第124話 お義母さん
スゲェな。やる事があると寝坊助の俺でもバシッと起きる事ができるぞ。それに昨日は楓さん騒動のおかげで隙ができたから出すもん出してスッキリする事ができた。くぅー!!やっぱりスッキリすると煩悩が無くなって体も軽やかだぜ。
それにしても制服牡丹の破壊力は半端無かったな。おかげさまで連射してしまった程だ。お世話になりました。
それでも周りを見ると楓さん以外のメンバーはもう部屋にはいない。みんな活動中という事だ。まだ土曜の7時なのに。
チラッと楓さんの方へ目をやると案の定寝巻きが乱れている。ブラの肩紐が見えてるしヘソも見えている。エロいな。無防備すぎだろ。俺が襲いかかったらどうするつもりなんだ。楓さんいいよなぁ。スレンダーボディが堪らん。ぶっちゃけ貧乳も大好きなんだよね。Bカップの楓さんの胸揉みてぇなぁ。
そんな事を考えながらエロい目で楓さんを見ていると。部屋にアリスが入って来る。
「あ、起きてたんですね。おはようございます。」
「おはようアリス。今日も可愛いな。」
俺がそう言うとアリスは嬉しそうな顔をする。本当にアリスは可愛いな。
「もうすぐ朝ごはんができます。楓さんは…どうしましょうか?」
「寝かせておいてあげよう。後で薬箱の中にある二日酔い用の薬をこのダメなお姉さんに飲ませてあげて。」
「そんなのありましたっけ?」
「いつかこうなるだろうと思ってたからこの前買っておいたんだ。」
「流石タロウさん!」
全くこの人にも困ったもんだ。ギャップが凄いよな。でもぶっちゃけそこが可愛いとも思っちゃうけど。
「それと今日さ、俺はこの後牡丹と一緒に店に行って来るよ。」
「お花屋さんですか?」
「ああ。それで水やりだけやったら牡丹のお母さんに会って来るよ。未成年の子をここに住まわせてるわけだからちゃんと挨拶をしないといけないからさ。」
「そうですよね。わかりました。」
「それが終わったら牡丹の服とか買いに行って来るよ。年頃なのに使い古した服しかないなんて可哀想だからさ。」
「タロウさんは優しいですね。」
「そんな事は無いよ。アリスの言う『優しい』はアリスたちだけにしか俺はしないから。」
「それは十分に優しいと思います。」
「アリスも優しいな。」
俺はここぞとばかりにアリスの頭を撫でる。このほのぼのした日常に幸せを感じてしまうな。
「今日は美波もサークルがあるみたいで夕方まで帰ってこれないみたいだから楓さんの事頼むね。」
「はい!任せて下さい!」
「俺たちも夕方に戻って来るからそうしたらみんなで夕飯食べに行こうよ。アリスは何が食べたい?」
「そうですね…我儘を言わせてもらえれば焼肉を食べてみたいです。まだ一度も食べに行った事が無いので。」
「オッケー。じゃあ焼肉行こうか。」
「いいんですか?」
「もちろん。良いお店探しとくよ。」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
「おう、じゃあ朝ごはん食べようか。」
*************************
「水やりはこれで終わりになります。後は夕方にもう一度やれば花は大丈夫です。」
「やっぱ水やり難しいな。」
俺の水やり生活2日目の朝は特に進歩も無く終了した。こんなに水やりが難しいとは思わなかった。
「ふふふ、何事も慣れです。では私はこのまま開店作業に入ります。手伝って頂きありがとうございました。」
「あ、悪いけど今日は店はお休みしてもらえるかな?」
「え…?どうしてでしょうか…?」
「このまま牡丹のお母さんに会いに行こう。」
「それは…結婚の挨さーー」
「いや、違うから。」
俺が言葉を遮ると牡丹は少し不満そうな目をしている。全く牡丹にも困ったもんだ。
「親御さんの承諾も無しに大事な娘さんをオッさんの家に住まわせてるんだ、ちゃんとご挨拶に伺わないといけない。本来は先に言わないといけないからお叱りを受ける事は覚悟しないとな。」
「そんな事をして頂かなくても母には昨日私から伝えたので大丈夫ですよ。」
「ダメダメ。これは礼儀なんだから。だから悪いけど今から行こう。」
「私としてはお断りする理由が無いのでタロウさんに従います。むしろ母に会って頂けるのであれば好都合です。」
「はいはい。手土産何がいいかな?果物だと病院で食べるの実際面倒だろうからやめた方がいいと思うんだよね。」
「なるほど。確かに洗ったり包丁で切ったりするのは面倒かもしれませんね。ですが手土産など要りませんよ。そのような気は遣わないで下さい。」
「ダメダメ。手ぶらでお見舞いと挨拶だなんて失礼極まりないだろ。お母さんに良い印象持たれなくなってしまう。」
「つまりタロウさんは母に好かれたいと…?」
「…牡丹が俺に何を言わせたいか理解したけどそりゃあ好かれたいだろ。」
「ふふふ、その言葉を聞けて満足です。」
「はいはい。和菓子なんてどうかな?牡丹のお母さんは好き?」
「母はどら焼きが大好物です。ちなみに私もどら焼きは大好物です。隣町の湯沢にある『ドラ吉』のどら焼きは絶品です。そちらを持って行かれれば母はご機嫌になる事は間違い無いかと。」
「じゃあそれにしようか。ドラ吉に行って病院に向かおう。」
*************************
車を走らせて湯沢へと向かうと、どら焼き専門店とでも言いたげな看板を掲げている和菓子店を発見する。看板がどら焼きなのだ。なかなか斬新なデザインだな。
「ドラ吉って書いてあるからここで間違い無いよね?」
「間違いありません。ここに来るのは久しぶりです。」
牡丹を見ると心なしか興奮しているように見える。可愛い。このままお城のようなホテルに連れ込みたい。よっぽどどら焼きが好きなんだな。
駐車場に車を停めて俺たちは店内へと入る。店内にはどら焼きだけではなく、カステラや団子といった物も置いてあった。どら焼き専門店では無いようだ。だが色々などら焼きがあるのは確かだ。オーソドックスな粒餡に栗入りどら焼き。抹茶餡や苺餡といったものまである。
「色々と種類があるな。お母さんはどれが好きかな?」
「母も私も定番の粒餡が大好きです。漉餡では味わえない粒を口の中で潰す時に広がる食感と風味がなんとも言えません。」
「じゃあ粒餡にしようか。賞味期限は2週間ぐらいだろうからこの10個入りので大丈夫かな。それと家用に30個入りのを買おう。」
「よろしいのですか?」
目をキラキラさせながら言うんじゃない。病院行く前にお城に連れ込むぞ。
「それと今食べるようにバラを2個買おうか。俺も食べてみたいし牡丹も食べたいでしょ?」
「はい!是非!」
こんな牡丹は初めてだな。この反応はどら焼きだけなのかな?それとも和菓子全般が好きなのだろうか?今度試してみよう。
「オッケー。すみません、この30個入りのを1つと、10個入りを1つ。それとバラで粒餡を2つお願いします。10個入りのだけ別にしてもらえますか?」
「かしこまりました。お会計6804円頂きます。」
「7000円でお願いします。」
「お預かり致します。196円のお返しとこちらお品物になります。ありがとうございました。またお越し下さいませ。」
俺たちは車へ戻りさっそく牡丹オススメのどら焼きを食べてみる。
「ほい、牡丹の分。」
「ありがとうございます。久しぶりにドラ吉のどら焼きを口にするのでワクワクしています。」
可愛い。俺のモノも口にしてもらいたい。
「じゃあ早速食べようか。」
「はい、頂きます。」
俺たちはどら焼きを口にする。
…美味い。確かにこれは美味い。皮がしっとりとしている。シロップにでも浸してあるのかってぐらいのしっとり感だ。そしてこの餡がまた美味い。濃厚さもさる事ながら脳天に突き刺さるような上質な甘さが舌から伝わってくる。
「…コレ美味いな。俺史上、最高のどら焼きだ。」
「気に入って頂けたようでなによりです。ん…美味しい…」
…こっちの牡丹の花も美味しそうだよな。花の蜜を吸い上げたい。
いやいや、今から牡丹のお母さんの所へ行くのにいやらしい事を考えるのはやめよう。悟りだ。悟りを開くのだ。
「よし、それじゃあ出発するか。」
*************************
病室の前へと着く。やっべ、結構緊張するな。そもそも何て言えばいいんだ?お嬢さんを下さい?いやいや、それじゃ結婚の挨拶だろ。え?なんて言えばいいんだ?てか怒られたらどうしよう。少女誘拐で逮捕とか?あれー?牡丹のお母さんが怒ってたらマジで逮捕もありえるんじゃね?
「どうかしましたか?」
そんな事を考えて病室へ入るのを躊躇っていると牡丹が心配そうに俺の顔を見てくる。何をやってんだ俺は。牡丹に心配かけさせるな。男の俺がしっかりとしないとな。よっしゃ、行くぜ!
「いや、大丈夫だよ。よし、行こう。」
俺は覚悟を決めて病室の扉を開けた。牡丹が奥の窓側へと向かって行く。カーテンで仕切られているので牡丹のお母さんの様子は見えない。腹はくくったが心臓がバクバクいって破裂しそうだ。
「お母さん。」
「牡丹?どうしたのこんな時間に?」
「今日はね、タロウさんがお母さんにご挨拶したいって。」
「え?」
牡丹が俺に目で合図を出すのでカーテンの中へと入る。
「島村さん。きちんとしたご挨拶は初めてですね。初めまして。田辺慎太郎と申します。」
「田辺さん!!この度は本当にありがとうございました!こんな格好で申し訳ございません!なんとお礼を申し上げていいか…」
牡丹のお母さんが起き上がろうとするので俺はそれを制止する。
「島村さん、楽になさって下さい。それにお礼を頂くような事を私はした覚えはありません。私はフラワーショップ島村の花を買っただけです。長期契約ですよ。」
「田辺さん…本当に娘からお伺いしている通りの方なのですね。わかりました。田辺さんがそう仰るのでしたら私はそのお言葉に甘えさせて頂きたいと思います。本当にありがとうございます。」
「いえ、お気になさらないで下さい。すみません、これつまらないものですがお納め下さい。」
俺は先程ドラ吉で買ったどら焼きを牡丹のお母さんへと渡す。もちろん袋から出してだ。俺は作法のわかる男なのだ。
「ま!ドラ吉のどら焼きじゃありませんか!」
「牡丹さんからお好きだとお伺いしましたので。喜んで頂けたら幸いです。」
「あらあらあら!仲がよろしいんですね!」
牡丹のお母さんが少し意地悪っぽい感じで言ってくる。
「お、お母さん!」
「なーに牡丹ちゃん?タロウさんがいると表情も随分と違うのねー、お母さんびっくりしちゃった。」
「いいから!そういう事言わないで!」
気さくなお母さんだな。良かった。怒られて通報されるかとも思ったけど大丈夫っぽいな。この流れで言っちゃうか。
「それとですね…事後報告になってしまい申し訳ありませんが…」
「え?まさか子供ができたの?」
「お母さん!!」
「はいはい。ごめんなさい。」
なんか随分と牡丹とは違うタイプのお母さんだな。
「一昨日から牡丹さんを私の家でお預かりしております。未成年の牡丹さんを親御さんがお留守にされている隙に家に連れ込むような事をしてしまい大変申し訳ございません。ですが島村さんに言えないような事はしておりません。牡丹さんには食事を作ってもらったりはしておりますがそれ以外にーー」
「大丈夫ですよ。」
俺が話していると牡丹のお母さんがそれを遮る。
「昨日娘からも聞きました。それに田辺さんと直にお会いして娘を傷つけるような事をする方だとは到底思えません。信頼しております。娘の事をよろしくお願い致します。」
牡丹のお母さんが深々と頭を下げてくるので俺も深く頭を下げた。
「お任せ下さい。」
「来年には判子を押させますね。」
……え?なんだって?
「すみません、今なんと…?」
「来年には牡丹に判子を押させますから待っていて下さいね。あ、まだ18じゃなくても結婚できるんでしたっけ?なら今押させましょうか?」
「お、お母さん!?何を言ってるの!?」
「えーだって牡丹ちゃんはタロウさんの事大好きなんでしょー?」
「それは…」
牡丹が俺をじっと見ている。なんかマズイぞこの空気は。俺の第六感あたりが何か警告してるぞ。話を変えよう。
「あの、島村さん、そーー」
「お義母さんと呼んで下さい。」
…わかる、わかるぞ。お母さんではなく、お義母さんだった。脳内に直接字が浮かび上がってくる圧力を感じる。危険だ。なんとか…なんとかせねば…
「そのですね、島村さーー」
「お義母さん。」
「しまーー」
「お義母さん。」
「…お義母さん。」
「はい、なんでしょう?」
ええ屈しましたよ。圧力に屈しましたよ。それが何か?
「ちょっとその…牡丹さんはまだ学生ですので…」
「じゃあ卒業したら判子押させますね。」
「いやその…先の事はわからないというか…」
「あら?タロウさんは牡丹の事を何とも思っていないのですか?」
痛い所を突いてくるな。まさか牡丹をオカズにした事バレてんじゃないだろうな。
牡丹に助けを求めようとしてもこっちをガン見して答え待ちの様相を見せている。ダメだ、牡丹は敵側のようだ。これは困ったぞ。この母親言質取る気満々だ。
でも待てよ?親公認ならいいんじゃね?それなら完璧犯罪にならないから牡丹の花弁を探して雌しべにナニをする事もできる。このままお城のようなホテルに行っても構わないわけだ。あれ?問題無いんじゃね?でも何だか俺の第六感あたりが警告するんだよな。ここでそれをやったら大変な事になる気がする。
「…牡丹さんの事は正直私も大好きです。ですが彼女はまだ若い。この先に何かやりたい事や考えが変わる事もあると思います。それなのに私がいる事で人生を縛ってしまう事はしたくない。学生生活が終わってそれでも彼女の気持ちが変わらなければ私も真剣に考えたいと思っています。すみません、今の私ではそれが精一杯の答えです。」
「だって、牡丹ちゃん。よかったわね、タロウさんもあなたが大好きだって。」
牡丹を見ると顔を真っ赤にして俯いている。可愛い。
「タロウさんの誠意は伝わりました。意地悪な言い方して申し訳ありません。でもわかって下さい。娘の事が大事だからあなたの気持ちを知りたかったんです。」
「それは十分に理解しています。彼女を傷つけるような事は致しません。」
「わかりました。タロウさん、娘をよろしくお願い致します。」
「こちらこそよろしくお願い致します、島村さん。」
「お義母さん。」
「え?」
「お義母さん。」
あかん。顔は笑ってるけど目が笑ってない。
「…よろしくお願い致します、お義母さん。」
ーー慎太郎は理解していない。美波もアリスも楓も慎太郎が大好きな事を。そして今日の一件が後に彼女たちに露呈し、4人からの求愛を受ける事になる事を慎太郎はまだ何も知らない。
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