第120話 会合 弐

暗黒の空間の中に円卓と7つの椅子がある。時間が経過するとともにその椅子が1つ、また1つと埋まっていく。だが全ての椅子が埋まる前にその会合が始まった。


『揃ったようだな。では始めようか。今回の強制参加イベントは無事に成功を収めた。これも皆の尽力の賜物だ。御苦労であった。』


円卓の中央に座するモノが他の参加者に対しそう述べた。このモノがリーダー格なのだろう。きちんと背もたれに寄り掛かっている他のモノたちとは違い、手にしている大剣を杖代わりに使い、カラダを前のめりにしている。態度の大きさがそのモノの格を表しているのだろう。


『成功とは言えるんですか?ドライが掻き回したせいでリッターが一名消える事になったのですよ?』


『四ツ倉優吾の事か?爵位も与えられていないリッターが消えた所で特別大きな問題でも無ぇだろう。』


『でも島村に消されたんですよ?優吾は爵位こそ無いが正式なリッターだ。それが”闘神”如きに敗れたのが問題ですよ。』


『だが島村は”具現”が出来たとの報告だ。フライヘルの爵位を与えてもいいぐらいだろう。あの女は素晴らしい。”闘神”などにして置くのは勿体無いぐらいだ。』


『確かにヒュンフの言う通りですね。島村の美貌も含めて”贄”に相応しいですよ。』


『今はそんな話をしてる訳では無いですよ。僕が言っているのはそれだけの力を持つ者が芹澤のクランに入った事が問題なんです。』


『あぁん?そんな話は初耳だな。島村は単独で動いてたんじゃねぇのか?』


『強制参加イベントの最後に芹澤のクランに加入しましたよ。』


『芹澤のクランってぇと、例の田辺って野郎の所か?ん?確かソイツんトコに剣王とマヌスクリプトもあったんじゃねぇか?』


『そうですよ。だから問題なんです。』


『それは確かに問題だな。爵位持ちのリッターでないと制圧出来ない戦力…いや、芹澤あたりはそろそろ”具現”を会得しやがるだろ。他の奴らも会得しやがったら逆にこっちがやられんじゃねぇか?ガハハハハ!!!』


『笑い事じゃありませんよ。その可能性は決して低く無い。それに他との戦力バランスが崩れています。プレイヤーの中で五指に入る島村と芹澤が同じクランにいるだけで俄然有利だ。ゼーゲンの供給が”闘神”へ定期的に与えられる以上他との差はどんどん開いていきます。これは平等とは言えない。』


『なるほど。ゼクス、キミの主張は理解した。』


傍観していたリーダー格のモノ、アインスが口を開く。


『ではこうしよう。予定より少し早いが入替戦を行う。それならば芹澤も島村も入替が起こるかもしれない。平等といえるのではないかな?』


『平等って言えますか?芹澤と島村が負ける可能性の方が低いじゃないですか。』


『それは彼女たちの実力だ。それは仕方があるまい。他のプレイヤーにゼーゲンを入手する機会を作ってやるだけ平等といえよう。それにイベントの難易度を上げれば下のプレイヤーも育つし、新規からも強者は生まれるだろう?現に”彼ら”が現れたではないか。』


『まぁアインスがそう言うならそれが全てですから従いますよ。』


『すまないな。ではこれがその7名のリストだ。皆、確認してくれたまえ。』


アインス以外の5体のモノたちが空中でタッチパネルのようなものを開きリストを確認する。その様は近未来的な映画のワンシーンのような光景だ。彼らの科学力が現段階の人類を遥かに超えている事を物語っている。


『オイオイ、アインスよ。田辺が入ってんじゃねぇか。コイツが”闘神”になったら尚更戦力が上がっちまうだろ。』


『これは戦功による評価を行なった上で決めたものだ。田辺慎太郎の活躍によって対象者になった、それだけの事だ。私は至って平等に話を進める。反対意見は許さぬ。』


『私は構わぬ。島村や芹澤のクランが強くなり、我らの計画を推し進めてくれるならそれに越した事はない。』


『僕も同意見です。彼らは”封印”を解く可能性がある。強くなって不都合は無いでしょう。』


『まァいいか。この件はいいとして蘇我はどうすんだ?アイツは得にならねぇだろ?そろそろ始末した方がいいんじゃねぇか?』


『彼は私が対処するから問題は無い。使えないと判断をすればサーシャかミリアルド、葵あたりに始末をさせるよ。』


『ならいいけどよ。じゃ終わりか?終わりなら撤収すんぜ?』


『ああ、皆御苦労だった。』


アインスとツヴァイを除く面々が空間から姿を消していく。


『では私も失礼させて頂くよ。』


『待てアインス。どうして田辺慎太郎に助け舟を出した?』


『助け舟…?そんなものは出していないが?』


『惚けるな。貴様の意見は我らの中で絶対だ。島村牡丹の加入を認めない事は出来たはずだ。それに田辺慎太郎の入替戦へのエントリーもだ。』


『フフフ、それはオルガニの為になると思ったからだ。他意はない。それに田辺慎太郎の実績を考えれば候補者入りは当然といえよう。』


『…そうか。ならば良い。』


『だが過度な肩入れは禁物だぞツヴァイよ。ドライのようになりたくなければな。では失礼する。』


そう言いアインスは去っていく。


『…貴様が何を企んでおるかは知らんが私にとっては好都合だ。これを上手く利用させてもらおう。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る