップクランなはずだ。だが、その辺りのランクの連中が徒党を組んで来たら俺らだってどうなるかわからない。しっかりと他の連中の実力を把握しないと。


「お前は三間坂って奴の事しってんのか?」


俺は澤野から情報を得られるだけ得ようと考えた。少なくともコイツはかなりの情報を知り得ている。オルガニについてだって俺らは知らないがコイツは知っている。搾れるだけ搾り取ろう。そういえば牡丹にオルガニの事を聞いた事は無かったな。戻ったら聞いてみるか。


「実際に見たのは初めてやがそれなりにあの男の事は知っとんで。三間坂春翔、14歳の中学2年。成績も優秀で模試では全国トップクラスの秀才や。アイツがオレヒスを始めたんはクランイベントの時ぐらいや、初めてのイベントであるクランイベントでアイツは1人でゾルダートを246体、クランを8つも潰した。クランの中には時空系と召喚系のアルティメットを使うプレイヤーが3人もおった、それを三間坂は軽々と潰したんや。奴の名を一気にプレイヤーたちに知らしめた一件やったっちゅうわけやな。」


知らしめたって、俺らはそんなの知らないんですけど。つーか何でコイツは学力の事まで知ってんの!?個人情報ダダ漏れじゃない!?

てか俺の事も知ってんのか…?34歳絶賛童貞街道まっしぐらの可哀想なオッさんだってバレてんのか…?楓さんと牡丹のスリーサイズとかも知ってんのかな…?それなら俺も教えてもらいたいな。


いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。そうしたら三間坂は相当凄いスキルを持ってるって事か。スキルアップカードだって無いだろ?それなのにそれだけの数をどうやって…?


「どうやってそんなに倒したんだよ?普通に考えても無理じゃね?」


「そこまではワイもわからん。だが相当のスキルを複数持ってるんやろな。それか…見つけたのかもな、特殊装備ってやつを。楓ちゃんの持っとるアレみたいなんを手に入れてそれを可能にした、その線も考えられる。」


なるほどな、それはありえる。いくらなんでも初めてのイベントでそこまでの成果を上げるのはなかなか難しいだろう。だが特殊装備を手に入れたならば可能かもしれない。どんな種類があるかはわからないが、楓さんのエンゲルがスピード上昇なら攻撃上昇の特殊装備だってあってもおかしくない。


「ま、あとは三間坂の動きを確認してからやな。シンさんもよう見といた方がええで。楓ちゃんとマッチアップする事になるんや、せめてシンさんが打開策見つけたらなアカンからな。カカカカカ!!」


「言われねぇでもそのつもりだよ。」


当然だ。胸を張って楓さんを守るって言えないのは情けないが側面からでも支えたい。俺のできる事を少しでも探すんだ。



バトルフィールドに七原と三間坂が降りる。どちらが勝つかはわからないが激戦になる事が予想される。


「最高にナメた事言ってくれんじゃん。見た目で判断すんじゃねーよ。中坊が。」


「ははっ、そんなイキった事言わなくていいですよ。それに見た目で判断してはいませんよ。あなたは弱い。他の”闘神”より数段落ちます。」


「はぁ?女の綿矢さんのが俺より弱いだろ。序列も低いし。」


「ははっ、あなた本気で言ってるんですか?女性だから弱いなんて通用しませんよ?現に島村さんと芹澤さんの戦いぶりを見たでしょう。」


「あの人らは特別だろ。”五帝”じゃん。」


「それにあなたより序列が低いという理由なら橘さんはどうなんです?あなたより明らかに強いですよ?」


「あの人はなんかやってんだろ。初期能力が違うじゃん。」


「言い訳ばかりですね。僕はね、目を見ればわかるんです。その人がどれだけ強いかが。ま、確かに綿矢さんには僕は勝てますよ?でも僕は女性に優しいんです。正直言えば蘇我さんと島村さん、芹澤さん以外には負ける気はしません。皆さん雑魚ばかりです。」


「最近のガキは口だけは達者だよな。俺がしっかり教育してやるよ。」


「あなたもガキじゃないですか?それとも引きこもり歴が長すぎて脳が退化しちゃったんですか?」


「うるせえよ!!引きこもってねーよ!!」


七原が激昂し、スキルを発動させる。金色のオーラを身体に纏い、戦闘態勢は万全といったところだ。


「それぐらいで怒ったんですか?沸点が低いんですね。いや、忍耐力が無いのか、だから引きこもりになるんですね、わかります。」


「ぶっ殺してやる…!!!」


「あなたじゃ僕には勝てません。それにスキルも使えませんよ。」


「…は?」


ーーその時だった。七原を包む金色のオーラが突如として消える。スキルを解除したわけでは無い。明らかに消失したのだ。


「な…なんで…?」


「簡単ですよ。あなたのスキルを初期化したんです。これが僕のアルティメットスキル《初期化》の能力です。もうあなたのスキルは2度と使えません。またガチャで当てて下さい。」


「ほ、他のスキルも使えない…!?」


今使用したスキル以外に装備しているのを使ってみたのだろう、それが使えないから七原に焦りの色が濃くなる。


「どこまでも頭が悪いんですね。初期化したと言ったでしょう。あなたが持っているもの全てに決まっているじゃないですか。さて、戦いを始めましょうか。僕を教育してくれるんですよね?」


「スキルを封じたってこっちはゼーゲンがあるんだッ…!!負けるわけねぇだろオッ!!」


七原がゼーゲンを手にし三間坂へと斬りかかる。だが、


「うぁぁぁァァァ…!!!」


三間坂がゼーゲンを手にしていた七原の右腕を斬り落とす。三間坂が持っているのはゼーゲンでは無くただのロングソードだ。しかもエフェクトが発動しているわけでも無い、スキルは使用していないのにゼーゲン装備の七原を圧倒している。


「右腕…無くなっちゃいましたネェ?イヒヒヒヒ…!!」


なんだ…?口調が変わった…?いや、三間坂の雰囲気そのものが先程までとは違う。


「まだだ…!!まだ左がある…!!!」


七原が下に落ちた右腕からゼーゲンを取り、左手に持ち替える。だが、


「アアァォァォ…!!!」


「あァァ…!!左も無くなっちゃいましたネェ…!!!もう戦えませんネェ…!!!イヒヒヒヒ!!!」


「あああ…あああァ…!!!」


両腕を斬り落とされ完全に戦意を喪失した七原は三間坂に背を向けその場から走り出した。だが、


「イギャァァア…!!!!」


「あァァ、すみまセン、邪魔なので足も取ってしまいマシタ。これで逃げる事も出来ませんネェ…イヒヒヒヒ!!!」


「や、やめてエェェェ…!!!許して下さイイイイ!!!」


七原が四肢をもがれた身体で必死に三間坂に命乞いをする。その悲痛な声に耳を塞ぎたくなってしまう。


「あァァ、そういうの結構デス。男の癖に女性のような声を出さないで下さイ。気持ち悪いデス。さァテ、愉しませてもらいましょウ。先ずは目玉をくり抜いてみましょうカ。イヒヒヒヒ!!!」



ーーそこからは見るに耐えないものだった。


三間坂が七原の目玉をくり抜き、耳を削ぎ、鼻も削ぎ落とす。動く事も死ぬ事もできない七原は絶叫を上げながらそれを受け入れるしか無かった。そして最後に舌を引き抜かれた所で七原は絶命した。

しかしそれでも三間坂は止まらない。七原の亡骸の解剖を進めていく。狂ったような奇声を上げながら進めていく。


「ああァ…!!タノシイ…!!!興奮する…!!!」


臓物を取り出しては潰し、その潰したモノの臭いを嗅ぎ愉悦に浸る。その繰り返しであった。そして腹から腸を引きずり出した所でツヴァイが制止する。


『もうイイデショウ。ソレはもう死んでおりまス。』


「はイ?アナタ…ワタシの邪魔をするんでスカ…?」


三間坂がツヴァイに対して敵意を向けると剣気のようなものを発生させる。ピリピリとした静電気のようなものが俺の身体にまで伝わってくる。


「ちょうどイイイイ…ここにいるモノは全て殺してしまいマショウ…その方が手っ取り早イイイイ…イヒヒヒヒ…」


三間坂の身体から金色のエフェクトが発動する。そして敵と定めたツヴァイに対して攻撃をしようとした時だったーー


『サーシャ。』


ーーバキィン


ツヴァイの背後から銀色の髪を靡かせた美少女が現れ、三間坂のロングソードを叩き折る。


「言われなくてもわかってるわよ。」


サーシャと呼ばれる少女と三間坂が対峙する。

サーシャが剣を振り三間坂の足元へ印をつける。


「その線を越えたら攻撃するわ。」


「グロスヘルツォークですか…これは分が悪いですね。わかりましたよ。」


三間坂が両手を上げて降伏の姿勢を取る。


『素直なのは良いデスガ、ワタシに反抗する姿勢は良くありませんネ。皆様全てに一応申し上げておきましょうカ。我々に対して攻撃的な姿勢を取られた場合は排除致しまス。特にワタシに対して敵意を向けるとこのサーシャが御相手をする事にナリマスヨ。貴方方全員でかかってもサーシャに傷一つつける事は出来ませン。疑うのでしたら是非手合わせしてみて下さイ。死にますけどネ。』


この少女はトート・シュピールにてブルドガングの奥義を剣一本で封じた程の実力だ。ツヴァイが言う事も強ちハッタリでは無い。


『流石にそのような愚か者は居ないようですネ。でハ、ミマサカハルトサマ、貴方にはペナルティーとして”闘神”序列7位の席に座って頂きまス。ワタヤサマとタチバナサマの序列は繰り上げて下さいマセ。』


「はい、わかりました。申し訳ありません。」


先程までとは違い戦闘が始まる前の喋り方へと戻っている。なんだかあの笑い方が嫌だな。この前のチェンソーと大斧の化物を思い出す。


『でハ、これで終わりにしましょウ。御機嫌よウ。』



相変わらずの自分本位な締め方で入替戦を終わらせられる。何とも後味の悪い終わり方となった。

皆が転送され、入替戦が幕を閉じたーー







































「は?」















「何で俺だけ残ってんの?」


楓さんも牡丹もいない中なぜか俺だけ闘技場に取り残されている。いるのは俺とツヴァイ、そしてサーシャの3人だけだ。


『偶には貴方と御話をと思いましテネ。』


「…どさくさに紛れて俺をここで殺したりとかしないだろうな。」


『カカカカカ!!そんな事はシマセンヨ。言ったでしょウ?ワタシは貴方に期待しているト。』


「…ま、いいけど。で?何の話をすんだ?明日の天気の話でもするか?」


『トップクラスのプレイヤーたちを目の当たりにした感想はどうデスカ?』


「意外だな、マジメな話か。」


『エエ。』


「そうだな…普通にスゲーって思ったよ。楓さんと牡丹は当たり前としても他の連中も凄いのばかりだって思った。それに三間坂って奴も得体の知れない恐怖感がある。」


『でしょウネ。ミマサカハルトには少し気をつけた方がイイデスヨ。彼には少し秘密がアリマス。』


「秘密?」


『残念ですが御教え出来ませン。』


「うん、知ってた。」


『ですがヒントを御教えしましょウ。もしミマサカハルトと戦う事があったとしたらユウキアリスサマに頼る事デス。』


「アリスに?」


『はイ。セリザワカエデサマとシマムラボタンサマでは相性が悪いデス。犠牲が出る可能性がアル。』


「2人が負けるかもしれないって事か?」


『可能性としてアリマス。シマムラサマが負ける事は有りませんが覚醒されると困るのデス。』


「覚醒…?」


『御答え出来ませン。』


「はいはい、知ってますよ。でもアリスなら勝てるって事か。」


『最悪アイバミナミサマでもどうにかなりますガ、間違っても貴方は戦わない事デス。死にますヨ。』


「俺の存在意義って何!?俺って無能じゃん!?」


「ふふふっ!」


ツヴァイにツッコミを入れたら隣で黙って聞いていたサーシャに笑われた。美少女に笑われるとか恥ずかしすぎなんだけど。


「お前のせいで笑われたじゃねぇか…」


『仕方アリマセン。貴方は弱イ。それを自覚して下さイ。現に剣聖の力をまるで引き出せていなイ。』


「…わかってる。」


『強くなりなサイ。肉体的にも精神的にモ。』


「お前って良い奴だか悪い奴だかよくわかんないな。」


『カカカカカ!!ワタシは貴方に期待しているダケデス。こんな所で死んでもらっては困ル、それだけでス。』


「ま、あんがとよ。俺なりに頑張ってみるわ。」


『健闘を祈りまス。それではマタ。』



視界が闇に包まれ眠りに落ちていく。


俺の初めての入替戦がここに幕を閉じた。























「あなたの言う通り面白い男かもしれないわね。」


『フフフッ。』


「でもそのくせ優吾の暴走の時、私に優吾を始末させなかったわね。」


『それは島村牡丹が来ると思っていたからですよ。サーシャが介入すればログが残る。アインスにバレると面倒ですからね。』


「ふーん。で?三間坂はどうするの?アレは厄介じゃない?失敗作よ?」


『結城アリスがなんとかしますよ。最悪、芹澤楓が覚醒というパターンでもいいですがね。』


「芹澤ね…葵が気に入ってるだけの事はあったわ。少し侮っていたのは確かだった、あそこまで力をつけているとはね。」


『芹澤楓にはまだまだ頑張ってもらわないといけません。しっかりと田辺慎太郎を守ってもらわないと。』


「ま、私がついてるから殺させはしないわよ。」


『サーシャの事は信頼しています。ですが、貴女の力は使わせたくは無い。極力、芹澤楓と島村牡丹に頑張ってもらいます。それと結城アリスにね。』


「ふふふっ、相葉美波は?」


『フフフッ、使い物にならないでしょう。彼の盾になれば丁度良いぐらいです。』


「余程あなたのカンに障るみたいね。なんなら始末する?」


『別にそんな事をしなくても良いですよ。』


「あら怖い。あなたでもそんな顔をするのね。」


『さて、戻りましょうか。次のイベントの手配があります。』


「そうね。じゃあまた後で。」


サーシャが闘技場から姿を消す。ツヴァイは一人残り、慎太郎が座していた椅子を見つめる。


『…あー、イライラする。』

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