第128話 入替戦 楓・牡丹 side 2

強い。時空系アルティメットを使用する相手に触れずに勝つなんて事をやってのけるこの男の力は異常だ。初見からこの男は危険だと感じていたがここまでとは思わなかった。”闘神”同士が争うのは禁止というルールがあるのは非常に助かる。蘇我とは戦いたく無い、それが本音だ。だがそれもいつひっくり返されるかわからない以上は楽観的に考える事は出来ない。蘇我への対抗策も考えておく必要がある。蘇我のスキルを解明しなければ勝利への道筋が見えない。何か手がかりでも見つけないと。


「…牡丹ちゃん、あの男のスキルどう思う?」


私は牡丹ちゃんへ意見を伺った。彼女なら何かに気づいたかもしれない。私たちで対抗策を練る事でクランへの脅威を取り除かないといけない。


「そうですね、全容を掴むのは難しいですが、猪狩という男の首を折る時に蘇我さんの右手の人差し指が僅かに動きました。」


「人差し指が?」


「はい。ほんの一瞬だけ動いたのです。恐らくはそれが引き鉄となっているのだと思います。即死型の攻撃では無く遠隔操作型の攻撃と見て良いでしょう。」


あの一瞬でそこまで見抜くなんて凄いわね。やはりこの子も相当な実力者である事は間違いない。


「流石ね、私は何も気づけなかった。」


「角度の問題ですよ。楓さんの角度からでは右手が見えなかった。それに楓さんが左側を見ていて何も変化を感じ無かったからこそ右手の人差し指が引き鉄と進言出来たのです。私たち2人の連携ですよ。」


「ウフフ、全く牡丹ちゃんは可愛い事を言うんだから。帰ったら抱き締めちゃうからね。」


「ふふふ、それは楽しみです。」


牡丹ちゃんのおかげで蘇我のスキル解明への糸口が見えた。右手に注意を払えばそれを防ぐ手立てはあるという事だ。それ以外に発動条件があれば苦しくなってしまうが継続して蘇我のスキルを注意深く見ていこう。


入替戦を終えた蘇我が控え室へと戻って来る。気だるそうに自席へと着き、いつものように目を閉じる。だがそんな蘇我にツヴァイが声をかける。


『”アレ”は使わないのデスネ?』


ツヴァイの問いかけに蘇我は目を開き答える。


「わざわざ使う程の相手でも無いだろ。それに他の連中に手の内を晒す事も無いしな。」


『なるホド。用心深いのデスネ。』


ボソボソと喋っているのでよくは聞き取れない。何の話をしているのだろうか。だがゼーゲンで身体能力を強化されているのに聞き取れないというのは変だ。意図的にフィルターをかけられたと考えるのが自然だろう。考えてもわからない事は考えるのをやめよう。それよりも他に意識を集中させるべきだ。


『第2戦に移りましょうカ。序列2位タカサカリョウヘイサマ、誰を指名致しますカ?それとも回避されますカ?』


「当然やらせてもらう。島村牡丹、お前だ。」


高坂と呼ばれる男が立ち上がり牡丹ちゃんを指名する。高坂良平…どこかで…そうだ!思い出した!


「高坂良平、一年前に女子高生を監禁暴行し警察に逮捕されたが証拠不十分で即日釈放された男。風貌も一致している。間違いない。」


『良く御存知デスネ。その通りデス。』


私の呟きにツヴァイが反応を示す。


『セリザワサマが仰るようにあの男は監禁暴行をしていた性犯罪者デス。ですが親の権力でそれを揉み消しタ。余罪は沢山アリマスヨ。』


「…犯罪者だってこのゲームはできるって事ね。」


『もちろんで御座いまス。俺'sヒストリーへの参加権利は皆様に平等に与えられまス。例え犯罪者デモネ。』


私が弁護士として活動し始めた時にその事件は起こった。現行犯で逮捕された為、冤罪の可能性は無い。それでもあの男は何のお咎めもなかった。性犯罪を犯しただけでも許せないのに即日釈放をされて物凄い憤りを感じたのを今でもはっきり覚えている。あんな男は絶対に許さない。


「なるほど、つまりは女の敵というに相応しい者という事ですね。」


牡丹ちゃんが立ち上がる。穏やかな表情をしているがその眼には怒りが宿っている。


「気をつけてね牡丹ちゃん。犯罪者相手には油断や情けは禁物よ。」


「心得ております。被害者がどれだけ悔しい思いをしたか考えるだけで胸が苦しい…そのような蛮行を行う者には私が天誅を下しましょう。」


牡丹ちゃんが鞘からゼーゲンを引き抜き、戦場へと赴こうとする。


「牡丹ちゃん!頑張りや!そんな男に負けたらアカンで!ウチらは女の子チーム!!応援しとるからな!」


綿矢みくが牡丹ちゃんへと声をかけ激励する。この子悪い子じゃないわよね。普通に好感が持てるわ。


「ありがとうございます綿矢さん。」


牡丹ちゃんが綿矢みくに礼を述べ、バトルフィールドへと降り立った。




*************************



なるほど、剣闘士にでもなったような感じですね。このような場所で戦う機会など現代ではまずありえないでしょう。いささかワクワクしている私がいる。それは彼の前でカッコいい所を見せたいという打算的な考えがあるからかもしれない。私は目線を彼の方へと合わせる。目が合った。彼の考えている事が簡単に読み取れる。『頑張れ』彼はそう言っていた。

ふふふ、不思議なものね。彼の視線を独り占めしているかと思うと力が湧き上がってくる。この男がどんなスキルを持っていようと負けるはずがない。


「ヒューッ!!近くで見るともっとイイオンナだな。とっても美味そうだ。」


高坂が私を舐めるような目で見てくる。


「芹澤もイイオンナだし、綿矢ってのも捨て難いけどよ、やっぱりお前がピカイチだよ。その大人しそうで清楚な感じが堪らねえな。芹澤はあの生意気そうな顔がダメだし、綿矢は遊んでそうだからな。やっぱ清楚こそが至高だろ。」


典型的な欲に塗れた男、彼以外の男性などこの世に不要ですね。


「大人しく俺の奴隷になれば痛い思いはしなくて済むぜ?痛いよりも気持ちイイ方がいいだろ?人間らしい生活の保証はしてやるぜ?」


「申し訳ありませんが私の身も心も魂も一人の男性に捧げております。貴方のような下賤な輩には髪の毛一本たりとも差し上げるわけには参りません。」


「言うねぇ。尚更モノにしたくなったぜ。力ずくで言う事聞かせてやるよ。」


高坂がスキルを発動させ金色のエフェクトを纏う。


「俺のスキルは強化系だ。だがな、強化系のダブルだ。その効果は絶大だぜ。時空系の奴だって始末したんだ、謝って俺の性奴隷になっといた方がいいんじゃねぇか?」


「ふふふ、なぜ私が謝らないといけないのでしょうか?」


「…顔に似合わず生意気なんだな。おし、ならいたぶってやるか。」


高坂がラウムから手甲を取り出す。それを手にはめると同時に金色のエフェクトが輝きを強める。


「俺はセックスも大好きだが女を殴るのも大好きなんだ。たっぷりと楽しませてもらうぜ。」


「正に絵に描いたような下衆ぶりですね。貴方のような輩には情けなど一切無用です。死んでもらいましょう。それが世の女性の為になります。」


スキルを発動し私の身体に金色のエフェクトが現れる。そして上空に魔法陣を出現させ、スキル効果を解放する。


「貴方にはこのスキルで十分です。見せてあげましょう《水成》の美しき様を。」

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