第127話 入替戦 慎太郎 side 1

闘技場みたいな場所へと移動させられると正面には楓さんと牡丹がいた。蘇我夢幻の奴もいやがるから正面にいるプレイヤーは”闘神”に間違い無いだろう。あのイケメンスカし野郎ホント気に入らねぇ。ちゃっかり楓さんの横に座ってんじゃねぇよ。ブチ喰らわすぞ。


「ほっほっほー!!楓ちゃんがおるやん!!”闘神”たちっちゅう事やな。楓ちゃんの横のお姉ちゃんもエェなぁ。それに端っこのお姉ちゃんも唆るわ。うーん、処女のエェ香りや。」


そもそも何で澤野の奴がいるんだ?実績に応じてこの7人は集められたらしいが澤野が実績を挙げたのか…?そうなるとクランイベントの時とバディイベント、そしてこの前の強制イベントの時にコイツに何かしらの力を得る機会があったという事だ。それ以前のコイツは決して強くは無かった。楓さんに完膚なきまでに叩きのめされ片目と片腕を失ったのだ。そうなるとコイツがアルティメットを持っている事はほぼ間違い無いだろう。注意を払う必要があるな。


それにさっきの部屋で説明された内容の通りなら俺たちは”闘神”と戦わなければならない。正確に言えば戦う権利がある。恐らくは”闘神”に勝てばその地位を奪える入替戦をやるんだろう。誰と戦うかまでは知らされなかったが”闘神”が眼前にいる以上は彼らと戦うと考えるのが自然だ。

俺たち側の方を仮に挑戦者とするが、澤野を含めてかなりクセのありそうな連中だ。楓さんと牡丹の実力からして負けるとは思わないが心配なのは確かだ。何事も無ければいいが。


『聞こえますカ?』


俺たち側の方にツヴァイが話しかけてくる。話しかけてくるといっても大声でこちらへ向けて話しかけてくるわけではない、俺たち側の控え室にスピーカーのようなものでも内蔵されているのだろう。それからツヴァイの声が反響しているのだ。


『只今より入替戦を行いマス。先程御説明させて頂きました通リ、序列の高いプレイヤーから戦いたい”闘神”を指名する事が出来まス。もちろん戦いを避けて次回に備える事も出来まス。でハ、序列第1位イガリサトシサマ、誰を指名致しますカ?それとも回避されまスカ?』


一番左奥に座る男、猪狩が序列1位なのか。そう考えると俺は6番目、澤野は5番目って事か。コイツより下ってのが納得いかねぇな。


「当然やらせてもらう。俺様の力をしっかりと知らしめてやるよ。」


猪狩は30代ぐらいの恰幅の良い男だ。人相も悪い。前科のありそうな危険な雰囲気を醸し出している。


「俺が指名する相手は”闘神”の序列1位の野郎だ。蘇我っつたか?テメェだよ。降りて来い。」


猪狩は蘇我を指名する。よし、俺はお前を応援してやるぞ。そのイケメンスカし野郎を叩き潰してやれ!!


『かしこまりましタ。では入替戦第1戦目を開始させて頂きマス。イガリサトシサマ、ソガムゲンサマ、バトルフィールドへと降りて下さイ。』


ツヴァイに促され猪狩が控え室からバトルフィールドへと飛び降りる。羽織っていたガウンみたいな上着を脱いで上半身裸になり関節を鳴らして戦いに備えている。


対する蘇我は相変わらずのスカした態度でポケットに手を突っ込みながらバトルフィールドへと飛び降りる。その態度が気に入らねぇ。


「”闘神”に選ばれ、序列が1位だからって勘違いしちゃいけねぇぞ?上には上がいるんだ。それをこの俺がしっかりと教えてやる。丸坊主にして俺の舎弟になるってんなら殺すのだけは勘弁してやってもいいぜ?」


猪狩が自信たっぷりに蘇我を挑発する。よし頑張れよ猪狩。俺は応援してやるぞ。


「お前は明らかに世界に不要な側の人間だな。存在しているだけで世界に対する害だ。即刻消えてもらおう。」


中二臭い事言ってんじゃねぇよ。お前絶対指出しグローブとか持ってんだろ。


「俺は時空系アルティメットを使うんだぜ?知ってんだろ?時空系がアルティメットの中で最強、それだけで他を圧倒できるんだ。俺は肉体的な力でも他を圧倒する程の力がある。そんな俺が時空系アルティメットを手にすれば最強そのものだ。勝てる奴なんているわけがねぇんだ。」


なんかフラグくさい喋り方してるよなコイツ。このスカし野郎の引き立て役になるのだけはやめてくれよ。


「解説は終わりか?ならそろそろ始めよう。お前が呼吸をしていると地球に迷惑がかかる。それだけで罪だ。」


「その口がどこまで叩けるのか見ものだな。」


猪狩が金色のエフェクトを発動させ、上空に魔法陣を展開させる。時空系というのはハッタリではないようだ。


対する蘇我も金色のエフェクトを発動させ、上空に魔法陣を展開させる。コイツも時空系か。”闘神”序列第1位は伊達じゃないって事か。


「ほう。テメェもか。面白い。お前に先に攻撃をする権利をやる。さぁ、来い。遠慮はするな。それでテメェと俺の差ってやつを教えてやる。」


やめろよ。それ絶対フラグだろ。噛ませの匂いがプンプンすんだけど。


「オラ!!ビビってんのか!!さっさとーー」


挑発してる最中に猪狩の首がゴキッという音を立てて曲がってはいけない方向に曲がる。体からは金色のエフェクトがかき消え、瀕死の状態に陥っている。

やっぱりフラグじゃねーかよ。つーか強えな。圧倒的だ。タネがわからねーけど相手に触れずに一撃で倒すとかってかなり危険なスキルだぞ。コイツと戦うとして俺の愛しのバルムンクなら勝てるのかな?スキルを見切れるのかな?


「カカカカカ!流石は”闘神”最強の男やな。やっぱ格が違うわ。アレは化け物やな。」


「最強…?」


澤野の言葉につい反応してしまった。序列というのはあくまでもトート・ツヴィンゲンでの戦功によるもので決まったはずだ。実力での格付けでは無い。それなのになぜ蘇我が最強だと言い切れるのだろうか。


「そうやで。蘇我夢幻は”闘神”最強や。」


「なんでそう言い切れるんだ?」


「ワイにはとある所から情報が入って来るんや。表向きは”闘神”が最強の称号になっとるが裏では”五帝”ってのが最強の称号になっとるんや。」


「”五帝”?」


「そうや。裏で俺'sヒストリーの中での最強のプレイヤーたちをそう評してるんや。その内の一人があの蘇我夢幻や。」


そんなんがあるのかよ。俺らって情報に疎いよね。どうやってみんな情報仕入れてるんだろう。


「楓ちゃんも”五帝”やで。」


「え?そうなの?」


「ああ。”闘神”でも蘇我夢幻、芹澤楓、島村牡丹は別格や。その3人は”五帝”に入っとる。」


牡丹もかよ。まぁ牡丹はそりゃそうだよな。ぶっちゃけ楓さんより強いんじゃねぇの。牡丹の強さってちょっと異常だと思ったもん。チートって感じ。”具現”が異常に強いんだろうな。優吾の野郎とウールヴヘジン10体がゴミのようだったもんな。俺とバルムンクさんが必死に倒したウールヴヘジン10体を瞬殺だもんな。納得いかないよな。


「それに矢祭凱亜、天栄王武って奴らが”五帝”の座に君臨してるんや。」


だからなんで男どもはキラキラネームなんだよ。夢幻に凱亜に王武って。親はどんな想いを込めて名付けたんだよ。


「ま、それも今だけや。その下も凄い奴らがぎょうさん現れとる。虎視眈々とその座を狙てんねや。オレヒスの世界は目まぐるしく変化しとる、シンさんも乗り遅れないようにせなアカンで。それに美波ちゃんもちゃんと守ったらんとな。ワイが頂きに行くまで他の奴に取られるなんて事があったら承知せぇへんで。」


「お前にごちゃごちゃ言われる筋合いねーよ。美波は渡さない、当然お前にもだ。」


澤野はフンと鼻を鳴らし俺との会話をやめる。美波だけじゃない、楓さんもアリスも牡丹も誰にも渡さない。その為には俺が強くなるしかねーな。みんなを守れるだけの力を得るしかない。



『入替戦、第1戦はソガムゲンサマの勝利とさせて頂きマス。』

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