第132話 入替戦 楓・牡丹 side 5
ーー剣戟が鳴り響く。
芹澤楓と槍王クリヴァルの一戦が始まってから十数分が経過した。
互いの武器による刃の交わりにより金属音が闘技場内にこだまする。
槍王クリヴァルによる洗練された槍技の一つ一つを楓は滑らせるように華麗に切り返す。
攻守が入り乱れ、闘技場全体を2人の影が駆け巡る。その姿を観客であるプレイヤーたちは固唾を呑んで見守っていた。
田辺慎太郎と島村牡丹はスキルを使用しない楓の意図を理解した為驚きはしないが、他のプレイヤーたちに至っては楓のその姿に驚愕を覚えていた。それは他に関心を持たない蘇我夢幻でさえそうであった。
スキルを使わないで召喚系アルティメットである槍王クリヴァルと互角に渡り合える、これがどれだけ凄い事かこの場にいる強者に理解出来ない筈が無い。いくらゼーゲンによる加護があったとしても楓本来の技量が無ければ槍王クリヴァルと対等に渡り合える事など有り得ないのだ。それがわかるからこそ彼らは芹澤楓という女性の戦いに魅了され、感動していた。
楓のゼーゲンによる剣の煌めきーー
クリヴァルによる槍の閃光ーー
それらが交錯し、幾度となく切り返しが行われるが互いに決め手が無い。2人の実力は完全に拮抗していた。
だが分があるのは槍王クリヴァルだ。それは大半のプレイヤーが理解している。現に感動を覚えていた彼らだがスキルを使わないで楓の勝利があるとは思っていない。それは仲間である牡丹でさえそうだった。
英傑たちには奥義といわれる技がある。その威力は絶大で戦局を一気にひっくり返す程の破壊力がある。それがわかっているからこそスキルを使わないで勝利する事は不可能だと皆は思っていた。
一人を除いてはーー
一人だけは楓の勝利を確信するーー
田辺慎太郎だけはーー
この時点でスキルを使わないで楓の勝利を確信していた人間は慎太郎だけであった。
そして勝負は佳境を迎える。
「素晴らしい、スキルを使用しないで俺と互角に渡り合えるとは微塵も思わなかった。カエデ、貴殿は誠の武人なり。」
「ありがとう、あなたも真の武人だったわ。卑怯な手を使わず女だからと馬鹿にもしない。素晴らしかったわ。」
「このような至高の時を終わらすのは何とも残念だが…そろそろ時間だ、テツシの身体が限界に近い。勝負を決めようか。だが貴殿のような者をテツシの毒牙にかけるのは心苦しい事この上ない、せめてもの情けだ、ここで貴殿の命を貰おう。」
「ウフフ、本当に残念ね。バカ殿に仕えたばかりに槍王クリヴァルの格が落ちてしまうなんて。私もせめてもの情けをかけるわ、ここでその男の命を貰いあなたを解放してあげる。次は賢君の元に行けるといいわね。」
もう互いに言葉はいらない。数秒の後に立っていた者が勝者である。
クリヴァルの身体を包む金色のオーラが輝きを強め、黄金色へと変化し奥義を発動させる。
「散れ!!ランツェ・マシーネンゲヴェーア!!」
無数の闘気の刃が機関銃のように楓へと襲いかかる。リロードの無い弾丸が延々と楓へと撃ち続けられる。クリヴァルの前方を完全に覆っているので回避も防ぐ事も不可能。蜂の巣になる未来しか想像出来無い。少なくともクリヴァルはそう思っていた。
だが、クリヴァルは背後からの凄まじい殺気に気づいてしまう。
新手か…?いや、それは無い。一対一での戦いに乱入する者など許されるわけが無い。
では楓の仲間による恨みの感情か…?いや、それも無い。会場中から感じる気配の数は先程と変わっていない。それにより新手の乱入も完全に否定される。
とすると自身に対する殺気を出す者は一人しかいない。クリヴァルはそれを理解した。そしてそれも理解した、自身の敗北を。
天使の翼を羽ばたかせた楓がクリヴァルの背後をとる。ゼーゲンを高々と振りかぶり、後はそれを降ろすのみとなった。
「見事也、セリザワカエデ。」
「あなたのおかげで私はさらに強くなれた。感謝するわ。ありがとう、槍王クリヴァル。」
天使による裁きの一撃が振り下ろされ、槍王クリヴァルはここに沈黙する。
終わってみれば圧勝、擦り傷一つつく事も無く楓の圧倒的なまでの圧勝で入替戦第4戦の幕は閉じた。
『入替戦第4戦はセリザワカエデサマの勝利とさせて頂きマス。』
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クリヴァルとの戦いを終え控え室へと戻る。戻る最中にタロウさんに目を合わせると微笑んでくれた。それだけで嬉しくなってしまう私って結構チャロいわね。
「お疲れ様です。凄まじい技量でしたね、感服致しました。それにあの天使のような姿はなんでしょうか?あの翼が現れてから楓さんの速力が段違いに上昇致しました。私の目では追えない程です。スキルではありませんよね?」
そう言いながら牡丹ちゃんが出迎えてくれる。牡丹ちゃんはエンゲルを持っていないのね。エンゲルは相当レアリティの高い特殊装備なのかしら。
「アレはエンゲルという特殊装備よ。ゼーゲンみたいなものだと思う。トート・ツヴィンゲンで入手したのよ。」
「特殊装備…?そのようなものがあるのですか?知りませんでした。」
特殊装備は認知されていないの…?そうなると所持者は相当少ないという事か。あまりここでひけらかさない方が良かったのかもしれないわね。
「か、楓ちゃん!!」
牡丹ちゃんと話していると綿矢みくが興奮したように私へと詰め寄ってくる。
「ウチ、感動したよ!!女の子でもあんな事ができるんだね!!凄いよ楓ちゃんは!!」
「あ、ありがとう…!」
私を見る綿矢みくの目が尊敬の眼差しをしている。女の子からそういう目で見られるなんて初めてね。いつも嫉妬や憎しみの目でしか見られた事が無かったから何だか嬉しいな…
「ねね、お友達になろ!連絡先交換しよ!牡丹ちゃんも!」
「私もよろしいのですか?」
「もちろん!ウチらは女の子チームなんやから!ウチの事はみくって呼んでねー!」
「わかったわ、よろしくね、みくちゃん。」
ウフフ、友達ができるのっていいわね。このゲームをやってたくさんの友達ができた。なんだか不思議ね。
「芹澤楓。」
私たちが連絡先交換をしていると橘が私に話しかけてきた。
「先程の戦い見事であった。お主の剣技も素晴らしい。」
不要な会話を一切しなかった男が話しかけてくるのは凄く意外だった。
「どうもありがとうございます。」
「”闘神”同士が戦えぬというのは無念だ…いつかお主と剣を交えてみたいものだ。会話に割り込んで失礼した。御免。」
なんだか武士みたいな人ね。あ、どこかで会った事ないか聞けば良かった。
『でハ、入替戦第5戦を開始致しまス。サワノヒロユキサマ、どうされますカ?』
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